第11話 大臣の贖罪

「ここがアクトにお金を貸している人のお屋敷か?」

 信じられないという顔でブレイが立派な建物を指差す。


「そうだけど?」

「って、これ財務省の建物じゃん?そっかお前王国付きの賢者だものな」

 といいつつブレイは驚きを隠せないようだった。

「うん、毎月収支報告しているんだけど、厳しくてさ。そろそろ僕クビかもね」

 でも、覚悟を決めてかなきゃな。国庫にお金を返すのを遅らすのを許してもらえなければ、ミラル村の名誉復活なんて夢のまた夢だ。


「あのぉ、私ついて行っていいのかなぁ?」

 場違いと感じたのだろう、アンもあまりの荘厳な建物に不安そうだ。


「ドンと構えて行こう、僕らは勇者と聖女とそれを召喚した賢者なのだから」

 と僕は言った。ま、本物じゃないんだけどね?


 門番は僕の顔をみると「賢者様、どうぞお入りください」と挨拶した。


 「顔パスかよ?」

 とブレイ。


 ずんずんと奥の部屋を目指して歩く。大臣の部屋だ。

 ノックする僕。

 「アクトです。今月の収支報告に参りました!」

 

 するとしばらくして、

 「ああ、アクトくんか?入りなさい」

 と温かみのある初老の男性の声がした。

 「失礼します」


 僕たち三人は今ハインザーランド王国の財務大臣メルニッヒさんの前に居た。

 「今月もいい報告はできないのですが……」

 と恐る恐る返済の延滞を申し出ようとした時、メルニッヒのまゆが大きく動き、目を大きく見開いた。驚いている。

 「後ろの二人は?」

 「召喚した勇者と聖女です。一応の成果ですので」

 と説明する。


 と、その時だった。武器の携帯は許されてないはずなのに、ブレイがいつのまにか仕込みの短剣をメルニッヒの首元に突きつけていた。

あまりの素早い身のこなしに他の誰も静止の言葉をかける間もなかった。


「なにか言い残すことはあるか?十年前の国防大臣のメルニッヒさんよぉ?」

 とブレイは怒りを抑えつつ大臣を詰問した。


「ありますよ?いいわけなら山ほどね?それを聞く余裕ぐらいはありますか?」

とメルニッヒは平然としていた。さすが国防大臣をしていただけ肝が座っている。


十年前、軍はミラル村を裏切りの村と呼び、ミラル村を放棄しその周りに対魔人結界を張った。そのときの国防大臣が、今財務大臣をしているメルニッヒだったらしい。僕は世間知らずで知らずにいたけど。僕には良くしてくれているし悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。


「何からお話したら、首を切られずに済みますかね?ミラル村の生き残りたちよ?」

ブレイの短剣は震えていた。あの冷静なブレイが泣いているのか?

「村は裏切っていなかったのは知っているよな?汚名を着せられ抹殺された者たちの名誉にかけてお前は殺す!」

とブレイは宣言した。


「村には、しかし、別途精鋭を救援を向かわせましたよ?その命令を出したのも私です」

とメルニッヒはゆっくりとブレイに語りかける。


「『私は』村が魔物を呼んだわけではないのはわかっていました。しかし、兵士は違う。軍をあの場で迅速に動かすには嘘でもいいから犯人が必要でした」

「今もその嘘を続ける必要があると?」

 ブレイの手が小刻みに震え続けている。

「それはそうでしょう?魔王を召喚した犯人がわからない以上は……。」


「村に向かわせたのは精鋭だと言ったな?捨て駒の間違いじゃないのか?」

と問い詰めるブレイ。


「これは国家機密で内密にしていただきたいのですが、村は今も鏡面世界の中で健在ですよ?精鋭がキチンと仕事していれば、ですが」


そうか!そういうことか!

「ブレイ。鏡面世界は国家機密の魔法の鏡を媒体にして逃げ込める緊急の避難所だ!村はとりあえず無事だ」

とブレイに必死で呼びかける僕。


「えっ?」

 とブレイが気を抜くとその瞬間を逃さずメルニッヒは短剣を叩き落とした。


「とりあえず、いつ殺されるかわからないのは勘弁してもらいたいのでね?失礼」

 と落ち着いて挨拶する。


「そんな話?どうやって信じろっていうんだよ?」と泣き崩れるブレイ。

「とりあえず、ゆっくりご説明するお時間を取らせていただきましょうか?ブレイさん。罪には問いませんからご安心を。説明の内容は口外しないようお願いしますが。」

 メルニッヒは優雅に僕たちに席に座るように手で促した。















 





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