第10話 ただの夢、それとも?

 夢を見ている。

 あの高級店で完全に酔っ払っている僕の夢。


「アン=ミラルちゃん、僕は君のことが大好きだ!」

 僕は村一番のお嬢様だったアンちゃんに告白する。

 アンちゃんは僕を睨めつけると

「ミラルという言葉を出してはダメ!」

 と言う。


「僕は認めません。ミラルという言葉を堂々と言えない世界なんて!」

 と叫ぶ僕。


「ちょっと、アクトくん。店員さんにもし聞かれたらっ」

 慌てるアン。

「僕は好きな人の名前を呼べない世界なんて滅んでしまえばいいと思う」

 そうだ。なぜ好きな人の本当の名前を言うことができないのだろう。僕はただ好きな人の名前をキチンと口にして告白したいだけなのに!


「アンちゃん、僕はミラル村を救う賢者になると誓ったんだ!賢者だけがミラル村を救えるんだ!」

 あのとき女賢者だけがミラル村の救援に向かったという。僕は権力の中枢に近いところでそれを知ることができた。


「そっか、それで賢者になったんだ。アクトくんは……」

 泣きそうになるアン。


「でも、私死にたくない!裏切りの村ミラルに居たと知られたらっ」

 僕は笑ってアンの言葉を打ち消す。

「僕たちは裏切ってなんかいないさ、裏切ったのは王国だ」


 アンちゃん、僕は君を守る。そして、そのための呪いの言葉を呟く。

 彼女を守るにはこの呪いに頼るしかない。その呪文は

「もし僕以外の男が、アン=ミラルに指一本でも悪意を持って触れた場合、雷に打たれ死ぬが良い」


 愛すべき女性を守るための古代魔法だ。真に愛している相手にしか使えない上に、敵意のある男性にしか効果はない。限定的な呪いと言える。


 魔法語で言ったのでアンに意味はわからないだろうが……。

「君に護りの呪文を唱えたよ、君が悪意のある男に触れられたとしても大丈夫、魔法の雷によって死ぬから!」


 そっか、そういうことか。アンは確かに僕以外の男にはお嫁にいけない体に、僕にされてしまったわけだ。


 ああ、これは夢なのか?それともあの高級レストランで酔っていた僕の記憶なのか?うとうとしながらも、多分これがタダの夢でないことを僕は感じている。


 起きると。そこには心配そうに僕を見つめるアンの顔。


「うなされていたよ?」

 とアンは言う。


「僕なんか寝言言っていた?」

 ミラルという言葉だけは出してはいけない。それがルールだ。


「ううん、『何も』言ってなかったよ。気をつけてね?」

 気をつけてね?という言葉ですべてを悟る。


「うん、大丈夫『何か』を守るために僕は賢者になった。それを思い出してただけだよ」

 と言う僕。


「変な人。でもカッコいいよ?アクトくん……」


(ミラル村のことを思い出していた)

 とアンに伝える。

(わかっているよ)

 と応えが返ってくる。

(気をつけないとな……)


コンコンとノックする音。そういやブレイもこの塔に泊めたんだっけ。

「ブレイ?」

「あ、うん。俺だ。旅立つ前に色々作戦を練らないとな?」

「ちょっと待って、出るから」


寝室を出るとブレイの笑顔があった。

「よー新婚さん?よく眠れたか?」

「なんだかイヤラシイ聞き方だな?おい」

「もー、ブレイっ。止めてよ、昨日はちゃんと寝たから!!」

とアンは言ったあと。

「おい、変な想像すんなよ?元彼」

と釘を刺す。


「でもさぁ、なんか朝遅すぎだよ。賢者って、いつも昼近くまで寝てるんだ?」

実は結構不規則な生活でそう言う面がある事も否定できない僕。

「ごめん、自堕落で」


「新婚さんをからかうのはここまでにしようか?とりあえず、旅費とか装備を整える金が三人合わせてどれぐらいあるか?を把握しようぜ?」

うぅぅ。その話題になりますよね?できれば言いたくなかったぜ。


「俺は闘技場で稼ぎまくっているからな?と言いたいところだが、試合中の無断逃亡のせいで実はかなりきつい。絶対逃亡できないように違約金青天井なんだわ」

と妙に堂々と言うブレイ。


「ブレイって逃亡したのか?」

と聞く僕。


「ああ、誰かさんの魔法陣使ってな?」

あ、ああ。あれね。無断で試合中呼び出したやつね。あの日のプレゼンでね。


「私結構蓄えあるよ?全部貯金してたもん!1億グレアぐらいかな?」

とアンが言う。さすがのナンバーワン。


「で、アクトはどうなんだ?期待してるぜ?責任重大だしな?」

とチクチクいじめるブレイ。


「言いづらいですけど。10億グレアほど……」

と口に出す僕。

「すげー」

「すごい」

と感嘆するブレイとアン。


「借金がございます!!」

言うとスッキリするな。そう借金が10億グレアもあるんだ!僕ってば偉い?


 シーンとお通夜のようになる場。

「離婚しよっかな」

 とアンが引きつった笑いで言う。


 だが、ブレイは

「よし、じゃぁまずその金貸しに話つけに行こうぜ?」

 と明るく言ってくれた。


 僕はいい友達を持ったな。なんとかなればいいんだけど。とほほ。

 しかし、ブレイの顔は自信ありげだった。






































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