第9話 僕たちの過去
勇者と聖女が「一応」揃ったので、魔王討伐の旅にようやく出れる。
冒険者たちは僕の仕事に満足してくれたようだ。
彼らが塔から去った後、ブレイとアンと僕、つまりは同じ村出身の幼馴染たちが、お互い気まずい想いをかかえながら対峙していた。
「アクト、アン、お前たち付き合っているのか?」
と最初に話を切り出したのはブレイだった。
「よかったなぁ。お前らずっと両思いだったのに、意地の張り合いで付き合えずにいたものなぁ」
と続ける。
「いや、僕卒業の時告ったけど振られたんだけど」
と疑問を口にすると。
「はぁ、お前、あの告白でOKは出せないだろう」
とブレイは言った。
どういうことだろうか?
俺は単にカワイイ花の首飾りを渡して、好きだ付き合ってくれと言っただけなのに。
なにが悪かったというのだろうか。
「わからないようだから、はっきり言うとな?お前常識なさすぎだ。アンはミラル村の大農場のお嬢様、お前は学校の先生の息子。そこまでは良い。けどなアンの両親は将来性のない男からの誘いは全部断れというのが常日頃の口癖だったんだ。村では有名な話だぜ?」
「おれ将来性なかったかな?」
「アンのご両親はな、お前の勉強の才能は買っていたよ?だから、お前がもうちょっとマシなプレゼントあげていれば問題なかっただろう。問題はお前の渡した花の首飾りだがな、貧乏草じゃなぁ」
「ヒナギクの首飾りがまずかったのかなぁ」
と僕は言う。
「あのねぇ。通称、貧乏草っていうんだよ、その花は。お前そういうこと疎いのなぁ」
ため息をつくブレイ。
「アンだって知ってるよ、その花が貧乏草ということぐらいは。だから怒ってアンはお前を振ったんだよ」
「アクトくん2回目の告白は素敵だったよ?永遠の愛と言う名前の枯れることのない花。だから貧乏草の告白のことは忘れてあげることにしたの」
そっか常識も大事なんだな。勉強ばかりの僕の告白はアンにとんでもない恥をかかせていたのか。とやっと気づく。
「でもさ、なんでブレイはアンと付き合っていたの?」
ともう一つの疑問をブレイに投げかけてみる。
「アクトにひどい告白方法で侮辱されたアンを慰めるのは、あの場合俺しかいなかっただろう?意地はらないでアクトのところにいきなよ?ってアンにはなんども言ったんだぜ?」
とブレイは言った。
「ともあれ、今はもう俺たちの思い出のミラル村はこの地上にはない。魔王が率いる魔人の軍団に攻め滅ぼされたからな。俺たちは運良く村を出ていて難を逃れたが。みんな大変だったな、故郷がなくなり仕送りも途絶える中、よく頑張ったと思う」
ああ、そうだったな、考えるのも嫌で、ないことにしたかった恐ろしい出来事。
「あいつら気づいてないみたいだけど、俺たちはあの冒険者たちには恨みしかない。ミラル村の防衛を放棄して、勝手に防衛ラインを引いたのは奴らだからな」
それでなんとなく奴らのことをイケ好かなく感じたのか?忘れたい過去、でも忘れられない心に刻まれた恨み。あいつらは僕らより一回り年上だ。僕らが無力な少年少女だった頃の惨劇を、起こらないようにする力があったはずなのに、あっさりと村を諦めた。
あいつらは四人組の腕のたつ冒険者だった。賢者のフローラという女性だけは村を捨てることに反対だったという。彼女は死んだのかな?村と運命を共にしたのかな?
結局生き残ったのは村を捨てる残酷な決断をあっさり下したゴミのような三人。
何が今更勇者と聖女を召喚しろだ?全くふざけているぜ。と僕はきっとどこかで思っていたのだろう。
賢者になるためにガムシャラに勉強するなか、いつしか記憶は風化していたけど、僕の心の奥底はミラル村の生き残りのアンとブレイ、因縁のあの冒険者たちを完全には忘れていなかった。ということだ。ああ、忘れられればどれほど楽なことか!
お嬢様だったアンが聖女カフェで働き、村一番の戦士だったブレイが闘技場なんて死と隣合わせの場所で仕事をし、大金を稼ぐ。僕だってそうだ。
お金さえあれば、きっといつか村を再建できる。力さえあれば復讐できる。
僕たち三人は、しかし、とりあえずはあの間抜けな三人組の冒険者と一緒に旅にでて、時を待つことにした。
「ブレイ。アン。お前たちが生きているなんて思わなかった……。」
「俺とアンはお前のことは、実は知ってたぜ?でもさ大賢者には近づきがたいぜ。俺たちの中で一番権力に近いのがアクト、お前だ。王国は村を見捨てたことを認めたがらない。正直に言うと下手すりゃ口封じに合うのさ。でも、よかった昔通りの非常識なアクトでな。すっかり賢者様になっているかと思って警戒してはいた」
明日から旅支度で忙しくなる。故郷のミラル村の名誉と尊厳を取り戻す旅が始まるのだから。
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