第8話 勇者召喚
次の日賢者の塔には怒号が飛び交っていた。
「で、確認しますけど、昨日闘技場で遊んでいましたよね。説明していただけますか?」
ひとしきり罵った後、怒りのこもった棒読みで魔女のサラディーナは僕を詰問した。
「長い話になります。しばらくご静聴お願いします」
と僕は前置きしたあと用意したプレゼンの資料を宙に映し出した。
ホログラムの魔法。プレゼンには良く使われる初歩の呪文だ。
そこには
「勇者と聖女はどこにいるの?」
と見出しが書いてあった。
そして続けて
「結論、勇者と聖女は異世界ではなくこの世界にいる」
という文章をホログラムは映し出す。
「さて、衝撃的な話なのですが、今皆さんの前で異世界からの召喚を行わせていただき実地で納得して頂こうかと思います。」
僕は用意した魔法陣の前で異世界からの召喚呪文の最後の一句を述べる。
「来たれ勇者と聖女よ。かなた異世界日本より!」
すると煙があらわれ一枚の手紙が魔法陣の上に現れる。
「この手紙が何なのか?私もしばらく悩みました、しかし解読したところ」
ホログラムはまた文章を見せる。
「女神です。勇者と聖女はあなた方の世界に居ます。灯台下暗しです」
と。
「これがこの謎の言語日本語で書かれた手紙の翻訳です」
「女神は灯台下暗しと言った。つまりこの王都に勇者と聖女がいる可能性が高いと考え、私は探していました。そしてついに聖女を見つけることができたのです」
と言ったあと、
(アンちゃん、出番だからね?)と合図を送る
「今この転移の門に聖女を呼び出します」
転移の門は同じ世界で強制的にテレポートさせて呼び出す魔法陣だ。
「きたれ聖女」
すると煙と共にアンが現れる。
「彼女が聖女アリシアです!!」
あまりの超展開にポカンとする男達がいた。それは
王国一の剣士ラファエットと盗賊のダミエルだ。
「君が聖女だったのか!」
とまるでアンのことを知っているかのように言う。
「あのぉ、お知り合いで?」
と僕が尋ねると。アンから
(この人たち聖女カフェで私のお得意さんだったの!)
と念話が送られてくる。
(マジで?)
(どうしよう??)
「いや、初めて会います。はじめまして大聖女アリシア様」
「俺はこんな女知らねーからな、っとよろしくな聖女アリシアちゃん」
と嘘をつく二人。
それを魔女のサラディーナは何か感じ取ったのか
「で、聖女とあなたデートしてたわよね?」
と僕を問い詰めながら、ラファエットとダミエルの二人に伝えてはいけないことを言ってしまった。
「お揃いの指輪もつけているし」
ラファエットとダミエルの視線が僕たちの手に注がれると指輪を確認した。
怒っている怒っている。彼らが投資しまくった常連の聖女カフェのナンバー1を無関係の僕に取られたわけだからなぁ。
「で、聖女については置いとくして、なぜ闘技場に行く必要が?」
ふ、想定内の質問だぜ。これが僕の答えだ!
「いまから勇者を召喚します!それでご納得いただけるかと」
再び転移の門を起動する。
「勇者よ!現れよ!」
そして煙と共に現れたのは「試合中の」百錬の勇者のブレイだった。
「あ、あれ、さっきまで闘技場にいたのに?えっ、何がどうなっているの?」
と戸惑いを隠せないブレイ。
「彼こそが勇者なのです!」
と僕は厳かに宣言する。
あまりの展開に再び固まる勇者と聖女の仲間一行。
どうだ、あの闘技場のデートは下見だったのさ!
「なるほど……」
目を白黒させているお客さんたち。
しばらくするとまず衝撃から立ち直ったのは魔女サラディーナだった。
「百錬の勇者のブレイと冒険ができるなんて!最高!控えめにいっても私死んじゃう!女神様!巡り合わせに感謝いたします!」
と叫んだ。
ラファエットとダミエルはショックと怒りを隠しきれないようだ。
しかし、魔女のサラディーナが
「大賢者アクト様!ありがとうございます!!これ残りのお金です。先ほどは詐欺師呼ばわりして大変申し訳ございませんでした」
と僕に感謝と謝罪の意を示した。
「いえいえ、わかっていただければいいんです」
と応える。
そしてブレイは
「あの、どういうことなのかな?ここどこなの?」
といまだに状況を把握してないようだった。
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