カイロのような君へ

田土マア

過去を振り返る

第1話 彼の誕生日


 「誕生日おめでとう!」

 日付変更を少しすぎて部屋に戻ってきた彼に僕はそう伝え彼が欲しがっていたひざ掛けを乱雑なラッピングのままほおり投げる。

 彼はそれを受け取り嬉しそうな表情を見せる。ありがとうとは言わずわざとらしく平然を装っていた。


 そこに畳み掛けるようにサプライズをしていく。彼がお風呂に入ってる間に前もって準備した本命のプレゼントを彼のベッドの下に隠しておいた。

 「ベッドの下見てごらん」そう言うとベッドの上に座り込んでいた彼が顔を覗かせるようにベッドを見る。


 そこにあったプレゼントに驚いたようだ。

僕はケータイのカメラで動画の撮影を始める。プレゼントの中身は彼の欲しがった物で埋めつくした。彼の欲しがっていたシャーペン、ハンドタオル、ハンカチ、ペンライト、

そしてシメにトランプにキャンドル…

 トランプは彼の特徴やらを書きなぐった54枚のカード、キャンドルは僕が作るのが好きで二日前に作った物だ。彼の為に気持ちを込めた。中の装飾も容器の色も柄も、全て彼が欲しがるだろう物にした。

 彼はトランプを一枚一枚読み上げていった。


 一つ一つプレゼントを噛み締めるよう触れ、そして喜ぶ。

 サンタクロースが来た子どものように。彼ははしゃいだ。


 その一部始終が動画に残っている。26分にも及ぶ長い動画が。




ーそして眠りにつく時もくだらない話を思いつく限り話した。


 外は静かに雪が降り続けていた。




 明くる日、お昼少し前に起きた彼は電気屋に行きたいと言った。


もちろんそれに僕は付き合う。


 新雪の積もった道には二人の足跡だけがあった。降り続ける雪のせいで数分もすれば消える足跡が確かにあった。

 夏に一時的に休業していたカラオケ店の横を通り過ぎ真っ直ぐの道を二人で歌いながら歩く。信号を越え、開業前のラーメン屋の向かいにある電気屋に足を運んだ。

 傘も差さずに服のフードで防いだ雪を入る前に落とす。靴の中に入った雪をはらい落とす。濡れたズボン、服はどうしようもなかった。


 彼は貰ったばかりのお年玉で買ったゲーム機のケースが欲しかったようだ。値段と品質を吟味し自分の求めるケースを探しているみたいだった。

 彼がゲーム機周辺機器を見ている間に僕はSDカードを眺めていた。ケータイの容量を減らすために写真のデータをSDカードに移そうと思ってたからだ。8ギガでは確実に容量が足りなくて16ギガではギリギリか…なんて値段を見ながら財布と相談していた。


 自分だけの世界に完全に入っていた。


 その時後ろから声をかけられた。

「コレに決めた」と彼は手には彼が気に入るだろうケースがしっかり収まっていた。

 それを彼は残っているお年玉で買い電気屋を後にした。


 帰る途中に色んなものが置いてある商店に寄りたいと言って寄ってもらった。品揃えはいいと言っても売れ残るものもあるし、管理が行き届いてないような場所のコーナーはインクが切れそうになったボールペンなんかも置いてある。

 そんな商店をぐるっと回りながら僕が見つけた物は貼らないカイロだった。最近貼らないカイロを探しても、見つけるカイロは基本貼るタイプだったから嬉しかった。貼らないカイロの袋がいっぱい入ってる小さな箱を両手で大事に抱えてレジまで持っていく、たかが500円くらいの買い物だったけど満足だった。その満足そうな顔が彼にもわかったらしく「カイロ買ってそんな嬉しそうな人初めて見た」と驚かれた。


 そのあと彼の家に戻り、少しするともう外は暗くなりかけていた。長居すると邪魔になるかもよ。と家族に言われてたので少し早めに迎えを頼んだ。彼は少し残念そうだった。


 帰ってケータイを見たら彼がキャンドルに火を灯す動画を送ってくれていた。彼は喜んでいた。



ーそれが僕と彼が過ごした最初で最後の彼の誕生日だった



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