第5話 結局誰もが人間だ
結局みんな人間で「めんどくさい」なんて感情が芽生えることもある。
そして優柔不断さが僕を僕じゃなくした。
もちろんスクールカウンセラーを受けたことを担任は聞いていた。
もちろん担任にも話した。
「先生、僕は彼とまた話がしたい。」
『でも今話してもいい方向には転ばないんじゃないか?』
「でも…話し合えば彼は分かってくれると思います。」
『でも今あいつは話したくないんだろ?』
「…」
『今無理に話す必要はあるか?』
「でも…このまま離さないで終わるなんて嫌なんです。」
「確かに今話したとしていい方向に進むとも限らないです。でも…悪い方向へいったとしても僕は話したいです。」
「今まで小競り合いがあっても話をして仲良く戻れてきたんです。」
僕はこの時薄々勘づいていたのかもしれない。もう既に運命は決まっているのかもしれない…と
『まぁたしかに、今までお前らは仲良かったからなぁ。』
「だから…話させてください…」
「高校に入って独りでご飯食べて、友達っていえる人もろくに居なくて…そんな時話しかけてくれたのが彼だったんです。」
「僕にとって彼は僕が学校に来る理由。僕の存在価値みたいなモノになってたんです…」
『それだけ大きいなら少し時間を置いたらどうだ?あいつも冷静になって話せる状態になるかも知れないぞ』
「でも…早く僕は彼と話したいです。頑固だって言われるかもしれないけど、話さなくなって来年クラスが変わったあとに裏でグチグチと言われるのが嫌です。」
「だったら話してお互いもう関わらない。ってなった方気持ちの整理もつきます。」
『んー。じゃあその気持ちを汲み取るわ。じゃあ明日あいつ呼び出すから。そんとき話しよう。ただ、あいつのことだからお前にきつい言い方になるかもしれないぞ。』
「それでもいいです。ありがとうございます。すみません。先生の手を借りないと話せないなんて自分はどうかと思うんですけど …」
『いいんだ、こういう時くらい頼りな。』
そしてその日は家へ帰った。
担任は彼の部活の顧問だったので部活の予定などの連絡のために彼を呼び出すというのだった。
次の日、僕は保健室でご飯を食べていた。
しばらくすると学校の内線で連絡があった。おそらく担任だろう。
養護教諭の先生が僕に受話器を渡す。
「電話かわりました。」
すると担任は
『…やっぱり今日話すのやめねぇか?今日話したところで良い方向にいかねぇぞ…?今呼んで話をざっくりしたけど、本人お前と今話したくないそうなんだ。』
「え…でも。」
「でも僕は話したいです。だって今話して仲直り出来るっては自分も思ってはいません。ただ僕はわだかまりがある状態で過ごしたくないです。彼と少しでも話をして、少しでも思い過ごしたところを、誤解を解きたいんです。」
『ごめんな。今無理に話させるのはお前のためにならないと思うんだ。』
(話をしようって。彼を呼び出して僕に話させてくれるって…先生の嘘つき…)
「そうですか…すみません。」
担任は話させてくれなかった。
それからしばらく学校を休んだ。
無断で休むわけにはいかなかったので毎日担任に電話をかけなければいけなかった。
「すみません。今日も具合が悪いので休ませてください。」
『大丈夫か?最近学校よく休むし、養護教諭の先生方も心配してたぞ。保健室使っても良いから来て欲しいんだって。なんかあったら保健室も使えるから。…まずゆっくり休んでな。』
大人、学校の教師という立場上綺麗な言葉で僕を心配するような言葉を並べる。
もちろん学校教諭の方々にはいつも弁当を食べる場所として保健室を使わせてもらったりしてるので感謝している。
でもどうしても担任の放つ言葉には信頼することが出来なかった。先生が僕を信頼して話させてくれていれば今こんなことに僕がなっていないかもしれない。と担任を責めようとする僕が居た。
6日ほどして僕は学校へ復帰した。
まあその間にも色々あったらしい。僕が学校で弁当を食べているのはトイレだ。と噂されるようになったらしい。
別に僕は弁当をトイレで食べているわけでもない。ということを自分が知っているからそれでいいとも思った。
聞くところによればこのクラスからそんな噂が出ているらしくそんな噂をする奴と一緒に授業を受けたりクラス行事をするのが僕は嫌だった。
クラスのどこかでそんな噂がささやかれ…もし今自分が話している目の前の人がその情報の発信元だとしたら…。
そう考えるだけで腹が痛くなって吐き気がした。
それを理由にまた学校を休んだ。
担任には経緯を綴ったメッセージをSMSにいれた。
次の日の朝同じようなことを電話口でも伝える。
ただ面倒事をこれ以上起こしてはいけないと思い、担任には公言しないでくれと伝えた。
その晩元カノからメッセージが来た。
《ごめんね。》
…何も返せなかった。なんて返せば良いのだろう。なんと言えば良いのだろう。
わからなかった。僕にはまだ受け止めきれない言葉だった。
《先生から言われたの?》
《うん。昼呼び出しくらって、話聞いてやっぱりよくないことしたなって思って。ごめんね。》
《別に気にしてないよ。僕ってなんかいじられてなんぼみたいなとこあるじゃん?》
全然思ってもいないだろう文章を送る。
《でもごめんね。便所飯って遊びでも使って良い言葉じゃないからさ…》
《大丈夫。気にしないで、そんなに謝られたら僕が悪いみたいじゃん?》
そんなやりとりをした。
次の日担任から放課後話がしたいと言われた。
僕はあなたに話したいことなんて…と思いながらそのお願いに応じる。
そして放課後まで授業を受けた。
このまま彼と話さずじまいで今年度が終わってしまうのか。嫌だな。そしたら僕は何を生きがいにしてこれから過ごしていけば良いのだろうか…
教室から窓の外のメタセコイアを眺めていた。今なら何の悔いもなく死んでいける気がした。むしろそれで楽になりたかったのかもしれない。
最近なぜか筆入れの中にはカッターやコンパス。学校で使う機会があまりないものばかり入っていた。それで自分を傷つけようとしたのかもしれない。
このままではやりかねない。と思った僕は同じクラス唯一の幼なじみに持っていた凶器全てを渡した。
「ごめん。いきなりこんなの渡して申しわけねぇんだけど、この状態だとちょっと自分傷つけちゃうかもしれないから少しの間持っててもらってても良いかな…」
そう言うと幼なじみは快く引き受けてくれた。それだけでなく僕の身の心配までしてくれた。
その後僕は担任のいる職員室へと向かった。
『最近はどう?』
「今さっき生きるのが辛くなって死にかけて来た所です。」
『そうか…今でもあいつと話したいってのは変わんないのか?』
「もちろんです。今でも話したいって思ってます。そして話を聞いてもらってるくせにこんなことをいうのはどうかと思うんですが、あの時先生が止めていなければ…って思ってしまって。申し訳ないです。」
『大丈夫だ。…もうあいつのことは忘れな?』
「…!!」
「そんなことは出来ません。だってこの一年間毎日楽しく過ごせて来たのは彼のおかげでもあるんです。僕の生きがいに、学校に来たいっていう理由に彼はなってくれたんです。毎日楽しかったし、ちょっと頭が痛くても頑張って学校に来ようって思えたんです。そんな彼を忘れるっていうことは思い出もなくしてしまうってことになりますよね。」
「僕は彼を忘れたらこの一年が空白になっちゃうんですよ…だから忘れることなんてできないです。それは先生に何を言われても変わることはありません。」
気づけば僕は熱くなって話していた頬からは涙が静かに伝っていた
『…確かにずっと一緒にいたからな。』
『まあ、ストレスとか溜まったら保健室とかスクールカウンセラーとかうまく使いつつ乗り越えていこうな。なんかあったら話は聞くことはできるから。』
また綺麗事…
ー結局ヒトは人間であるんだ。
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