話さずにバイバイ

第4話 後悔先に立たず


 どれだけ悔やんでも過去には戻れない事は沢山ある。


 失敗や成功理由は様々だけど必ず「せめてもう一度…」というタイミングがくる。

なんで僕はあんな事してしまったんだろう。


あれさえなければまだ彼と僕は話し合っていたかもしれない。

遊んでいたかもしれない。

どこかへ出かけていたかもしれないんだ。




春は花見、夏はプール、秋はナイトバザール、冬は…




彼との別れ




僕はちょっと難しい性格だとよく言われる。

まぁ簡単に言っていまえば面倒臭いやつ

分かり合えていた彼にもよく言われた。


 その性格のせいでこんな事態を引き起こしてしまう。


 彼はクラスに仲がいい女子が居た。

この前もゲームを一緒にしていたのを見た

その女子とはSNSでのやり取りもするらしい。


ある日彼は僕に「ananっていうアプリ入れたんだ」と言う

入れた経緯はその仲がいい女子だそう。

僕は彼と同性ながらその女子に少し嫉妬した。

 ananと言えば簡単に「歌ってみた」や「台詞読み」なんかが投稿ができるアプリだといつだか姉に聞いたことがあった。


 でも実際に使っている人は身の回りに居なかったため馴染みがなかった。

「ananって歌ってみた投稿できるアプリだよね!アカウント教えてよ」彼に言う

「えぇーやだよ。自分で探しな」と言われその話は終わった。


 バイトが終わり家に帰りいつもの様に彼と通話をしながらオチのない話を繰り返す。

僕はまた彼に聞いてみた「アカウント教えてくれないの?」

そう聞くと彼は「自分で探してって」と弄ぶように笑う。


僕は隠れん坊をしている気分だった。

彼が隠れる方で僕が鬼。


 見つからない様に上手く隠れるが、上手く隠れすぎたがために見つからない、でも見つけて欲しいという気持ちがある。



無邪気な子どもの様だった。



彼の名前、名字、ニックネーム。

あらゆる面で思いつくワードを検索にかけた。


…が見つけられなかった。




諦めてもいいかな。と思い検索するのをやめた。


それから1ヶ月は過ぎただろうか。


 冬休みに入る前の日、いわゆる終業式がある日。

学校は午前で終わり彼は仲がいい女子と話していた。


 僕はバイトが午後からあったがそれまでかなり時間があるので教室で彼と彼と仲がいい女子と話していた。


 周りにはほかのクラスメイトも沢山いた。

その時流行っていた「KYKD」というバトロワ系FPSゲームをやっていた。


 世の中ではKYKDをしている女子をKY女子と呼んだりもするらしい。


KY女子を周りに置きながら僕の目の前で彼と仲がいい女子は歌ってみたの話をしていた。


 そのやり取りを聞いていて歌が上手いって羨ましいと思った。


それでも彼は僕の相手もしてくれる。

「この間クラスの動画チャンネルに動画載ってたね」

「あぁ確かに。コメントしてみてよ」彼にそう言った。


 クラスの動画チャンネルって言うのは、前日僕が彼と作った動画投稿サイトのアカウントでクラスの日常だったり、馬鹿なことをしているクラスメイトの動画を記録として載せるチャンネルだ。


 そこになにかコメントを書き込んでくれ。という僕から彼へのお願いだった。


 彼はもちろん快く引き受けてくれた。


「でも待って。俺アカウントの名前本名だったわ。ちょっと直すわ」

そう言って彼はアカウントの設定をし始めた。

設定変更はそこまで時間も掛からず終わった。


 そして動画に彼がコメントを書き込む。

どんなアカウント名にしたのか気になったのでアカウント名を確認する。

「書き込んだアカウントってこのピザトーストって名前のアカウント?」

 彼は頷く。

「俺がよくネットとかで使うアカウントに変えた。」


 そんなやり取りを楽しんでいるとバイトに行かなければ行けない時間になっていた。

彼に別れを伝えると僕は急いで教室を出た。


 そして学校の隣にあるバイト先に走って向かった。

バイト先で準備をしていた時に気づいた。


教室に制服を忘れてきた。


 急いで彼に連絡をした。


 彼はまだ教室に居るらしいので帰るとき一緒に持ち帰って今度遊ぶ時に返して欲しい。と伝えると彼は「了解」と返してくれた。



 焦りから始まったバイトが無事に終わり僕は家路についた。


 そして夕食を食べゲームでもしようかと思ってスマホを開く、そして今日彼が書き込んだコメントを確認する。


「ピザトースト…?ネットでよく使う…?」


なぜか勘づいてしまった僕はananを開いた。

「ピザトースト」で検索をかけると3つのアカウントが出てきた。

そして一つ一つ確認してみる。

1つは今は使われていないアカウント、もう1つはプロフィールに女子と書き込まれていた。そしてもう1つ、そう彼のアカウント。

投稿された曲を聴いてみた。


 彼の声だ。彼の歌声だ。


 そして片っ端から彼の歌声を堪能した。

その中に「コラボ」と書かれていた投稿もいくつかあった。


 その相手は基本僕が聞き覚えのある女声だった。


その声の主を僕は知っていた。


彼と仲がいいあの子だ。


 全世界で形成されるネットで「あの子」だという確固たる自信が持てたのは独特なアイコンだった。


 どこから拾ってきたか分からないがあの子がLINEで使っているアイコンと全く一緒だったのだ。


 全く同じ画像で、同じようにフィルターがかけられていて、同じ文字が同じ場所に入っていた。


 僕は彼がアカウントを教えてくれなかった理由はコレなのか?と思った。

彼自身僕があの子の事をよく思っていない。と彼は思っているようだったから。


確かに僕はあの子があまり好きではなかった。


 彼と弁当を食べてると他の女の子と食べていたはずのあの子が彼に話しかけてくる。「昨日はゲーム楽しかったねぇ!そういえばさー」

なんて僕が彼と居ても話の間に入ってきて彼を僕から取り上げる。


 彼があの子とゲームをしている時間は本来僕と話してる時間なのに…と嫉妬をする。


別に僕は彼の恋人でもなんでもない。


最近では同性愛という文化も根付いてきつつはあるものの日本社会で見るとあまり受け入れられてはいない。


そもそも僕は彼を好きではいるが恋愛対象としては見ていない。


likeではあれどloveでもadoreでもない。


彼は友達であるだけ…なのに僕は嫉妬をしてしまう。



友達が取られた。



そんな感覚なのだろう。


そんな訳でいつからか僕はあの子のことをなぜか敵視するようになっていた。

彼に友達ができた。そう喜んであげるべきな立場に僕は居るはずなのに。

素直に喜んであげられなかった。


彼に友達ができたら僕はもっと遠い存在になってしまう。


 それが僕は嫌だったのだろう。



 だから僕はあの子が彼の傍に居るのを見ると何故か悔しくなる。

それを彼はなんとなく察していたのだろう。


 だから気を使ってアカウントを僕に教えなかったのだ。

そう思って僕から彼に「アカウント見つけたよ!」と報告するのはやめた。

 彼がananをこれから使うのに僕の目があると思うと彼はあの子とのコラボなんかも含め活動しづらくなってしまうのではないか。と思ったからだ。


 それからはananをこっそり覗き、こっそり楽しんだ。


 彼の誕生日があった。

とても楽しかった。けどananの事は言い出せなかった。


まあ言わない方がいいこともあるだろうし。

それからも学校でも楽しくやっていた。



 そんな日も突然終わりを迎える。



 いつもの様に僕は彼のアカウントを覗き見た。


 今日もあの子とコラボしていた。

ふとあの子がどんな投稿をしているのか見た。


 その時プロフィール画面に表示された文字を見て心が張り裂けそうになった。

『愛方→@Pizza_toast』


しばらく思考回路が停止した。


愛方って誤字だよね。

あの子少し馬鹿なのかな。

あいかたって相方って書くよね…?

なんて文字で予想ができる『愛方』を僕の身体は受け入れようとしなかった。


そして僕は何を血迷ったのか元カノに画像と一緒にメッセージを送った。

《この愛方って恋人って感じの意味だよね…?》

すると間もなく《恐らくそういうことだろうね。》と返信がくる。



付き合っていたのか…



 僕は現実を受け入れられず心に虚無感を抱いた。

 空っぽになった心に追い打ちが来ることも知らずに…。



そして1/20

 僕は隣の市に「全日本吹奏楽アンサンブルコンテスト」の県大会を聴きに電車に乗っていた。


 電車に乗るのは今年度2回目になる。

一回目は彼と去年の夏花火を見に電車を使った。

 その時電車の乗り方を彼に少し教わった。

その時聞いた事を1人でそわそわしながらこなす。意外とできるものだと思いながら電車で往復する。


 自分の街へ帰ってきた時何やら地下道で弾き語りをしているお兄さんがいた。

寒いのに良く演奏するもんだと思って自販機で暖かい飲み物を買い、その人に渡す。お兄さんはありがとう。といい歌を歌ってくれた。


 その事を僕はもちろん彼にも報告した。



そして次の日1/21

 雪が降っている時期、僕は朝車で送ってもらう。その車で親がタバコをふかし始めた。

タバコの煙が嫌で臭いがし始めるとむせてしまうことが多い。

通常車に乗る時は我慢するが制服を着ている時は別。

彼から預かってもらっていた制服のブレザーが臭くなる。


彼から返してもらったブレザーはどことなく彼の家の少し甘く優しい匂いがしみついていた。それがタバコでかき消され、タバコの臭いがつくのが嫌だった。


 朝からお母さんと言い合いになってしまった。


 それで気分が悪く移動教室は彼を待たずに移動してしまった。

いつもならそのまま一日がすぎる。けど彼は 「僕のその行動が嫌いだ」という。


 感情が表に出すぎているそうだ。


 今回もそんなふうに彼に思わせては行けない。って思ってお昼からは気持ちを切り替えて普通に彼と接した。


 そして5時間目は音楽だった。

 彼と一緒に話しながら音楽室に移動する。


 音楽は芸術という科目に属していて音楽の他に書道、美術がある。

 そして芸術全体で発表会がある。いくつかのグループに分けられ、美術、音楽、書道がそれぞれグループのテーマに沿ってひとつの発表を作り上げる。というなんとも不思議な授業をしている。


 僕はグループが同じ美術選択者の人達に構成を聞くために音楽室から美術室へと階段を登る。

 そして自分らが演奏する曲を話しそれに合うように協力してもらうようお願いをした。

それが済むとまた音楽室へ向かう。


 音楽室に戻ると空気感が全く違うものになっていた。


 僕はリーダーに美術の子たちと話した構成、内容を伝える。


 そんな時だった。


「…人のアカウント勝手に見るとか気持ちわりぃよな!」


驚いた。

ドキッとした。


 もちろん声を発したのは彼だった。


 僕はなぜ彼が「ananを見られている」と気づいたのかわからなかった。

 その場にいた誰かが伝えたんだろう。


 そして僕のクラスの音楽選択者の中にはあの子も元カノも居るのを忘れていた。

 そしてスマホを自由に使ってもいい授業な事も思い出した。


 コレは後で他の人に聞いた話なんだけど、元カノが彼に僕が送ったメッセージを見せていたらしい。



 元カノが見せる。なんて思ってもいなかった。


 完全に信用していた。



 そして彼の性格上悪口は本人に聞こえるように意地悪く言うくせがある。


 残りの10分くらい僕は彼と目も合わせなかった。話すなんてもってのほかだ。


 授業が終わるまで彼はあの子に僕の悪口を続けていた。



 授業が終わっても僕はそれが気になって仕方なく精神が崩壊仕掛けて六時間目が受けれなくなって保健室に向かった。


 その日は学校のスクールカウンセラーの方が来ているようでカウンセリングを受けたらどうだ。と言われた



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