ヒトを作るヒト

緋那真意

ヒトを作るヒト

 彼は、ヒトの形を作っていた。

 それは別に比喩でも何でも無い。ヒトの形にパーツを組み上げ、完成させる。



 彼がこの世界で最初に目を覚ました時、そこには無数のヒトの形のかけらだと思われるものが雑多に転がっていて、側には一枚の設計図らしきものが無造作に置かれていた。

 色々な状況から考えて、恐らくはこの場所で彼を産み、いや「作り出した」「生みの親」がどこかに居たはずなのだが、彼が目覚めてからというもの、この場所に彼以外の存在の姿を見たことはなかった。

 それどころか、この場所には窓や扉といったものが全く無く、彼はこの空間に事実上閉じ込められていたのだった。

 それでも彼は何らかの手がかりがあるかと、置かれていた設計図らしきものを手にとった。

 その設計図には、あまり文字が書かれては居なかった。ただ、どのパーツがどのパーツと組み合わさるのか、という程度の軽い注意書きがあるだけだ。

 結局、他にやることも見つけられなかった彼は、とにかくその設計図の通りに「ヒトの形」を組み上げはじめることにした。

 最初にも言ったとおり、この部屋には「ヒトのかけら」とも言えるパーツが無数に転がっていた。すぐに必要なパーツはすべて集まるように見えた。

 しかしながら、実際に集めたパーツを組み合わせてみると、微妙にサイズが合わなかったり、組み合わせてみると相性が悪いのかすぐに分解してしまったりということが度々起こり、彼はより慎重にパーツを選別し、組み合わせなければならなくなった。

 気がつけば、彼は「ヒトの形」の組み上げに没頭していた。


 だが、彼はやがてひとつの疑問点に辿り着いた。手や足と言ったパーツが揃い、そろそろ体全体の組み上げをしなければと思い始めた頃の話である。

 その部屋には無数にも見えるほどの「ヒトのかけら」が転がっていたのだが、不思議と「頭」の部分を構成するであろうパーツだけは、いくら念入りに部屋の中を探し回っても一向に見つからなかったのだ。

 何か他のパーツで代用して「頭」らしくものを作れないかとも考えたが、不思議と代用ができないようにパーツは構成されているらしく、いくら頑張っても「頭」の部位に相当する部分を組み上げることは出来なかった。

 そうこうしているうちに頭以外のパーツは次々と組み上がっていき、ついに「頭」の部分のない「体」が出来てしまいました。

 なぜ、この部屋にはいくら探しても「頭」が見当たらないのか?

 彼は「頭のない体」を前に途方に暮れてしまいました。

 しかし、しばらく自分の体と「頭のない体」の双方を見比べているうちに、彼はこの部屋になぜ「頭」のパーツが存在しないのか、その答えをおぼろげながら想像することが出来ました。そして、なぜ自分の「生みの親」がいないのかも、その答えが見つかったように感じられました。

 自分は、「自分自身」を作っていたのだ。

 彼はおもむろに「頭のない体」を自分の方に抱き寄せました。



 そこで彼は目を覚ましました。

 周辺を見回すとそこには「ヒト」と思われるものの無数のかけらが散らばっていて、側には一枚の設計図らしきものが無造作に置かれている。

 周りに窓や扉らしきものはなく、彼以外の人の姿もありません。

 彼は途方に暮れつつも、とにかく何か手がかりを得ようと、設計図を手に取りました。

 それが彼自身を呪縛している、永遠の迷路の設計図であるとも知らずに……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒトを作るヒト 緋那真意 @firry

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ