初恋と海 後編



・・🌏・・・・




「また逢いにくるよ…」


離れがたいのに、

面会時間として決められた時間を過ぎたら

グクランが怪しまれて捕まってしまう。

…分かってはいるけど

逢えない辛さをどう耐えればいいのか

分からない。


身体を繋げたせいで

下半身に鈍い痛みがある僕は

真っ白のシーツで裸の身体を隠しながら

ベットの真ん中に座り、

身支度をしながら呟くグクランに

返事を戸惑っていた。

簡単に逢えるはず…無いから。


「………また…下まで来て貰っても…

ここまでは…来れないんだろうね…」


ずっと窓辺で下を見ていた。

グクランの姿が見えるだけで、

逢いに来てくれた事実だけで嬉しかった。


グクランが近くにいる。


グクランはまだ僕を忘れてない。


逢いたい。

逢えない。


…僕の初恋は実らずに終わるんだって…

この部屋のように真っ白に感情を消して

ただ毎日を繰り返して来た。



「…あ、知ってた?

見えてた?……下からは見えないから…」


「……何度も…見えたよ。

姿が見れて嬉しかった。

いつも待ってた…」


グクランがこちらを見ながら

ゆっくりと近づいてベットに手をつき、

もう片方の手が僕の頬から首の後ろ…

流れるように回されると

額と額がくっ付いた。


「……これからも、来るから……」


そして沢山キスを繰り返して

まだ少しヒリヒリする唇を

また、ゆっくりと重ねた。


うっとりするくらい男らしいし、

こんなに大人っぽく成長してドキドキする。



……ずっと隣にいた幼いグクランが

どんどん大人っぽくなると同時に、

何故か自分が女々しくなるのを感じていた。


グクランの愛の言葉のせい…かもしれない。


幼いグクランからの告白は嬉しかった。

自分がカッコイイ大人に見られてるようで。


男らしくなるグクランからの告白は

逆にどうしていいかわからなくなった。


それでも答えは出ていたけど。



まだ、彼が今までにくれた言葉に比べたら

全然返せていない。


行動に移さないと……

もっと、グクランに伝える為に………






・・🌏・・・





あの日ジウと身体を繋げてからも

毎日のようにシェルターの下まで来ていた。


海への調査は程々に、

ジウからは見えているなら…

もしかしたらまた

タイミングよく逢える可能性に期待して…




何度目に来た時だろう。

偶然会った知り合いから

ジウの結婚が決まった事を聞いた。


しょうがない。

政府からそう求められてるんだから。


………けど、

あの部屋で2人で生活するのかな。


それとも違うシェルターで過ごすのかな。


子供をつくるのかな。


もう…僕が逢いに行ったら迷惑なのかな……



そんな迷いを抱えながら

今日もシェルターの下から見上げていた。


……気づかなかった。


その上に広がるいくつもの星。

地球の明るさの影響でか

昔よりも沢山、輝いて見える。


昔、ジウは僕の天体観測に

何度も付き合ってくれた。


2人で夜空を見上げ、

何度 流れる星の光に願い事をしただろう。

いつも願いは同じだったけど。



《ジウと…今のように笑いながら

楽しく幸せに暮らせますように》



僕の願いは今も同じだよ。

……'今のように'ではないけど。


きっとジウが結婚しても、

何年も逢えなくても、

海に侵略されて命が終わっても…


ずっとこの気持ちは変わらないんだろうな。



…手を合わせて指を絡めて目を瞑って…

昔のように純粋に願う事はないけど。


ずっと密かに、胸の奥で…



「グクラン!!!」


ほら。

愛しい人の声が僕の中で再生されてる。


「グクラン!!行こう!!!

2人で暮らせるところに!」


海の水が足元に広がる中、

バシャバシャ水しぶきの音が近づくて来る。


僕の手を引っ張り、

少し抑えて声を張るジウが目の前に。


「早く!捕まる前に行こう!!」


「何…?!どうしたの?」


「出てきたんだよ!

逃げるんだ!ここから!」


引っ張られた手を逆に引っ張り返し、

めいっぱい抱きしめた。


「ジウ……バカだな…

シェルターにいた方が安全なのに……」


「……お前がっ

シェルターには惹かれないって…

僕だって、

お前と逢えないで隔離されてるような

シェルターなんて…」


「結婚の話は…?」


「その結婚相手のところに行くって言って

出て来れた。

もう戻らない。行くぞっ!

2人でならどこでも楽しく過ごせるだろ!」


抱きしめている力を抜くと

手を取られ固く握り締められる。



……どこでもか…


二人、水しぶきをなるべく立てずに

身を隠して…

シェルターから、人々から

離れるように海へと向かった。







・・・🌏・・




見渡す限り海。


グクランが調査で使う船を運転する中、

寝転んで星空を見ていた。

ぼんやりしながら。


何処まで逃げれるかな……

いつまでグクランと過ごせるかな……



僕達の未来を邪魔するのは

侵略して来る海なのか、

人々の為という厳しい法律なのか…


エンジン音が止まると

グクランも僕の隣に寝転んだ。



海の音以外は何も聞こえない。


海と星の間に僕とグクランだけ。


……このまま、海に消えても幸せ……



「……シェルターから出た事、

後悔させたらゴメン。けど、けど…

嬉しかった。

ジウがこっちに来てくれて…」


グクランは隣からいつの間にか僕の上へ

両手を僕の顔の横につき、

近づく唇を受け止めた。

ゆっくりと軽い甘噛みや吸い付きを繰り返す。


「……後悔しないよ。

今死んでもいいくらい幸せ。」


「……僕も…」


両手伸ばしてグクランの頬を包んだ。

僕を好きだと言うグクランに、

昔はきちんと返事出来なかったけど

今なら何の躊躇いも無く、

恥じらいも無く言える。


「…好き。大好き。愛してる。」


グクランの顔がだんだん近くなって

その大きな瞳から涙が溢れてきそうな時、

僕の頬に雫が落ちてきた。

同時にキスも絶え間なく落ちてきて

僕は目も開いていられない。





ゆらりゆらりと揺れる船。


グクランの動きによって

船が変に動いて酔いそうだけど…


時々目を開けると

グクランの肩越しに広がる夜空の星。


目を閉じても

グクランと輝く星が瞼に在り続ける。



「……僕っ…う、えにな…る…」


「えっ…っ背中痛い?」


「ちがっ……いいから…」


グクランの上で動ける自信は無かったし、

実際下からの刺激で

グクランの胸に崩れてしまうけど…



「あ……これ……すご……」


グクランの感動する低い声が

波の音と混ざる。


僕の肩越しの夜空の星。


グクランの瞳に映る星が輝いてる。

彼の好きな星空を目に焼き付けて欲しい。



その瞳が閉じても


僕と同じで


グクランの瞼に

僕と輝く星が在り続けますように。







笑いながら。


楽しく。


幸せに。





・・・・・完・・・・・🌏


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