Fantasy「強い思考と儚い記憶」

強い思考と儚い記憶 前編



僕達はアイドル。

年齢は20代前半、男6人のグループ。


デビュー前から共同生活が始まり、

1番歳上の僕は

生活能力の低いメンバーの面倒を見る事が

多かった。

メンバーから思春期の感情、欲求不満を

勘違いで僕に向けられる事もあったけど、

どうにか潜り抜けて上手くやって来たのに…


1番年下のメンバー、グンからの感情には

僕はいつも振り回されて来た。

子供のように可愛がっていたのに

いつだか凄く距離を作られ、

かと思ったら急に男の顔で迫られたから…

ずっと抑えていた僕の気持ちが

隠しきれなかった。


流されるように恋人のような関係になった。



僕達はメンバー同士。

自分も彼も、

ファンの人気で成り立っている。


恋愛は御法度。



恋人になっても、

世間には絶対に公表しないし、

メンバーにも打ち明ける予定はない。


自分の本心でさえもグンに隠したまま。



仕事の為、他のメンバーの為、

僕やグンを信じているファンの為なら…


いつでも別れられるような、恋人関係。







毎日のように一緒の仕事、同じ家、

ケンカする事も多い。


昨晩の…

きっかけは何だったかな。


お互い疲れてストレスが溜まってて、

けど2人きりになる時間も無くて…


それでも話がしたくて

グンの作業室に行ったら

全然相手にしてくれなくて…



いつもだったら'頑張ってね'って

声をかけるだけで作業の邪魔はしないのに。


昨晩はなんか腹が立って…

普段言わない事まで言って

グンを怒らせてしまった。


そして売り言葉に買い言葉で…



「もうグンとは話さない。」


「はい。ジュン兄とは話しません。」


「うまく付き合っていけないなら

終わりかもね。」


「そうかもしれませんね。」



だって。

すごい腹が立つ。


すっっごくイライラしたまま…

僕は眠りについたんだ。









誰かが僕の肩を揺さぶる。


ケータイのアラーム鳴ってないのに…

まだ起きる時間じゃないのに…


「…ジュンさん、ジュンさ…」


「…なんだよ、

もう話さないって言っただろ。」



寝て起きたくらいじゃ

怒りは治らない。


「…僕、未来から来たんです。」


「へーー……で?」


「あなたとグンは、

昨日ケンカして別れちゃって…

で、しばらくしてからできた息子が僕です。

そっくりだけど…

あ、そっくりだから?…」


「へーーー…で?」


よく真顔で冗談を言うグン。

またこれも僕に謝る為のネタなんだろうな…

真剣に話してるから聞いてみる。


「僕、息子だからわかるんですけど、

グンは一生のうち、1度の本気で、

ジュンさんしか愛せなかったし、

愛してなかったです。」


「…………」


「だから、グンの為に…

別れずに、仲良くしてあげて

くれませんかね…?」


「…そうだね…。

僕も別れる気は無いよ…

けど、そしたら…

息子の君はどうなるの?」


「…僕は…消えます。

僕はグンに幸せになって欲しくて

出てきただけなので…

ジュンさんと父さんが、

仲良くいてくれたら僕は消えても幸せ……」



グンの息子は

僕の頬に優しくキスして

部屋を出て行った。



1人でも笑い声が出てしまう。


ハハッ……


素直に謝られたわけじゃないけど、


『一生のうち、1度だけの本気で

ジュンしか愛せなかったし

愛してなかった』


だって。


プロポーズ?


グンの息子から聞くっていうね。




僕も今からジュンの息子になって、

本心を冗談のように隠して…

伝えに行こうかな。



『ジュンも、グンしか愛せなかったし、

愛してなかった』って。








「ゔわあっ!!」



ドアより更に少し向こう…グンの声だ。


…何叫んでんだよ…何事…?


「どうした?!」

「何ー?」

「朝っぱらからどした…」


僕が向かうと同時に、

他のメンバーも起きてた。

中には寝ないで作業していた者も。


「…何があったの?」


まだ開いてない目を擦りながら

メンバーがグンに尋ねる。


「……あ…みんな、ごめん!

夢見て…びっくりして叫んじゃいました!」


「えーー?どんな夢だよ…

みんな寝よー

ジュン兄は起きてたのー?

早いねーー

おやすみーー…」




こうして、何事も無く…

グンは誤魔化したみたいだけど。

明らかに様子がおかしい。

すごく動揺してるし…

嫌な予感がして…

メンバーが戻った後聞いてみた。



「グン…その、ベットの中…

誰かいる??」


布団にボリュームがあった。

グンが掛けてる布団の中から…


もう1人のグンが出てきた。






・・・・⏳・・・・・・・・・・・・

これは 離れ離れになった 記憶の物語

・・・・・・・・・・・・・・⏳・・






「僕、父さん…グンの息子です。」



グンが1番ビックリしている。

文字通り、手で頭を抱え、見開いた目で

自分の顔と全く同じ顔の子を見てる。


…なんでこの夢、覚めないんだろって…

独り言を呟いてる。

…僕も思う。


何が起こってるんだろう。


グンは、咄嗟にこの息子?を

メンバーから隠したけど…

僕とグンだけで、対応できるかな…



「…君、グンの息子って言ってたよね?

未来から来たって。

どうやって来て、

どうやって戻るの?…消えるの?」


さっきはよく分からなかったけど、

今のグンより幼さがある。

出会った頃のあどけなさが残っていた。


「…未来から来た時は…

僕の部屋のドアを使ったら

それがジュンさんの部屋のドアになってて

スムーズに来れました。」


「…何、ジュン兄…既に会ってたの?」


「うん…」


僕の返事と同時に息子が話し出す。


「はい、

僕がジュンさんに用があったので。

伝えたい事は話し終わったので、

戻るか消えるかしなきゃと思って…

適当に何処かのドアを通れば、

ここでは無い何処かへ

行くと思ったんですけど…」


「何故か戻れない…って事?」


「………ちょっと待って。

ねぇ、息子って…

僕、息子って名乗って、

ジュン兄に謝らなくても済むように

仲直りしに行く…夢見て…

夢から醒めて…行かなきゃ…って

考えてた所なんだけど…

…『グンは、ジュンしか愛してなかったし

愛せなかった』……

僕が考えたセリフ……

もしかして……ジュン兄…聞いた?」


「うん…」


僕もてっきりそうだと思った。

けど、ここにいる彼は……??



「僕が…未来で願った考えと…

今の父さんの考えが…

同じで…

同調したから、ここに来れたって事…

…ですかね…!」


「「……なるほど……」」


「けど、どうやったら消えれるのか…」


「「わかる訳無いよ……」」


「……まだ…僕が生まれる可能性が

あるって事…なのかな……」



息子が生まれる可能性。


それは、グンが誰かと子供をつくるって事。

子供をつくる行為…しかも当然女の人と。



「僕が産まれるって事は、

…言いたくないですけど、

父さんも、ジュンさんも、

みんな不幸になるって事なのに……

今日2人が別れなければ、

大丈夫だと思ったんだけどな…」



ホント、よくわからないけど、

この息子と名乗る子が

僕とグンの為に、来てくれた事はわかる。


「君も、ここで生活出来ればいいのに…

出来ないかな?」


「え!?僕が2人いてどーするんですか!」


「え?グンが2人いたら、

仕事とか半分で済みそうじゃん。」


「え…

父さんの代わりなんて出来ませんよ…

僕…多分、ここで生活出来ません。

さっきから、頭痛と吐き気が…

…とりあえず、僕が知ってる限りの…

ジュンさんと父さんが

どれだけ不幸だったかを

話さなきゃなのかな…

知ったら、

ホント別れるとかしないと思うから…」


「ゔゔっっ!!!」


グンがいきなり頭を抑え苦しみだした。


「グン!大丈夫?!」


「頭が…割れ…そぅっ…!」


うずくまるグンの背中、腕に手を回し、

顔を覗いて様子を伺う…

痛がる様子が尋常じゃない…

唐突で…

大丈夫かな…


どうする事も出来ず、

あと少し…少しでも治らなかったら

病院かな…と本気で心配しながら

背中をさすった。


息子も心配そうに見てる。


背中が震えだす。


…泣いてる?


「…ジュン兄…

ごめんなさい……僕……

ジュン兄に酷い事……」





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