Fantasy 「天使と死神」

天使と死神 前編






「ねぇ、神サマ!

どうしてテクトスはここにいないの?!

下界?」


「……どうだったかなー…」


「ここにいないもん、下界だよね?!

どうして……?僕が原因?」



ここは天国よりまた少し下界と離れた天界。

綺麗な物も、汚れた物も、何も無い空間。



「………ここにいる…私も天使達も…

愛する気持ちは誰にでもあるけれど…

誰か1人を深く愛する事、

それは危険な事なんだよ。」


「………だからテクトスに会えないの?

何で僕はここにいて、

何でテクトスがここにいないの?!

あんなに純粋な心を持ったテクトスが

一番ここに居るべきなのに…」


「……乗り越えられる試練しか…

与えていないつもりだよ。

テクトス、セレネ、2人共にね。

そして…

私でも無く、天使達のイタズラでも無く、

強い気持ちが働くと運命が息づく…

……己の命は私にも操れない…」





命の重さなんて知らない。


習った事も見た事も無い。



天界で暮らす天使達は僕を含め、

人間に気まぐれに幸せを運ぶのが仕事。


中でも自然で綺麗なモノを創り出すと

人間達は幸せになるみたいだし、

下界の生き物が輝きだす。


……この仕事、嫌いじゃないけど…

ずっと一緒にしていくものだと思っていた。


テクトスと。







・・・・・☁️・・・・・・・・・・・・

これは 離れ離れになった ふたりの物語

・・・・・・・・・・・・☁️・・・・・






「…なかなか光らないね…」


「……んぁ……ちょっ…光っ…て…ないか…

セレネのは少し光ってるよ!」


「そうかな?じゃあこれを星屑の中に

入れちゃおうかな!

テクトスのも入れちゃお!」


「ん?これ入れたら怒られるでしょ。

星は難しいね…

セレネ、沢山つくって?」



幼い頃、

よく2人で遊びながら色々創る練習をした。



「テクトス!その花、枯れてなかった?!

凄いキレイに咲いてる!!」


「うん…ずっと見てたらこうなった。

創り出すのは苦手だけど

もともとあるのをキレイにするのは出来る…え、何それ!キレイ!

セレネがつくったの?

…………すごー……キレー…」



輝く雲を創った時

綺麗と感動して喜んでくれたテクトスが

創れた事より嬉しかった。

あぁ…テクトスに喜んで貰えるように

綺麗なモノを創れるようにならなくちゃ…



だから数年間の修業期間、

テクトスと会えなくても頑張れた。


これが出来たら

テクトスの喜ぶ顔が見れる。

テクトスを幸せにできる。

2人で……


なのに

修業が終わり天界のいつもの場所に戻っても

何故かテクトスの姿が無い。

まだ修行中かと、いつまで待っても…



"…誰か1人を強く愛する事…"


テクトス、僕と離れていた時に

君は誰かに恋に落ちたの?


君は今、幸せなの?どこにいるの?


僕の羽はあの頃より大きくなったよ。

テクトスの羽は?

僕より真っ白で大きく輝いていた翼は

自分で捨てたの?

………誰かを愛したの?



神様が本当に

"乗り越えられる試練しか与えない"なら、

僕のこの試練は何?

……乗り越えられるの?



テクトス、

会いたいよ。

君の心が誰かで染まっていても。




今日もこっそり下界に降りて

テクトスを探す。

雲の上で遊んで気を紛らわしても

見つからないショックは紛らわせない。

天使達からも情報を集めた。

すると、修行中に翼を黒に変えられた

天使がいるという噂を耳にした。

……テクトスかも知れない。



天使から、何故か死神に…?

翼が漆黒に変わると

余り自由に飛べないと聞いた事がある。

…だから僕に会いに来れないのかも…

…一人かも知れない。

…僕に会いたいと思ってくれてるかも…


そんな微かな期待を抱かないと

僕は空っぽになってしまう。



楽しみが無い暮らしが続いても、

僕達の命は途絶える事が無いんだから…


命の儚さなんて知らない。





・・☁️・・・






セレネは元気にやってるみたい。


神サマは下界に降りる俺に鏡をくれた。

その鏡は神サマから見たセレネが時々映る。

…今日も笑顔可愛いな…

…今日は疲れてるのかな…

…今日は嫌な事があったのかな…



天使の修行期間中、

いきなり死神にコース変更された。

セレネに会えなくなる戸惑いで

俺は神サマに怒りをぶつけた。

…そっと俺の胸に手を当てる神サマ。


『この胸を焦がすほど、

一人の天使を思ってるな?

時には欲望や邪念に負けそうになっとる。』



セレネが屈託の無いキラキラな笑顔で

見つめてくる度に胸の痛みが大きくなった。

…唇に触れたい。

舌を絡ませたい。その胸、お尻、性器…

触れたらどんな顔になる?

…触れた時、感じるセレネを想像した。

想像しただけで自分のモノが強く脈打つ。


その度に不幸になった天使の噂話を思い出す。



"2人とも羽をもぎ取られたらしいよ。

…性交渉したんだって。

バカだよね。強く1人を愛するなんて。"



僕はバカなんだ。

…神サマは俺とセレネを救ってくれた。



お別れの挨拶は出来なかったけど、

いつもセレネを感じられる。


…セレネが造った綺麗な星や雲を

直接見れる時が来るかもしれない。

そんな微かな期待だけを胸に過ごしている。



鏡越し、

セレネの笑顔が見れるだけで

俺はとても幸せな気持ちになる。


セレネ、ずっと笑っていて……






「----年--月--日--時--分--秒…

ーーーー、貴方の命は途絶えました。

この階段を登るといい。

先に命を終えた人と逢えるかも…」



毎日繰り返す仕事。

出来るだけ機械的に…

死する人の感情に飲み込まれないように。

そして'先に命を終えた人と逢えるかも'…

逢いたい人に逢えるかもという

薄い希望で相手と俺の気持ちを納得させる。



天国へ行ったら…幸せなのかも知れない。

けど…

そこは穏やかに過ごせる空間だけど…

深い愛情は生まれないんだよ…


生きて、

苦しんで、

もがいてこそ…

強い感動、深い愛情が生まれる。



この生きている世界でしか味わえない…

命は重く、とても儚い。


それに気付いてしまった俺…


神サマはなんで俺にこの仕事を

命じたんだろう。



永遠に、死の悲しみに触れる仕事を。





いつものように、

仕事の合間にセレネの痕跡…

綺麗な雲を探す。


今日の月の輝きはとても綺麗だから

それも何処かの天使の仕業なのかも。



町を広々と見渡せる、坂の上に立つ。


人間からは見えない俺の姿。

けど見えないだけでかなり人間に近い。

天使の様に気まぐれに

何処にでも飛べるわけじゃない。

働いて、食事して、寝て起きるけど

寿命が無い…

生きているお化けって所かな。


稀に霊感の強さで俺が見える人間もいる。

大抵は困らないけど

何かトラブルが起きた時や、

人間の命が途絶えた時にも

記憶を操る事が必要だから

その能力が死神には備えられる。

俺は、もともと持っていたらしいけど。


『お前の瞳はやっぱり特別な力がある…』


神サマに褒められたけど

セレネに褒めて貰いたいかったな……




今日は月の明かりを使って輝く

綺麗な雲はひとつも無い。

…セレネの痕跡は見つからない。


逆に雲のような霧が坂の下に広がっている。


1人の人間が霧の中を跳ねるように踊ってる。


…ちょっとセレネに似てるな…

けど翼が無い。


雰囲気の似た人間に近づいた。

どうせ違う事はわかっているけど…


セレネの翼は真っ白でその霧の様にフワフワ

少しだけ羽を舞わせながら

優雅に動くんだ……

手も、脚も、そう、そんなふうに優雅に……



「テクトス!!」


?セレネの声………


「やっと逢えた……」


駆け寄られ、抱き着かれる。

ぶつかって来た身体は暖かくて…

雲のような、懐かしい星のような、香りも…

甘く、優しく、柔らかい。


「えっ?……セレネ……?

どうして……羽は……?」


「僕、人間にして貰ったんだ!

だから…こうしてテクトスに逢えたし、

一緒に過ごせるんだよ!

テクトス…元気だった?

テクトスは…死神の仕事大変?

あ、僕年齢20歳くらいみたい。

まだ少し能力あるし

どうにか人間界に馴染んでいくつもりだから

テクトスも人間の記憶とか

上手く生活できるように手伝ってね?

嬉しい?

あ!ほら!僕が作った雲!あっ…霧⁈

早く…テクトスに見せたくて……

………テクトス……迷惑?」


「……意味わかってる?

…なんで人間になってるの…?」


「…けど…人間になったら

会えるかなって…会いたくて…」


「セレネ……セレネは…天使でしょ?

ずっと笑顔で、

その笑顔みたいな綺麗な星な雲…作って…

ずっとずっと……幸せに…」



ダメだ。


このままセレネが人間として

すぐ命が途絶えてしまったら……


俺は何の為に死神に?

俺は何を楽しみに生きて行けばいい?


自分勝手?


セレネだって…

いつ途絶えるか分からない命より…




セレネの身体を抱き上げ、

急いで俺の部屋に帰る。

抱えるセレナの背中には翼が無いし、

触れると痛みを堪えるように顔を歪ませる。


「……ツ…」


「………」



…翼を無くしたばかりか…?

絶対大きな傷痕になってるはず…

…神サマなら…まだ翼を戻せるかも…


神サマに頼もう…

神サマ、セレネを天界に戻して…

神サマ、神サマに伝える手段…

…鏡に伝えれば、届くかな…




神サマに

セレネの ふんわり舞う羽を、真っ白な翼を、

戻して貰えるよう必死に願った。



僕の能力、命と引き換えにでも。



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