短編集【恋愛SF.Fantasy】

けなこ

SF「初恋と海」

初恋と海 前編




何年前だろう。


何の迷いも無く、ジウの隣で子供ながらに

愛の言葉を呟いていたのは。



笑いながら信じてもくれない

4つも歳上なジウ。

まだ僕が子供だから…しょうがない…?


あと何年かしたら

全て受け入れてくれるかな。

…信じてくれたら

僕を受け入れてくれるかな。

…信じてくれたら

ハッキリと断られるのかな。


…ジウと共に歳を重ねたい。

断られても、僕は挫けずに

迫り続けるだろうと思っていた。

どっちにしろ

隣から離れない自信が僕にはあった。




地球の異変が起きる前までは。







・・・・🌏・・・・・・・・・・・・

これは 離れ離れになった ふたりの物語

・・・・・・・・・・・・・・🌏・・






地球の変化…

宇宙のエネルギーが集中して豪雨が続いた後

大部分が海に覆われた。


僅かに生き残れた人間に割り振られた役割は

僕等に対しては残酷な事だった。


優秀なDNAを残す事。

土地を守りながら侵食してくる海を

調査したり

陸へと変わる希少な浅瀬を探す事。


彼は前者で僕は後者。


天体観察が好きだったのに僕は

船上で水平線や海底しか見なくなっていた。

趣味を謳歌する時間なんてない。

全ての人々に。

そもそも いつまた急激な地球の異変、

何が起こるかわからない世界では

自由な時間は不必要だった。



政府が新しく打ち立てた法律は

男女の結婚、子作りが優先され

同性の恋愛に対しては

今までも優遇されていた訳じゃないのに

更に罪まで受ける事になってしまった。



頭脳、人柄が優れていてセレブな子孫は

安全なシェルターで生活。

DNAが守られる。


また、子供を作る夫婦は

シェルターでの生活が保証された。





引越しの日。


「…僕か、グクランが、…女の子だったら…

結婚出来たのにね…」


「……僕がシェルターに住めないから…?

心配してるの?」


いつも凛と立ち、

どこをとっても完璧なスタイルのジウが

肩を落として俯いてるいるから

僕は少し首を傾げて

覗き込み見上げながら問いかける。

すっきりした目元は心なしか赤く腫れていて

唇はいつもの癖で尖らせてはいたけど

珍しく唇を噛み締め出した。


「……」


「……それとも今の、プロポーズ?

結婚したい程

僕のことを好き?愛してる?」


「…バカっ!誰かに聞かれたら…っ!」


ジウが僕の腕を叩いてくる。

軽いボディタッチにしか感じないし、

この距離の近さが当たり前なのに……



狭い陸地に壊れそうな家が立ち並ぶ

スラム街のような僕の住処。

その隣、希少な森の中を進むと

頑丈な高層ビル。

その上階にジウの新しい住処、

シェルターがあるはず。


周りにも友人、恋人達が

暫しの別れを惜しむ言動が溢れていた。


「…大丈夫、誰も聞いてないし

こんな言葉だけじゃ捕まらないよ。」


僕の腕を叩いたまま

名残惜しんでくれてるように留まっている

ジウの手を握る。


「…それでも目をつけられるかも…」


「…ジウは、もうシェルターから

出る事は無いんだって?」


「…え?ああ…そうらしいから…

グクラン、逢いに来てよ。

…海の調査で忙しいのはわかるけど…

いつでも構わないから…」



お互い握りしめる手を離せないまま

暫く時が過ぎたけど、

どうにか笑顔を作って送り出した。


遠くからも振り返り手を振るジウに、

見えなくなるまで何度も繰り返して。





・・・・・🌏・・・






以前だったら、離れていても

電話で声が聞けたのに……


調査で何も無い海を船で彷徨った後

陸に戻っても電波の乱れ、

シェルターの防衛力のせいで

電話どころか、メッセージのやり取りも

ジウとは出来ないでいた。



離れて数ヶ月、ジウに逢いたい。

待っててくれてるかな。



…海の調査は形だけのものだった。

原因不明の地球の変化が

また激しくなる可能性は高い。

いつ激しくなるか…原因がわかっても

人間に阻止出来るはずが無い。


終わりを受け入れるだけ。



愛する人と暮らす事も…

愛する人を抱きしめる事も…

僕は出来ずに終わるのかな。



再び海へ出るまでの間、陸で過ごす2.3日

毎日ジウのシェルターへ行った。


建物の下まで。



当初は僕も入れるはずが

規制が強くなり、見上げるだけの日々。


足元を浸す水が

少し暖かく感じる春先。



彼の所から見下ろす景色は

下の森や隣のスラム街のような家々は

どんなふうに見えるんだろう。

遠くまで広がる青い海の方が美しいのかな。

その海がいつ襲ってくるかも

分からないのに。


…もうシェルターの中しか見てないかもな。

シェルターの中では別の時間が流れていて

もうその中の暮らしが日常なんだろうから。



『子供が出来なくても、

ジウとずっと暮らしたい。

2人がいい。ジウと。』


まだ同性愛者が罰せられない時、

何度かジウに伝えた言葉。


ジウはただ笑ってた。


また、ジウに…今、話したら…


ジウはまた笑うのかな。




「グクラン君?」


見上げていた建物下から聞き覚えのある声。

幼い頃から知っているジウのお父さんだ。


「…あ、おじさん…お久しぶりです…」


「……しっかり大人の男に成長して…

危うく気付かないところだったよ。

どうしたんだい?ジウに用かな?」


「……はい、けど…

会えないんです。許可が下りなくて…」


「…………わたしと一緒に来るといい。

ジウも待ってるはずだから…

ジウとの会話はいつも昔話。

…グクラン君の話題は良く出るよ。

というか、…君の話の時だけ笑うから、

わたしが良く話題にさせて貰ってるよ…」


「え、僕の話題…?

何ですか…?テストで赤点とった時とか

スポーツで怪我した時の話題とか…」


「はっは!…まぁ…そんな話かな。

グクラン君の笑顔は回りを明るくするよね、

また見たいよねって…そんな話題…」



ジウのお父さんに連れ添い

シェルターの中に初めて入れた。


僕の住処とは違い、

真っ白で清潔感が漂う。

静かで落ち着いていて安心するはずなのに…


数ヶ月ぶりに会える喜びからか、

激しい胸騒ぎがする。



「わたしは別の所へ行くから

ジウと久しぶりに2人で話すといい。

…っと、これを渡しといてくれるかい?」


「はい、」


大きな封筒を受け取り、

手を振り去っていくおじさんに頭を下げた。





ドアをノックすると

ノブに手をかけるよりも先に勢いよく

ドアが開いた。

一瞬見えたジウの泣きそうな瞳は

すぐ僕の肩に埋まり、

同時に強く暖かい胸が重なった。


「…もぅ……会えないかとっ……」


ふわふわのコットンが触れるように

ジウの息が首もとに心地良い。


僕もジウの首に囁く。

日向ぼっこでもしたような太陽の香り。

ずっと窓辺にいたのかな。


「…うん……僕も…不安だった…」


「いや…僕の方が…

グクランは海から帰って来ないかもだし…

シェルターに住む為に結婚するかもとか…」


「ふっ…それは無い。

そんなにシェルターには惹かれない。」


首にほぼ唇を着けながら話し、

話していない時も唇を当てる。

キスを繰り返した。


「……僕は…っ…それでもグクランと

シェルターで暮らしたいと思うけど…」


少し身体を離し

ジウの顔を覗こうとした時、

おじさんから受け取った封筒を

床に落としてしまった。


広がる女性達の資料。

まるでお見合い写真のような……


「…あっ…ゴメン。

おじさんからジウに渡すように頼まれた物。

落としちゃっ…」


ジウは慌てて床にしゃがみ、

隠すよう封筒に戻し始める。


「……そんなに…隠す事無いよ。

結婚…させられるのは、ジウって…

わかってるから…」


封筒に資料を仕舞い終わっても

しゃがみ込んだままのジウ。


「…ジウ…

僕とはこの先も…会える保証は無いし…

今はジウの残りの人生を考えないと…」



また笑うかな。


僕の本気はいつもジウの笑顔と共に

宙を舞う。

なんだか泣けてくるけど。


ジウは…こっちを向かない。

しゃがみこんだまま。


「……ジウ…?」


返事が無い。

俯きゆっくりと立ち上がるジウを

どうにか覗き込む。


なんで泣きそうなんだよ……


「ジウ、…ジウ、…ジウー…」


「……なに、なに…なに……」


「…結婚したくない…?」


「………したいわけ無いだろ……」



その言葉だけで十分だった。



その言葉を絞り出してくれた唇に

ゆっくりと自分の唇を重ねると

柔らかいのに弾力があり少しビックリした。

そして、改めてこのキスが

初めだった事に気付いた…


「……僕、初めてだ…」


そしてこれが最後だったりして…



「……バカ…僕だって初めてだし……

この先も…グクランとしかしないし…」



そんな信じられない事を囁く愛しい唇に、

口に出したら苦しくなる言葉が出ないように

自分の唇を重ねて自分の言葉を封じる。



長くはないはずの未来。


次…いつ逢えるかも分からない……


何度も柔らかな唇に口付けをし、

更に舌も絡ませて深みを増していく。


身体を引き寄せて密着させると

手や脚が自然に絡み合う。


僕の下半身は次第に硬くなってきて

多分ジウに伝わってる。

それでも深い口付けは止まらない。


息もつけないで漏れる息が熱くて危うい。

苦しかったからか、

潤んだ瞳と真っ赤になった顔のジウが

僕の頬を両手で包み訴えて来た。


「…カギ……かけて、ベットに…」


ドアの近くで立ったまま

夢中になっていた。


直ぐに鍵をかけ、

ジウの手を引きベットに座らせる。


手は握ったまま。


僕は正面に立ち、

幼い頃から告白していた言葉を告げる。



「好きで、大好きで、愛してる。」


「……僕も。好き…っ…」



ジウは今までと同じ笑顔だったけど

返事をくれた。


…もしかしたら続きも言ってくれたかも…


僕は待ちきれず唇を重ねた。






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