第3話 姉の婚約者
ようやく状況を把握した二人は、私を受け入れてくれた。
「ねえ、令和ってどんなとこ?」
「うーんとね。とにかくビルが多い。」
「ビル?」
この二人は、令和の事を地名だと思っているらしく、どうやら私は未来人だと言う事を隠す事ができた。
「古都。あまりおしゃべりしていないで、夕食作るの手伝ってちょうだい。」
「はーい。」
古都と言われた女の子は、なんとなくお姉ちゃんの高校生時代に似ている。
「ごめんなさいね。古都がいろいろ聞いちゃって。あっ、私の名前は美乃。宜しくね。」
こちらは美人さん。
私に似ていると言いたいが、私はこんなに美人じゃない。
それよりも気になるのが、さっきから古都ちゃんも美乃さんも、ソワソワしている事だ。
何か良い事でもあるのかな。
すると玄関の方から、『おじゃまするよ。』という声が聞こえてきた。
「来た来た。」
最初に動いたのは、古都ちゃんの方だった。
「もう古都は、有一さんの事になると、誰よりも早いんだから。」
「へへへ。」
そう笑いながら古都ちゃんは、玄関に向かった。
「いらっしゃい。」
「古都ちゃん、元気か?これ、お土産。」
「ありがとう。」
そしてその声の主が、居間に現れた。
一瞬私を見て驚いていたけれど、二人が私に馴染んでいるのを見て、すぐに受け入れてくれた。
「後藤有一と言います。」
「杉沢蕾です。」
お互い正座して、手を付いてお辞儀した。
こんな正式に自己紹介したのって、生まれて初めてだ。
「有一さんはね、私達の両親が空襲で亡くなってから、私達の面倒を見て下さっているのよ。」
「へえ。」
そんな奇特な人もいたもんだ。
昔の日本は、そんな助け合いみたいな精神が、息づいていたのかな。
「蕾さんは、いくつ?見たところ、古都ちゃんと同じくらいに見えるけれど。」
すると古都ちゃんが、有一さんの隣を占領した。
見てて分かる。
古都ちゃん、有一さんが好きなんだ。
「私は17歳よ。」
「えっ?私、15歳だよ。」
古都ちゃんは、自分を指さして言った。
「うっそ、年下なの!?」
私も古都ちゃんと同じくらいだと思ってた。
と、言う事は……
「私は18だから、私の方が歳は近いわね。」
食事の用意をしてくれた美乃さんにそう言われ、自分でも信じられない状況が起こった。
「まあまあ。俺は21歳。軍人をしている。ここには時々来ているよ。」
この姉妹もいい人だが、有一さんもいい人だった。
食事が終わった後、私は古都ちゃんの隣に座った。
「ねえ、古都ちゃん。有一さんの事が好きなの?」
すると古都ちゃんは、急に無表情になった。
「違うよ。」
「そんなぁ。見てれば分かるよ、好きだって。」
そんな私を古都ちゃんは、ちらっと見た。
「有一さんは、お姉ちゃんの婚約者だよ。」
「えっ……」
歯を食いしばって、泣くのを堪える古都ちゃんを、私は思わず抱き締めてしまった。
「私もね。最近失恋したんだ。」
古都ちゃんは、うんと頷くだけだったけれど、叶わない想いを抱えている者同士、友情が芽生えた気がした。
その日は、古都ちゃんと一緒に、恋バナをして盛り上がったのだった。
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