第4話 出兵

ここに来て、2週間。

だんだん、戦争は激化していった。

私は、美乃さんと古都ちゃんが作ってくれた、モンペを履き、防空壕も、有一さんと一緒に作った。

「これで、空襲があっても、少しはしのげるでしょう。」

有一さんは、美乃さんを見つめる。

そんな二人を、古都ちゃんは悲しそうに見ていた。


そんなある日の事だった。

その日も、有一さんはこの家を訪ねていて、4人で仲良く夕食を囲っていた。

ふと、会話が途切れた時だった。

「話があるんだ、みんなに。」

すると二人が一斉に、箸を置いた。

それを見て、私も慌てて箸を置いた。

「今度、出兵する事が決まったんだ。」

私は目を大きく見開いた。

出兵するって事は、戦争に行くって事!?


だけど、その時信じられない光景が、目の前に広がった。

「おめでとうございます。」

美乃さんが、三つ指をついて、お祝いの言葉を放った。

続いて、古都ちゃんも頭を下げて、『おめでとうございます。』って言った。

「何が、おめでとうございますなの?」

私一人が、感情を置き去りにした。

「戦争に行くって事は、死ぬかもしれないって事なんだよ?」

「蕾ちゃん……」

古都ちゃんが、私の腕を掴んだ。

「特に日本なんて……!」

そう言ってハッとした。

私は、何を言おうとしてたの?

これから出兵する人に、『日本は負ける。』とでもいう気だったの?


「蕾さん、あなた何を知っているって言うの?」

冷静に美乃さんが、私を見つめる。

「いや、あの……」

「知らないのなら、黙ってちょうだい。」

静かな口調だけど、怒っているのは解かった。

「有一さんは、生きて戻ってくるわ。」

涙をぽろぽろ流した美乃さんを見ると、それ以上何も、私は言えなかった。


それからしばらくして、有一さんの出兵の日。

私達3人も、有一さんの家に行って、戦争に行く有一さんを見送った。

その時の万歳は、一生忘れない。


日本は、戦争で沢山の人が命を散らした。

有一さんも、どうなるか分からない。

でもここにいる人みんな、万歳の陰に『生きて帰って来なさい。』という願いが込められていた。


有一さんが、私達の家を訪ねて来なくなって、久しくなったある日。

美乃さんは、タンスの奥にある着物を出していた。

「それ、どうするの?」

私が聞くと、美乃さんは残念そうに微笑んだ。

「私の着物。売ろうと思ってね。」

昔の映画でよく見かけた。

食べる物やお金がない時に、着物を売っているシーン。

「……食べる物ないの?」

「全くない訳じゃないけれど、もう少しになってしまったわ。」

美乃さんは、一番綺麗な着物を選んでいた。

「ごめんなさい。私がいるから。」

「そんな事ないわよ。これでまた、美味しいご飯食べられるようになるからね。」

そう言って、美乃さんは一人、着物を売りに行った。


家に残った私は、タンスの中をそっと見た。

綺麗な着物が、もう半分もなかった。

きっと今までも、美乃さんは自分の着物を売って、食べ物に変えていたのだろう。

それを知った私は、なぜか胸が苦しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る