終奏部(エピローグ)ホワイトデー

『――では、補講日の本日の一曲目は【蒿雀ミオン】の【一人ぼっちのプロモーション】をお送りします』


 ♪♫♪♫♪〜♫♫♬♪♪♪.〜――



「おっ!ミオンさんの隠れ名曲やん!」


「誰がリクエストしたんだろ?結構マイナーな曲なのに……」


「アンタらは進級プロモーション出来るの?何かうちだけ2年生に成りそうやけど」


「アホか!俺はコヨリより成績上やぞ!お前こそ卒業出来るか心配せえ!」


「卒業で思い出した。チャリオ!アンタ卒業式の日、姫ちゃんに『ブラウスの第2ボタンください』って、言ったらしいな。アンタは変態エロオヤジか?」


「ちゃうわ!純粋におっぱい見たかっただけじゃ!下心なんか一切無いわ!」


「下心しか無いやん!!」



 あの事件から一ヶ月が経った。

 本日、僕達は事件で休校に成った分の授業を受けに学校にやってきている。

 この一年生の教室を使うのも今日が最後なので、僕達3人は授業が終わっても教室に残り、一年間の思い出を語り合っているところだ。


 因みにコヨリさんの手には傷跡は残っているものの、驚異的な早さで完治している。



「あれ?お前ら、今日は部室を使わないのか?」


「源田先生!」


 通りがかった源田先生が教室に顔を出した。


 先生は事件後、各方面から色々怒られて大変だったみたいだ。

 先生は笑いながらその事を話してくれたが……。



「何か知らんけど、今日は部室に高原先輩らがんねん。部長以外は全員来てたんちゃうか」


「何で阿部だけ来てないんだよ!本当にアイツは……」


「僕達の為に曲を作ってくれてるんで、忙しいのかも知れません」


「そうか、お前らユニット組むんだったな。頑張れよ」


「ハイ!有難うございます!」


「うちもツナ達のボカロチームに入るねん。うちが主役の巫女Vチューバーに成り、ミオンに祝詞を歌ってもらうんやで」


「お前!何、勝手に主役に成ろうとしてんねん!お前は宣伝係や!メインはミオンさんやッ!ボケッ!」


「どうでもいいけど、お前ら面倒は起こすなよ。俺、新学期から担任を受け持つ事に成るけど、お前らのクラスだけは勘弁して欲しいよ」


「おっ!これは完全にフラグ立ったな」


「言霊は返ってくるで〜」


「やベッ!とりあえず、お前ら!あまり遅く成るなよ!鬼が出るぞ!じゃあな!」



 生生の話では、比企野ひきのあやさんは現在病院に入院しているらしい。

 彩さんは警察の取調中、急に精神が崩壊したかのように謎の歌を歌い続けだし、会話がまともに出来なくなってしまったそうだ。

 まるで比企野さんの最後のような状態らしく、病室のベッドに拘束されてるらしい。

 だからカミゼンさんが【切り裂きの呪文】以外にどんな呪文を作っていたのか、どれほど呪文を拡散させたのか、現在呪文は誰かが所持してるのか、色々分からないままなのである。

 呪いの発動スイッチとなる刀、膝丸こと【雨吠丸】は石英さん達が保管しているので大丈夫だと思うのだが……。



「そういえば今日はホワイトデーやな。アンタら、うちにお返しのキャンディーは?」


「お返しも何も、俺らコヨリからチョコ貰ってへんぞ」


「エアーチョコをあげたや〜ん」


「あっ!そうか!そやな、ほな返すわ。ちょうど外にが降ってきたわ。好きなだけ持ってけ」


「アレはちゃう。や」


「ホントだ!久しぶりの雨だね……」


 窓を開けると石の香りペトリコールが教室に入り込んできた。


 そういえばあの日から今日まで、京都市内には一滴の雨も降っていなかった。

 一ヶ月ぶりの雨だ。


 あの日、京都を襲った水災は、飽くまでも自然災害として扱われている。

 奏和ちゃんの存在も、超音波呪文の存在も、世間には公表されていない。公表すれば世界中がパニックに陥るからだと思う。国もこの事件をどう対処したらよいのか、思案中なんだろう。だから奏和ちゃんは現在、学校の方も行方不明による休学扱いに成っている。


 そう……あれから一ヶ月経つが、実は奏和ちゃんの安否は確認されていない。

 あの日依頼、石英さんから僕達には何の連絡も無いので、奏和ちゃんを発見して助け出したのかどうか分からない状態なのだ。


 だが僕は信じている。

 彼女は何処かで必ず生きていると……。

 治療して僕達の前に元気に戻って来てくれるはずだ。

 そしてその時、僕達の新生ボカロチームは活動を再開する。

 世界中を感動させる音楽を配信するつもりだ。

 僕達の愛の力で――


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「あれ?」


 ♪♫♪♫♪〜♫♫♬♪♪♪.♫♫〜――


「どうした、ツナ?」


「いや……今、この流れてる曲にノイズが入ってたような……コヨリさんは聞こえなかった?」


「いや。うちには聞こえんかったで」


「コヨリさんに聞こえ無かったら、僕の聞き間違いかな……」


「やめてくれや。もう呪いは堪忍やで」


「……そうだね」


 そうだ……呪いなんかじゃなく、僕達の愛の力で聞いた人が幸せに成る音楽を創るんだ!みんなが笑顔に成る、楽しい音楽を……。


 僕は小雨を浴びる校庭を眺め、優しい雫の音に耳を傾けながら、不安に成りそうな気持ちを打ち消した。

 窓辺に佇む僕の脳裏には、いとしの人がイラストを描きながら、和やかに微笑んでる姿が浮かんでいる……雨が奏でる音と共に……。




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 〈終奏〉

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電音の愛し姫 押見五六三 @563

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