少年少女異世界チート記

なつき

第1話 異世界『エデン』

 トウヤ達のクラスが異世界に転移し女神達から魔王伐を頼まれた時、王国に魔王が攻め込みその右腕に自分の幼馴染――ヤチエが現れたのだ。


 ◇◇◇


 ――トウヤのクラスが異世界に喚ばれたのは中学の修学旅行のバスの中。班の皆で話ながら、トウヤは幼馴染のヤチエとどこを廻るかと話ていた。そんな時だった。


 気づいたら自分達の一部は石造りの天井の高い六角形の室内に居て。それぞれの頂点にある椅子に座る幻影の『五人の女神達』から喚ばれたらしいと、トウヤは目の前にいた聖剣の化身である少女『ティストル』と白魔導士の少女『如月ハルカ』から説明を受けた。


 ……説明されたこの世界は魔王が放つ『魔獣』から殆ど滅ぼされており。自分達のいる街であり王国の――『エデン』以外はもう、国は無いのだとか。


 自分達はその魔王と魔獣を倒して世界を平和にする勇者になって欲しいと頼まれた。


 もちろん。ただでは無い。ご褒美として魔王達と戦う力――『神の力アバス』を聖剣ティストルから授けて貰い、何と魔王を倒して現実に帰っても使えるようにしてくるとか。


 ◇◇◇


「……んで。この状況な訳だよカズトシ君」



 困惑したトウヤの問いに、



「確かにこんな状況だよねー」



 ちょっと大人しい雰囲気な少年――カズトシが苦笑する。彼は自分達の班のメンバーで親友だ。



「お前どんな能力だった?」


「僕は『物語の中に閉じ込める能力』だってさ」



 小動物みたいにちょこんとしながら答えるカズトシだ。



「そーかぁ。小説家になりたいお前らしいな。俺なんか『癒しの力』らしいぜ。全く強くねぇー」



 苦笑するトウヤ。そう、彼の力は癒しの力。何の役に立つのか不明だ。



「だ、大丈夫だよ。霜月君、頭良いから……」



 そんな時声がかかる。見知った声に顔を上げるとそこには金髪碧眼の美少女がいた。



「アリス。お前も無事で何よりだよ」



 何とかアリスに喋りかけるトウヤ。そんな彼におずおずと上目遣いで窺いながら近寄るアリス。彼女も班のメンバーで見た目がとても日本人離れしているが日本人で、しかも引っ込み思案ときた。どうにも自分には小動物系が懐いて来やすいみたいだと、トウヤは感じていた。



「ねぇ霜月君……。私達、やっぱり異世界に来ちゃったんだよね……」


「だな」


「私達……帰れるかな?」


「判らんな」

 

「でもトウヤ君。ここの力を持って帰って良いって言ってたからワンチャンあるかも知れないよ? それにゆめさんやルナさんとか強い人も居るし……」



 トウヤの答えに繋ぐカズトシ。



「確かにそうだな」


「僕は絶対帰るよ! 帰って小説家になる――」



「ぷっ♪ またバカトシが夢見てる!」


「あいつの頭はいつも悪いからな~♪」


 

 その時目の前にいた二人がカズトシを指さしてにやにや嗤う。この二人はタクヤとナオヤ。クラスメートだ。



「小説家だってよ♪ どんだけ幸せな脳ミソしてんだろ♪ あんな中二MAXな奴がクラスメートで恥ずかしいわぁオレぇ♪」


「元から頭悪いから仕方ねぇーって♪」



 ゲラゲラ嗤いながら立ち去る二人。



「いいのかよ?」



 親指でしゃくるトウヤに、



「ただゴミを棄てただけでしょ? いちいち相手にする余裕無いよ僕には。

 ……それよりは居ないクラスメートだよ問題は」



 嘆息するカズトシだ。


 そう彼の言う通り。ここに居るのはクラスの一部だけ。後は皆行方不明だ。その中には幼馴染のヤチエもいる。気が気でないトウヤである。



「それはこれから捜すしか――」



「皆さん! 少し良いですか!!」



 その時可憐な声がトウヤとカズトシの会話を割った。


 二人が顔を向けた先には肩より伸ばした黒髪に白いローブ姿、丸くて可愛い眼差しの美少女さんがいた。


 彼女が『如月ハルカ』。自分達にここの世界を紹介してくれた美少女さん。職業ジョブは白魔導士だ。


 そしてその傍らには薄い蒼色を帯びた金髪の幼女がいた。彼女が『追儺の聖剣・ティストル』の化身である少女だ。



「皆さん、女神様からお話があるそうです! 少し時間をよろしいですか!!」



 彼女が呼び掛けるも皆はゆっくり集まりざわざわと私語をするばかり。彼女も必死に喋るも無駄話は終わらず、終いには呆れたティストルと顔を見合せ嘆息していた。



「とりあえず皆さん! 女神様達からお話があるようです!!」



 彼女はそう叫ぶと。部屋の中央にホログラフィーのような映像を浮かべた。


 そこには色んな見た目の五人の女神様達がいた。



『ここにいる皆様。聖剣から神の力を受け取って貰えたようで何よりです』



 そのリーダー格であろう金髪の女神『マリア』が微笑んだ。



『皆様にはその『神の力』を持って魔王を討伐して貰いたいのです! そして私達の世界に幸せを! 皆様にはその力をお礼に差し上げます!!』



 彼女が高らかに告げる。まさに女神のような神々しさ。


 ……しかし。クラス連中は私語をするばかり。ちっともまともに聴いていない。聴いているのはトウヤ、カズトシ、アリスぐらいだ。そんな自分達に女神様達は呆れた風は無いようにトウヤには見えた。



(……神の力って言うのはこの右手の甲に浮かんだ『翼ある太陽』のアザの事か)



 自分の右手を見つめるトウヤ。そこには確かにアザがある。特殊な能力を聖剣から貰った時に浮かんだので間違いないだろう。



「相手は強いのかな? 気をつけてかからないと……」



 不意にカズトシの声が聞こえた。緊張に震えた声だ。神妙な顔つきに良く見合う。



「ぷっ♪ またバカトシの中二発言だよ♪」


「どーせママに会えなくて寂しぃんでちょ~♪ マザコンだもんなぁあいつ♪」



 そんな彼をクスクス嗤うナオヤとタクヤ。



「なぁなぁなぁなぁ♪ 俺らの足引っ張らないでよぉ♪」


「引っ張らないよ」



 タクヤの問いに生真面目に返すカズトシ。



「なぁなぁなぁなぁ♪ 足引っ張らないでよ中二病♪」



 そんなカズトシにもう一度確認するタクヤ。



「引っ張らないって」



 対してカズトシは気になる事があるのかどうでも良さそうだ。そんな彼に「敵わねぇからスカしてやんの」とナオヤとタクヤは嗤っていた。



「あの……異世界からの勇者様達。本当に大丈夫なんですか?」



 不意にその時。如月ハルカが半目で皆に問い詰める。



「大丈夫ですよ美少女さん! 女神様達から俺ら力貰っているんですよ!! ゲームで言うならチートみたいなモンですよ!! すぐにパッパと終わらせますってぇ!!」



 若干見苦しい敬語になるクラスメート。彼女は美少女だから仕方ない。女子達は「男子サイテー」とか言っている。



「チートとかゲームとかは判りませんがこれから私の騎士団の前線基地に案内します。良いですか! 今からは命がかかっているのですからちょっとは真剣にして下さい!!」



 腰に手を当てて、半目で膨れっ面になる白魔導士の如月ハルカちゃん。悲しいかな、あんまり迫力は無いようだ。



「大丈夫大丈夫♪ 何と言っても俺の力は『何でも破壊する』でナオヤは『元素を操る』ですからね!」


「そうですよ! 俺の能力最強なんですから!!」



 タクヤとナオヤは高らかに自分の力を誇る。そう、彼らの能力は最強と言っても過言では無いだろう。



「へぇー? そんなに凄いのか。

 んじゃあいきなり私と戦っても大丈夫かな?」



 刹那。部屋の中央から余裕綽々の声が響く。


 唐突な事に驚き見やると、そこには黒いロングコート姿に仮面を着け、腰に二振りの剣を提げた青年が立っていた。



『ま、魔王……?!』

『そんな筈はありません! 魔王が居るわけ――』

『ですが目の前に――』



 蒼白する女神達。改めてトウヤが見れば如月ハルカとティストルも青ざめて後退っている。



「おいまさか……こいつが魔王か?!」



 タクヤの問いに。



「随分バカ面な勇者共だな。いかにも私が魔王だぞクソガキ共よ」



 煽る魔王様。



「て事はこいつを倒せばクリアか!! よっしゃ! チートでゲームクリアだぜ!!」



 言い終わるより早く、タクヤが力を解放し破壊の衝撃波を魔王に叩き込む!



「クリア? いやいや。君がコンティニュー出来ないのさ」



 対する魔王は気の無い仕草で人差し指を津波のような衝撃波に向けて。


 ちっぽけな魔力の光で弾き飛ばしたのだ。



「へ?」



 弾き返された破壊の衝撃波はタクヤに殺到し、そのまま彼を呑み込み――跡形も無く消し飛ばした。



「ほーれ言った通りだ。君がコンティニュー出来ないのさ」


「う、うわわ……」



 魔王の足元には腰が抜けたナオヤ。彼も何とかしようと力を解放する。



「げ……元素元素……あれ? 酸素って元素だっけ? いや窒素あれ?」



 必死に力を使おうとするナオヤ。しかし自分が思い出せるのは小学校低学年の理科の知識ぐらいだ。



「……呆れた。自分の力が及ぼす領域も理解出来んのか」



 その様子に魔王はため息をついて。



「あーもういい消えろ。目障りだ」



 あっさりナオヤを消し飛ばした。



「呆れた役立たずな勇者共だなぁ。女神様や」


「魔王様。お戯れは止めて下さいね」



 くっくっと嗤う魔王。その背後から静かな少女の声と共に影が滑り出る。



「大目に見ろよ『ヤチエ』。それとも私が敗けるとでも言うのかね?」



 フードを被った小さな影に魔王が気安く尋ねる。



「ヤチ……エ?」



 トウヤには聞き逃せない名前が、そこに出て来た。



「敗けるとは思いませんが、いちいち相手にする理由も無いのでは?」



 ゆっくりと『翼ある太陽のアザ』がある右手でフードを取りながら少女の影が咎める。


 そこにはトウヤの見知った顔がいた。少し茶色の入った黒髪を頬で揃えた幼馴染。ヤチエその人の顔が。



「ヤチエ……ヤチエなのか?!」


「あらトウヤとその他大勢。悪いんだけど、私の願いの為に死んでくれない?」



 叫ぶトウヤに、満面の笑顔で返すヤチエだった。

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