あと五分

深見萩緒

あと五分


「あと十分」

 担任が言った。このテストが終われば夏休みだ。俺は既に埋め終わった解答用紙を見直す。担任は机と机の間をゆっくり歩き回っている。

「あと五分」

 中年の男性教師の眠たげな声は、聞いていると何だか眠くなる。俺は問三の答え30が36に見えなくもないことに気が付いて、消しゴムをかけた。

「あと五分」

 また担任が言った。さっきもあと五分って言ってなかったか。適当な奴だ。30を30にしか見えないように書き直した時、消しゴムが机の下に転がった。拾う必要はない。消しゴムは二つ用意してあるし、テストはあと五分で終わる。

 視線を解答用紙に戻す。視界の端に担任の靴が現れた。消しゴムを落としたから、様子を見に来たんだろうか。

「あと五分」

 担任が言った。おかしい、もう五分くらい経つはずだ。そう思った時、「ふーっ」と担任がため息をついた。それは教室前方の教壇の方から聞こえてきた。

「あと五分」

 担任の靴が近付いてくる。俺は解答用紙を凝視したまま、視線を上げられない。

「あと五分」

 靴は俺の机の前で立ち止まった。

「あと五分」

 担任の声は真上から聞こえてくる。

「あと五分。あとごふぅぅん」

 俺のテストは、いつになったら終わるのだろう。

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あと五分 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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