第3話

ボードレール曰く、港は人生の闘いに疲れた魂には心地好い住家らしい。

とはいっても、シナノは内陸地ゆえに港などどこにもないのだが。

そんなことを考えながら、真琴は近所の唐松の森を散歩していた。

この森は扶桑の名士たちの別荘地になっており、よく手入れされている。

心の安らぐのを妨げる喧騒もなければ、木々がそれぞれ思い思いのままに茂り生じる陰鬱さもない。

ただひたすらに、澄んだ空気に触れることができる。

そんな散歩道は、呼吸をするが如く思索に耽る天性のphilosopherである彼にとっては絶好の環境に他ならない。

登山道のように過酷ではないし、また、人間という喧しい存在に疲れた心の慰めになる。

そして何より、活きのよいアイディアが渾々と湧き上がり、楽しそうに踊り出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Hound @kasane703

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ