虚空に叫く

Wigglis

0.プロローグ

そいつはただ走っていた。


「ァァァァァァァァァァァァァ!!!」


叫びながら。


「ガルルルルルル!!!」

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


一体の討伐には一師団を要すると言われ、

この森の中では「主」と呼ばれるほど強い

アークウルフを剣一振りで切り伏せ、

それでも止まることなく、少年そいつは走る。


少年の心の中には、悲しみや怒り、苦しみ、

そしてこの世に対する絶望が渦巻いていた。


親友だと思っていたやつに裏切られ、

愛する家族は皆殺されて、

故郷の村からは除け者扱いで、

家すらも焼かれて、

物理的にも、社会的にも、居場所を失った。


あの夜に、全てを失ったのだ。


そして今はそこから約8時間後、

少年は一度も立ち止まることなく、

森の中を走り続けている。

既に足は限界を超えていて

行きも絶え絶えだが、

そんなことはどうでもいい程に

少年──アストの心は荒んでいた。


初めは親友を憎んだ。

次に村人全員を憎んだ。

そして、この世界を憎んだ。


しかし何よりも憎かったのは、

全てを鵜呑みにしたが故に、全てを失った

愚かな自分自身だった。


だから、死のうと思った。

自分のことが酷く憎くて、嫌いになった。

森の中に逃げ込み、人目につかない所で

さっさと死んでしまおうと思った。


心に渦巻く感情に任せ、

アストは走り続ける、

人目から逃げるように────













────これは、全てを失った少年の物語。

その始まりに過ぎない。

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虚空に叫く Wigglis @fullboy

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