異世界信長 終
少し待った後、俺は再び陣幕の中へ乱暴に投げ出された。
中では先ほどと同じように信長がカーペットの上で寝転んでいる。ただ肘掛けが一つ増えていて、それはさっきまで見ていた
信長は目の前でひざまずく俺を見て、開口一番こう言った。
「それで、貴様は俺に何をもたらすのか?」
俺はもう一度よく考えてから、答えた。
「天下……なんて俺がいなくても手に入れられるでしょう。なにせここには一年に一回迷い込んでくる者たちがいるのですから。ですがそれは彼らがあなたの味方をすればの話です。飯も服も医療も機械も女子高生も知ってしまったあなたに今更なにか与えられる者がやってくるとは思えません」
「だから北条についたやつのように、俺に抗う者が出てくると」
「はい。だから俺が彼らを説得しましょう。それが信長様にもたらす俺のなにか、です」
「たわけ、つまらぬ」
信長はばっさり俺の提案を斬り捨てた。
「毎年俺の元へやってくる者がいて、北条にやってくる者もいる。ならば上杉にもおるし、伊達にもおろう。であれば明やイスパニアやポルトガル、ルソンにもおるのが道理」
「はぁ」
「貴様が口説くのはそれら全てだこのホラ吹きめ。ああ、猿ならば、秀吉ならばやったろうな。貴様は世界中をめぐり、やつらを配下にし、一つにまとめよ」
世界。この人の口からその言葉が出ると、冗談には聞こえないなにかがある。
「さすれば貴様が元の世界へ戻る方法、あるいは見つかるかもしれぬ。それが叶わぬなら−−」
信長は一息ついて、まるで冗談を言うように言った。
「俺を殺って天下を奪るのも、一興よな」
冗談には聞こえなかったから、俺はぶるっと震えた。
こうして俺はこの世界でもうしばらく生き続けることになった。
この後北条のあいつと熱い友情を交わしたり、次の年にきたやつが俺よりホラ吹きで俺の立場が無くなりかけたり、タイムスリップ四天王との熾烈なバトルや、大奥百人の女子高生との出会いとか、謎の勢力南蛮アングロサクソン来襲とか、最後は宇宙にまで行って楽市楽座するんだけど、自分の退屈だった人生にそういうことが起きるんだなって、全てが終わった後でそう思えるような、それは忘れられない出来事だったんだ。
それを語っても良いけど、今日はこの辺にしておいてやる。
終わり
異世界信長 その100回目 安川某 @hakubishin
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