第6話 深夜のH

 深夜だというのに、昼間の約束通り僕は金髪のエスカリーテ、つまり元エロゲーのヒロインの私室に居る。なにをするかというと、それはサイバー戦の模擬戦闘だ。


「ルールは一つだけ。わたくしのPCをハッキングできたら、あなたの勝ち。そして私があなたのPCをハッキングしたら、私の勝ちです」


とエスカリーテは説明してくれた。

HとはハッキングのHだった。


エスカリーテは説明を終えると


「いいですか?もし敗北したら、あなたは私の命令を聞くことしかできなくなります。お互いのPCには、互いの極秘情報が入っているという設定です。模擬戦とはいえ、1週間は私の従者になっていただきます。もちろん、わたしが敗北した場合は、私はあなたの言うことをなんでも1週間従う。では、スタートです」


お互いのPCはネットワークで繋がっている。


僕が最初にすることは渡されたPCのシステムにセキュリティーホールがないか調べ、それを補修することだ……。と、一生懸命モニターに釘付けになって、コマンドをタイプしまくる。が、そのとき、女性らしい優しい香水の香りが僕の鼻腔を刺激する。


「ヒロさん……。パスワード教えてくれたら、特別にイイことしてあげてもいいんですよ?」


とエスカリーテが耳元でささやく。


「男の子がどうすれば気持ちいいか。私、ゲームの中にいたときからよく知っていますから」


「ふ、ふざけないでください。こうして真面目に模擬戦しているのに!」


「ふふふ、硬いんですね。コレが入ったらとても気持ちよさそうです……」


彼女はやさしく、ぼくのその部分を布地ごしにふれてくる。


「ほら、パスワード。おしえて欲しいな?」


どうしようか……。もうギブアップしようか?

「これがパスワードです……」


といって、メモを渡す。


そのメモには


「エスカリーテ大好き」


という言葉が書かれていた。


「ふふふ、もう!ちゃんと本物のパスワード教えてください。ね?お願い!」


それは正真正銘、僕の本心だった。が、もちろん、システムの根幹パスワードとは違う。

正確に言えば、一つ目の関門のパスワードといったところか。


「あら!一つ目のパスワードがわかりましたわ」


「僕が教えたからじゃないですかっ」


「わたくしの勝ちですね!」


「これは勝負とは無関係です!」

と僕は否定する。エスカリーテは意地悪そうな顔をすると


「勝ちは勝ちです」


「ハッキング関係ないじゃないですか」


「あら?敵がハニートラップを使ったら、どうなさるの?」


「……それってサイバー戦なんですか?」


「ええ、もちろん。ルールでPC以外を使うことを禁止していませんもの。実戦的でしょ?負けたのだから、あなたはこれから1週間は私の従者ですからね!」


こうして僕は期間限定ではあったが、エスカリーテの命令をなんでもきかなくてはならない人形のような存在になってしまったのだ。


彼女はそれから1週間、僕と僕のPCを丸裸にするために、さらなるシステムへの侵入を試み続けることになる。


僕はまだ気づいていなかったが、ハニートラップ。つまり色仕掛けをつかった、セキュリティの突破。これこそがレジスタンスの課題だったのだ。

























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エロゲのヒロインに地球と僕も征服されそうです。 広田こお @hirota_koo

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