最終話【これからは1人で2人分の生き方をしなければいけない】

 影武者の機転で自らを本物の魔王と名乗り、死亡していないと安堵した部下達の歓喜に辺りは包まれた。


 その後の手際は、連帯感があり極めて迅速であった――――


 勇者一行の拳闘士と魔法使い二人の遺体は、影武者の粋な計らいにより、魔王城地下にある火葬場に運ばれた。


 残る問題は、妃様のお気に入り〝絨毯じゅうたん〟と〝穴〟だ。


(絨毯等、最悪は特注でどうにかなるな……)と影武者は考え、穴埋め作業を最優先にした。


 派遣した偵察部隊の話によれば、勇者が開けた〝穴〟に至っては、魔王城100階中の70階で止まったらしい。


 ※魔王VS勇者の最終決戦は100階で行われた。


 魔王様の会心の一撃頭突きにより、勇者が絨毯と共に70階にいるらしいが、『そのまま丸めて城から投げるのだ』と言っておいた。


 残る部下達には城職人や、その他諸々の匠を手配してもらっている。


 影武者は魔王様に習って、急ぎ慌てる部下達には水分補給をさせ、焦って怪我をせぬように適度な休憩を取らせたりもした。


 仕事に追われイライラしている者がいれば、食料庫に赴き糖分を与える。

 時間の許す限り個別に声を掛けては励まし、魔王としての勤めを果たす影武者。


 ――――一通りの流れが出来た事により、一休憩を入れる影武者。


 影武者となって今まで1度も入室を許されなかった聖域、100階の奥にある魔王様専用の部屋ひみつのはなぞのへ向かう。


 部屋に特別な鍵はなく、自由に出入りが出来る。

 何故、鍵が無いのか1度だけ質問した時に『部下を信じているからだ。己の心を真にさらけ出してこそ、主の器なり』と深い事を言っていたなぁ……。


 影武者の視界一杯に広がる、豪華な装飾が散りばめれられた扉に手を掛ける。


 怒涛の展開に半ば信じられない気持ちを抑え、これからとして生きていかなければいけない。


 その覚悟を胸に秘めながら、息を吐くと同時に両手へと力を入れる。


『いざ……未開の地ひみつのはなぞのへっ!!』


〝魔王の部屋内〟


 視界に広がる世界は、とても魔王と言う絶大な権力を持つ人物の部屋を疑う物だった。


 中央に1人分よりは大きめなベットが1つと、その脇には小さな燭台がある。


『あれ、思ったより普通だなぁ……』と呟きながら、おもむろにベットへと腰掛ける。


 すると、燭台に手紙サイズのカレンダーが置いてある。


 日付の下に黒くビッシリと書かれている。


 一番上から視線を追っていくと、どうやら日記張みたいだった。


 日に日に違うが、主に部下の事や離れて暮らす家族の事、そして……影武者ぼくの事――――


 長文ではないけれど、とても温かくて改めて魔王様の偉大さを感じる影武者。


(魔王様……)


 涙ぐみ震える影武者の手から静かにカレンダーが落下。

 すると、挟まれていた様々な写真が床へと散らばる。


 初めて妃様とデートした時の記念写真。

 魔王就任祝い時の集合写真。

 産まれた子を抱き締める三人の写真。


 それを見た影武者は膝から崩れ落ちた――――魔王様の幸せはもう戻らない。


 他人の魔生を全て貰った形になった影武者は、これからは2つの魔生――――自身と魔王様の分を生きなければいけない。


 胸に手を当て再び天に召された魔王様に誓う。

『必ず……貴方が生きたかった物語をつむいでいきます。何たって魔王様のですから!!』


 そう誓った矢先……それは神の悪戯なのか?が視界に入る。


『ん?良く見れば明日の数字の所に何か書いてあるぞ……どれどれ、〝君との結婚記念日〟――――』


 ――――影武者の思考がログアウトしました――――


 数秒後、再びログインした影武者は『ん?明日?……えぇぇぇぇぇえ!!!』と驚愕の声を上げる。


 影武者の声は、魔界中にまで広がったとか……広がってないとか……。



 これから苦労が尽きないと思うが、まだまだ魔王としての仕事はありそうです。








 ――――fin――――




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魔王〝バカめそっちが本物だ!!〟その時から私は本物になってしまった 泥んことかげ @doronkotokage

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