30 エピローグ


「よーし、じゃあ我らがハイロ様にかんぱーい!」


 1-Aクラスマッチ打ち上げ回。主役は当然スパイとして青組のキングを討ち取った英雄ハイロだった。一時期俺と一緒にサボってたことは結果オーライで不問としよう。

 ハイロの姉ちゃんが働いているカフェでの打ち上げに当人は不服そうだったが、チヤホヤされることは嫌ではないらしい。ホントムッツリだなお前。このスケベ野郎。


「つかキング! お前一体どこで何してやがったんだよ! あのでっかい宇宙人がいつの間にか居なくなってたのとか、外壁が消え去ってたのとか、お前の仕業なんじゃねえの!?」

「俺は途中で腹痛くなってそこら辺でウンコしてたわ」

「汚っ! せめてそこはトイレ行けよお前……」

「冗談に決まってんだろが! 俺よか今日の主役はハイロだ! ほら、アイツを褒めてやってくれ。まんざらでもねえ顔でニヤニヤしてんの見てると面白れえから」


 俺を囲んでくるクラスメイトをハイロの方に流して飲食を楽しんでいると、教室の隅で碓氷さんが棒立ちしているのが見えた。

 いつものような無表情。でも、なんだか少しだけ寂しそうに俺は感じた。

 彼女はもうすでに学園生活を終えたプロだ。年齢やら過去やらまったく不明だが、でもせっかくもう一度学生に戻ってるんだ。別に楽しんだってバチは当たらないんじゃないか?


「碓氷さん! こっち来いよ!」


 デカい声で手を上げる。鬱陶しがられたって知るか。俺は碓氷さんと話してえんだ。


「おいおい、キングが碓氷嬢を誘ったぞ……やっぱ狙ってたか」「キングほどの人間にもなるとあのミステリアス巨乳美少女にも余裕で話せるんですわ」「これがキングプレイか……」

「お前等そのキングっていう呼び方やめろ! もう終わったからクラスマッチ!」


 巻き起こる笑いの中に、碓氷さんが警戒した仔犬のように輪の中に迷い込んでくる。


「何用ですか」

「何用て……碓氷さんも一緒に話そうよ。楽しいから」

「理由を……感じません」


 先日の碓氷さんとのあれやこれやを思い出す。

 俺とナルメロのことを、秘密結社になんと報告しているのだろう。

 彼女はナルメロを友達だと認めた。だが、彼女がエージェントであることに変わりはない。一方でナルメロのほうも凶暴性は無いが、危険なパワーを秘めていることは変わらない。


 ――結局、俺はまた碓氷さんと対立したりするのかもしれない。

 でも……それは今関係無いんだ。


「皆聞いてくれよ、……初めて会ったときの碓氷さんがさ――!」


 俺は周囲のクラスメイトを巻き込んで、これまで碓氷さんと経験してきた出来事を多少盛りつつ面白おかしく話した。

 隣で目を丸くして俺の話を聞いている碓氷さんは、驚いているような、だけど少し恥ずかしそうな表情で、ときおり俺の会話に的確なツッコミを入れてくれた。

 俺も碓氷さんも、このちょっと変わった学園生活を存分に楽しめると良いな。


「――よーし、じゃあ1-Aの番長キングこと進導リューセイくんに、今後のクラス方針を語ってもらいましょうか!」


 拍手喝采。音頭を取ってくれたのはまとめ役だった。こんなときまでまとめんでいいわ!


「えっと、皆クラスマッチお疲れ様。俺がキングとして大きな危機と対峙してる間に――」

「クラスマッチ中にウンコが漏れそうだったらしいですっ!!」

「おいこらまとめ役! やめろや! 冗談だって言っただろ!」


 クラス中で爆笑が巻き起こる。でも碓氷さんがにこにこしてたからもうなんでも良いわ。


「まあそんなこんなで色々ありましたが……今日の主役である斎孤ハイロくんがこのクラスを勝利に導いてくれました! ありがとうハイロ!」


 マイクを握りしめながら会場の奥にいるハイロに視線を送ると、美少女に囲まれながら人差し指と中指で額をシュッてやってきた。マジブッ飛ばすぞお前。


「これから夏の林間学校に、秋の文化祭と、イベントは山ほどあるよな。あとは一年間の総括発表会ってのがあるんだよな、そこでも1-Aがトップになれるように頑張ろうぜ!」


 わあああああああああと盛りあがる一同。

 楽しみである反面、大いなる不安の予感。入学してほんのちょっとしか経ってないのに、風紀委員でありながら数々の建築物を破壊してきた。マジで手厚いサポートを頼むぞ長老……。

 あとの盛り上げはまとめ役に任せて、俺は碓氷さんの隣まで戻ってきた。


「碓氷さん、これからも迷惑いっぱいかけると思うけど、よろしくな!」

「すべてカバーしてみせます。よろしくおねがいします」


 碓氷さんの表情は変わらない。まだ彼女のことを何も知らないけど、それはこれからいくらでも知っていける。そんなの、楽しみでしかないじゃないか。

 これからの学園生活に心躍らせていると、俺の身体の中が騒がしかった。


『われも じゅーす じゅーす きいろいのな』


 ――あ、こらナルメロ! 勝手に俺の腕を。


 俺の左腕がテーブル上のグラスを倒す。黄色い液体が、碓氷さんに向かっていく。


「ああっ、ごめん碓氷さん!」


 ――が、彼女は瞬時にPSIを展開していた。果汁100%の手錠を作製し、俺の手首を拘束。おまけに床に這いつくばらせた。


「すいません。反射的に」

「いや…………今のは……“俺たち”が悪いです」


 ざわざわするクラスメイトたち。俺が碓氷さんを押し倒しただとか、余計なことを吹聴する。


「おしおきが要りますか? 進導さん」

「……ああ、“半分”欲しいね。……今後が心配だよ、本当に……トホホ」

「口頭でトホホって言う人をわたしは初めて見ました」

「表現古くて悪かったな、いちいち報告しなくて良いから! ああ碓氷さん、痛い痛い! 手錠結構エッジ効いてるから! 皮膚切れて傷口からオレンジジュース入っちゃうから!」

「これが本当のブラッドオレンジジュースですね」

「なんだそのしてやったりな顔は! 可愛いけどやかましいわ!」

『それ のみたいんだがな』



 ――――こうして俺は、凶暴性A+の宇宙人と精神合体したことにより、正体を隠しながら超能力学園生活を送るハメになるのだった。



 とりあえず、退屈な思いはせずにすみそうです…………トホホ。

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その男、凶暴性A+の宇宙人と精神合体したことにより、正体を隠しながら超能力学園生活を送るハメになる 織星伊吹 @oriboshiibuki

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