小さな物語の中、描き出された人々の確かな暖かみ

地球と火星の間、小さな燃料スタンドで働くアンドロイドのお話。
語りの調子がものすごく流麗で、気がつけば完全に引き込まれていました。
主人公であるアンドロイドが、読み手に向けて自分のことを語る形式。自然で柔らかなその話しぶりの中に、でも必要な情報を過不足なく載せる語りの技巧。
読んでいてものすごく気持ちがよくて、読んだ内容がスルスル頭に入ってきて、まるで光景が自然と脳内に浮かぶような、そんな不思議な心地よさがありました。
話の筋そのものは決して壮絶なものではなく、本当にただ主人公の暮らしぶりをそのまま活写しただけのもの。なのにこんなにも強く心の奥に染みてくる。物語の中に生きる〝人物〟を、彼らの熱や息遣いのようなものを、文字の向こうからしっかり届けてくれる。
面白かったです。実に心地の良い、とても素敵な読書体験でした。