後編「あいえん、きえん」
「あいつが連絡先知りたいって言ってるけど、LINE教えていい?」
ダメだと言う理由もありませんでしたから、私は正式に彼の連絡先を手に入れたわけです。
こちらから何か言いたいことがあるわけでもなく、かといって連絡が来るのをソワソワと待っているのも癪でした。
しかしその時間が楽しいと、幸せだと感じている自分がいたことも、確かな事実です。
「ライン、教えてもらった」
「俺はお前が頑張ってきたこと、全部すごい頑張ってるなーって思いながら見てたよ」
「お前のすることには毎回驚かされたし、次はどんなことに挑戦するのかなって思ってた」
「まぁ、俺もお前のおかげでここまで来れた面もあるかな!」
「お前の限界を越えようとする姿勢は好きかもね」
彼に返す言葉は、私のどこを探しても見つからず、何も、伝えることができませんでした。もしかしたら私は、彼からもらった言葉だけで満足で、伝えたい言葉などない薄情者だったのかもしれません。
彼とはそれ以降、目立ったやり取りをすることはなく、ましてや会うことなど一度もありませんでした。彼は地元で、私は関東で、それぞれの人生を着実に歩んでいます。
小説のように甘く始まった恋は、優しい終わりを迎えることはありませんでした。気持ちを言葉にできずに生まれたほつれは、ついぞ縫い合わせることができませんでした。
合縁奇縁。
もし私と彼との運命が繋がったままならば、性懲りもなくまた出会いを繰り返し、また彼に惹かれてしまうのでしょう。
でもそんな日はきっと来ない。来なくていいと思うのです。
交わって、離れてを繰り返す、その交差点のひとつだった、ただそれだけの話。
あなたと出会って、恋をして、
少しだけ変わってしまった、私の話。
愛縁奇縁 硝子の海底 @_sakihaya
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