中編 「ぬいめとほつれ」
期末テストの私の順位は2位でした。
言うまでもなく1位は彼で、やっと彼と張り合える所まで来れたと、嬉しくなりました。
それから。
私は彼と話せなくなりました。
彼氏と彼女。
幼い私にはその距離がわからず、どう接していいかわからなかった。
曖昧な関係のまま春休みに入り、話せないまま3年生になりました。
5月。突然、彼と私の共通の男友達から、こんな話を聞きました。
「あいつ、お前と別れようかなって言ってたぞ」
ほぅ。私達は付き合っていたのですね。
自嘲気味にそんなことを零して、私は彼に手紙を書いた。
泣きながら、何度も何度も書き直して。
「別れたいんですよね、別れましょう。全然話せなくてごめんなさい」
たった二言の手紙を、私は笑顔で彼に手渡した。
何の役にも立たない矜恃が、このときばかりは私を助けてくれた。
泣いてなどやるものか。
私を捨てたこの男が、私を捨てたことを後悔するくらい、いい女になってやる。いつか絶対、私にしておけばよかったと思わせてやる。
周りは私を「一途」だと言いました。
でもこれは、ただの醜い「執着」でした。
後で探りを入れてくれた友人から聞いた話では、「別れる時くらい直接聞きたかった。あいつのこと、結構好きだったんだけどな」とかなんとか、言っていたそう。
虫のいい話です。付き合っている時は一度も、好きだなんて言ってくれなかったくせに。
そう考えて気付きました。
私だって一度も、好きだなんて口にしたことは、なかったのです。
最高学年になった後。
生徒会長、弁論大会、著名人との会談。
たくさんの活躍を見せ、同時に成績は彼を圧倒できるようになりました。
私は、私と約束しました。
3年経って、高校2年生になったとき。
まだ彼のことを好きだったら、もう一度告白しよう。
同じクラスで行く修学旅行で、必ず伝えよう。
そう決めて、高校生になりました。
私達は、当然のようにαクラスに選抜されました。
しかし彼は、部活も勉強も上手くいかず、成績はどんどん下がっていき、2年に上がる時の選抜で他クラスに「落ち」ました。
彼は理系、私は文系。
進路が被ることもない。
私は絶望しました。
それでもまだ、私は彼の隣に立ちたかった。
修学旅行。
クラスの違う私達が同じ行動を取れるのは、最終日のテーマパークだけでした。
どうしても、もう一度話がしたい。
そう思って私は、話しかけることを決めました。
「女性が喜ぶお土産って、どんなの?」
近付いたときに聞こえてきた会話は、彼と彼の女友達とのもの。
つらい。聞きたくない。
私はその場を離れました。
直後、体調が急に悪くなり、発熱、頭痛、吐き気に襲われました。
そこからは、みんなと別行動。
私の修学旅行は、先生とのランデブーに終わりました。
忘れよう、諦めようと、私は受験勉強を始めました。
私の隠れ家は進路指導室横の小さなコピー室。毎日放課後は友達とそこで勉強していました。
入試の時期が近付いた頃。
コピー室に彼がやってきて、何かをコピーしていきました。
数分後、コピー機を使おうとカバーを開けると、推薦入試の志望理由書の原本が。
これはまずい。そう思い、私はそれを持って彼の教室へと走りました。
すると彼は教室前の廊下にいて、息を整えながら私が
「これ、コピー室に忘れてったの、大事なやつ、でしょ?」
と言ったのに、彼は
「あぁ、ありがとうございます」
と返しました。
ありがとうございます。その一言に、私は頭から冷水をかけられたような気持ちがしました。なんだかんだと言いながら近いままだと思っていた私と彼の距離は、最初から近付いてなどいなかったのだと。
もう、二度と話すことはないだろう。
彼もそれを望んではいない。
そう言い聞かせるように、私は受験勉強に一層のめり込みました。
そして、卒業直前。
そんなことを言いつつ諦めの悪い私です。なにしろ、1年後には「メンヘラ製造型メンヘラ」なんていう不名誉な二つ名で呼ばれるような人間ですから。
彼に卒業祝いの贈り物を渡しました。
渡したと言っても、差出人の名前を書いていない贈り物を、友人を通じて送りつけただけなのですが。それでも私は満足でした。
すると数日後、その友人から「あいつにありがとうって伝えといてって言われたよ」とLINEが届きました。
なぜ、私だとバレた……?
訝しみ半分、嬉しさ半分。
ついでに友人からこっそり彼のLINEをゲットして、眺めては気持ちの悪い笑みを浮かべていました。
もちろん彼は、私が彼の連絡先を入手したことなど知りませんから、こちらから連絡することなどありませんでした。
さらに数日後、友人からLINEが届きます。
「あいつが連絡先知りたいって言ってるけど、LINE教えていい?」
訝しみ4割、緊張6割。嬉しさなどとっくに使い切っていました。
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