愛縁奇縁

硝子の海底

前編 「はじまりとおわり」

 これは単なる回想で、ちっぽけな自己満のために書く、小説よりも奇怪な私の恋の物語。


(注)備忘録のようなものですので、文章やストーリーには期待せずお進み下さい。




 *・.。*゚・*:.。❁




 私が通っていた中学校は、受験をして入学した進学校でした。

 そこで私は、人並みに恋をしました。


 彼は学年でも一二を争うほど成績が良く、いつも高飛車な態度で周りに接していたから、私は最初、あまり彼が好きではありませんでした。


 きっかけは美術の授業。

 普段、彼は私の後ろの席でした。

 近くの席の生徒4人とグループを組んで制作する課題に取り組む時、彼は私の隣になりました。


「お前、すごい可愛いって訳じゃないけどブスじゃないよな」



 唐突なディスり。

 呆気に取られていると、彼はこう続けます。


「あと、よく歌ってるやろ。お前歌上手いよな。俺めっちゃ好きやわ」



 私はこの頃から、歌をよく歌うようになりました。

 今ではいろんな人が私の歌を好きだと褒めてくれますが、それまで誰にも聞いてもらえなかった「声」を、初めて聞いて、好きだと言ってくれたのは、彼だったのです。




 それから彼は、私にとってかけがえのない存在になりました。


 彼の隣に立つのに相応しい私になれるよう、たくさん勉強しました。


 私の通っていた学校は中高一貫校で、高校には「αクラス」という制度がありました。学年の成績上位45名が選抜される、優秀なクラス。

 彼がそこに選抜されることは目に見えていて、私は彼と同じクラスになりたいがために、学年250人中160位だった成績を25位まで押し上げました。



 高飛車だと思っていた彼は、予想外に芸人気質で、ツッコミ上手だった。話していて、楽しかった。


 彼は吹奏楽部でパーカッションを担当していたから、私は定期演奏会に毎回通いました。座る席はいつも、舞台向かって左側。



 バレンタインにチョコも渡しました。

 渡したと言うか、朝早くに机の中に入れて。名前なんて書いてなかったのに、彼はホワイトデーにキャンディーをくれたんです。



 中学2年の時、告白。

 女友達に彼から物理のノートを借りてきてもらって、次の授業で使うページにメモを挟んで。


「授業中にごめんなさい。ずっと前から好きでした。

 お返事は聞きたくないのでしないでください」


 その時の私は、自分の言葉ひとつ伝えられない臆病者で。だから、知らない誰かの言葉を借りました。


 授業が始まって、先生が板書を始めて。ノートを開いたあいつが、頭を抱えて机に突っ伏したのが見えました。

 くすくすと、どこからか漏れる笑い声。

 真っ赤になった顔を見られたくなくて、私は必死に寝たふりをしていました。


 放課後、彼は私を呼び出しました。

 不思議です。名前なんか書いてなかったのに、彼はまた、私だと気づいてくれた。

 それが、すごく嬉しかった。


 その日私は、彼の呼び出しを無視して逃げるように家に帰りました。だって、そんなの、聞けるわけがない。怖くて震えて、それでも伝えたかったことを伝えられて、私にはそれだけで十分でした。



 次の日、いつも通りに授業が終わり、放課を迎えました。

 ほっと息をついて掃除に向かった私の腕を、女友達が強引に掴んで教室の隅へ連れていきます。

 何がなんだかわからずされるがままになっていると、そこに彼がいました。


 ぐるだったのか、と恨めしく思いました。


「座れ」


 私は渋々その場に座りました。



「お前、俺のこと好きなんか」


 私は無言で頷きました。


「ごめん、俺こういうの初めてやから、どうしていいかわからんのやけど……」

「俺の、彼女になる?」



 私はどうしていいか分からず黙って俯きました。顔から火が出るって、こういうことを言うんだ。そんなことを考えながら、この火照りが悟られていないことを祈るばかりでした。




「付き合って俺のせいで成績下がったとか言われたら嫌やから、期末テストでクラス4位以内になったら付き合っちゃお」



 耳を疑いました。

 後に女友達は、このときのことを「何様やごるぁ!?って殴り飛ばしに行こうかと思った♡」と語ります。


 私も同じで、何様だと思うと同時に、舐められたものだと悔しくなりました。


 やってやろうじゃないか。



 私はまた、黙って頷きました。





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