モラトリアムと狭い箱庭世界のおはなし

大晦日、留年大学生とその元同級生の無職が、テレビゲームに興じながら通話するお話。
いわゆるモラトリアムを主題とした、暗闇の中でもがきながら前に進もうとする人たちの慟哭でした。
大学生活の終わりと、その先に待ち受ける社会人としての人生。子供の殻を破って外に出なくてはいけない、その未知の世界に対する恐怖。学生らしい視野狭窄と、絞り出した叫びの初々しさともどかしさ。剥き出しの青春そのまんま、という感じが本当に好きです。
ゲーム内世界の使われ方というか、読んでいるうちについ一方的に見出してしまった〝意味〟が面白かったです。今まで彼らの生きてきた『学校』という環境、その箱庭的な構造との対比なのかと思いきや。むしろその逆、これから彼らの進むべき先、手探りで進むしかない暗闇の道を象徴していた、という。ミスリードかそれともただの誤読か、いずれにせよそこが気持ち良かったです。最後に射した一条の光と、その正体を示す伏線(というか予告)も含めて。
同様に、マンションや引っ越しの存在も。タイトルの軽い印象とは裏腹の、迫力のある青春物語でした。

その他のおすすめレビュー

和田島イサキさんの他のおすすめレビュー1,390