ショートショート Vol6 海岸通り

森出雲

海岸通り

覚えていますか…。


海までの、僅か三百メートルほどの並木道。

自転車で通り過ぎればほんの五分くらいを、私とあなたは一時間以上かけて歩いたよね。

雨の日は、二つの傘を並べて、天気の良い日は、木陰で休みながら。


あなたはいつも、自分の自転車のカゴに私のカバンを置かせてくれた。


なのにあなたのバックは、あなたの肩にかかったまま。

「部活で汗をかいたから」と水をかぶって来たあなたの髪はいつも濡れていて、髪をかき上げる度に、その滴が飛び散る。

いつからか、

あなたが私の右側にいて、真ん中にあなたの自転車。

ホントは、あなたの自転車の後ろに乗りたかった。

ただ、乗ってしまえば五分のデート。


少しだけ、早く夕陽が海に沈む季節。

あなたは、唐突に海外留学を告白したね。

あの日から、明日で四年。

きっとサーフィンで真っ黒に日焼けした笑顔で帰って来るのでしょう。

私は笑って「お帰りなさい」って、言えるかしら?

あなたと歩いた海岸通りは、あの頃のまま。

ほら、今も海はとても綺麗よ。


変わった事と言えば、私の髪が伸びた事と……

「ただいま」

「あっ、え?」


少し泣き虫になった事?




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ショートショート Vol6 海岸通り 森出雲 @yuzuki_kurage

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