ショートショート Vol5 海までの、一本道
森出雲
彼女の言い分
白いデッキチェアにゆったりと座り、カチ割り氷の入ったトニックウォーターに、新鮮なライムを絞りながら、彼女は笑いながら言った。
「夏はキライね」
「じゃあ、秋が好きでしょ」
「ううん、夏より少しキライ…」
「なら、冬とか?」
「夏より、好きじゃないわ」
彼女はクスッと笑い、汗をかいたグラスのトニックウォーターを飲んだ。
「好きなのは春なんだね」
「春は冬より、少しだけ好き」
「え? 好きな季節は無いの?」
「まだ、あるわよ」
そう言って、またふふふっと彼女は笑った。
身長164cm。
決して大きくないバスト。
引き締まって、小振りなヒップ。
雑誌のモデルくらいなら充分に通用するほど、スタイリッシュなボディー。
彼女は、スクッと立ち上がり、腰で後ろ手に手を組み、そして続けて言った。
「夏は七月八月でしょ。九月の終わりから、十月と十一月は秋。十二月から二月までが冬。そして、三月四月五月が春。じゃあ……」
ライムグリーンのビキニが、日焼けした身体に良く似合う。
「六月と九月は何て呼ぶの?」
「うーん、えっと…」
してやったりと、そんな悪戯っぽく彼女は笑った。
「六月は初夏、九月は晩夏かな? 私は、初夏が一番好き」
「それも、季節なのか?」
「私には……ね。あなたもサーフィンすれば良いのに!」
「君とサーフィンなんてすれば、波どころじゃなくなるよ」
「なぜ?」
「目の前の美女に夢中になっちゃう」
彼女は、ふふふっと爽やかに笑う。
「私ね、小さいから時々ずれて見えちゃうの」
そう言って、自分の胸を傍らに置いたサーフボードで隠す。
「………?」
彼女はそのままサーフボードを抱え、海辺へ走り出す。波がキラキラと輝き、彼女の周りを照らした。
「誰にも見せないから、安心して! それから、六月が好きなのは、あなたの誕生日があるからよ!」
一度だけ振り向き、そう言い残すと、彼女の鮮やかなライムグリーンの水着は波間に消えた。
ショートショート Vol5 海までの、一本道 森出雲 @yuzuki_kurage
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