【短編】いつも意地悪な高嶺くん
咲倉なこ
第1話
塾で隣の席の高嶺くん。
いつも私にちょっかいを出してくる。
今日は高嶺くんが消しゴムを落としたから拾って渡してあげると、また落として。
「はい、気をつけてよね」
そう言ってもう1回拾って渡したのに、また落とした。
さすがに面倒になって、
「自分で拾ってよ」
と言うと、
「宇佐美って気が利かないんだね…」
ってわざとらしく大きなため息をついて、自分で消しゴムを拾った。
「あのねー?!」
そんなこと言われる筋合いない!
勢いよく立ち上がって言い返そうとした時、先生が入ってきて。
「なに立ってるんだ、座りなさい」
って先生に怒られた。
隣でクスクス笑っている高嶺くんが本当に憎たらしい。
塾が終わって帰ろうとした時、
「宇佐美はどこの高校行くの?」
そんな事聞いてきて。
どうせ私の志望校言ったところで、レベル低いとか馬鹿にするんでしょ。
「高嶺くんには絶対言わなーい」
べーとして立ち上がって鞄を持とうとすると、私より先に高嶺くんが鞄を掴んだ。
「教えてよ」
「やだって言ってるでしょ、鞄返して」
「教えてくれるまで返さないよ」
なんて言いながら私の鞄をギュッと握った。
「分かった、南条だよ!教えたから返して」
いつもみたいにまた何か言われると思ったのに、何も言わず素直を鞄を返してくれた。
「あ、ありがとう」
なんか、ちょっと調子狂うんだけど…。
「高嶺くんはどこ希望してるの?」
…聞かれたから、一応聞き返してみただけだからね!
別に高嶺くんの進路なんてどうでもいいんだから!
心の中でそう言い訳をしながら聞いたら
「俺は内緒」
ってまた意地悪っぽく笑って、
「やっぱムカつく!」
聞いたことを後悔した。
*
とうとう受験日当日。
緊張しながら受験会場の受付に向かっている時だった。
受験票を見ながら歩いていると思いっきり誰かにぶつかって、
「ごめんなさい!」
と顔を上げると、ぶつかった相手は高嶺くんだった。
「いって…どこ見て歩いてるんだよ」
「高嶺くんなんでここに!?」
びっくりしている私を見て、くすっと笑いながら
「なんでって受験以外何があるの?」
って、またムカつく言い方。
「だって、え?高嶺くんもっとレベル高いところ行くと思ってた」
いつもテスト、すごくいい点とってたし。
「勝手に俺の進路決めんなし」
「ごめん…」
って、なんで私謝ってるんだろう?
そう思っていると、ほっぺたをぷにっと引っ張ってきた。
いきなり何!?
びっくりして、キョトンと高嶺くんを見ていると、
「顔ひきつってる」
って。
「緊張してるから」
「宇佐美だったら、いつもの調子でやれば絶対受かるよ」
そう言って、高嶺くんは先に行ってしまった。
「こんな時に優しくするなんてズルい…」
高嶺くんに励まされるなんて、慣れてなくってなんか変な感じ。
でも、不思議とさっきまでの緊張がウソみたいにほぐれていった。
うん。
たくさん勉強したんだもん。
大丈夫だよね。
*
そして私は志望校に無事合格した。
高嶺くんは受かったんだろうか。
合格発表の時にも探したけど見当たらなくって。
入学式の今日までずっと気になっていた。
私より成績良かったもん、きっといるよね。
気が付けばいつも高嶺くんのことばっかり考えていた。
学校へ行くと、クラス表が張り出されていて。
自分の名前を探している時、
「げ、お前と一緒なクラスかよ」
聞き覚えのある声と嫌味満載な発言が飛んできた。
振り返ると案の定、憎たらしい笑みで私を見降ろしている高嶺くんだった。
「そ、それはこっちのセリフだからね!」
そう言って、ぺしっと腕を叩こうとすると、あっけなく高嶺くんの手によって制御された。
「暴力はんたーい」
って言いながら手をギュッと握られたからびっくりして。
心臓が飛び跳ねた。
「高嶺くんの手、暖かい…」
「…は?意味わかんな…」
高嶺くんの顔がみるみる赤くなって。
「…え?」
何が起こったのか分からなかった。
さっきまで掴まれていた手は一瞬にして離れていって。
高嶺くんはすたすたと先に行ってしまった。
そんな高嶺くんの背中を追う。
あれ、高嶺くん、少し会わないうちに身長伸びた?
さっき握られた手も、少しごつごつしていて。
男の子って感じがした。
…高嶺くんと同じクラスか。
ちょっとの不安と少しのドキドキが入り混じる中、
私の高校生活がスタートした。
.END
【短編】いつも意地悪な高嶺くん 咲倉なこ @sakura-nako
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