俺と友の約束

二魚 煙

俺と友の約束

 令和二年三月一日。

 ふと久々にカクヨムを見てみると、面白そうな企画をやっていた。


 『KAC2020 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2020~』


 どうやらお題に沿って何かしらの物語を書いて皆で競おうぜという企画だ。

 要項を見てみると普通に面白そうなので俺もやってみたい――そう思ったが、正直俺はお題に沿った小説を書くのが苦手だ。

 まず前提として普通に小説を書くのが苦手なのだ。

 物語の構成、表現力、キャラクターの魅力など、俺の小説はどれもいまいち。はっきり言って作品自体を殺しているのと同義だ。

 まあ、参加しなくていいや。そう思ってお題はなんだろうなと思い、マウスを動かし見ていたら大きくお題が書いていた。


 『四年に一度』


 おいおい、オリンピックじゃあねぇか。

 皆さん頑張ってと思いつつパソコンを閉じようとした時、俺の頭にふと『四年に一度』というワードに関連した話が一つ浮かんできた。

 どうせ受賞しないし、自己満足程度に書いておくかと思った次第で今こうしてパソコンに文字を打ち込んでいる。


 その話は、他の人からは絶対に嘘だろうと言われるであろうエピソードだ。

 信じなくてもいい。ただの作り話と思ってくれてもいい。

 これを読んでくれるであろう方々の一人でも「ふっ」と鼻で笑ってくれれば満足だ。


 これから綴る話は俺と友との間に交わされた『四年に一度』に行う約束。


 四年おきの三月にマツケンサンバⅡを歌う約束だ。











 この物語は俺が小学校一年の頃にさかのぼる。

 当時の俺ははっきり言って内気な性格だった。今でも変わりないが当時はかなりこじらせていた。

 そのせいで友達一つ作れなく、一人ぼっちで暮らす小学校生活だった。

 当時を思い返すならただただ日々を惰性に生きていた。

 

 そんな俺にも一つの転機があった。


 それは、俺に近所に同級生のムードメーカーがいて、そいつと仲良くなったことだ。

 小学生の時、学年問わず近くの小学生が一つの班となって集団で登校・下校をしていた。

 俺の住む方面で同級生と言うのがそのムードメーカーだけで、時を重ねるうちにどんどんと仲良くなり、次第に遊ぶようになっていた。


「今日遊ぼうっ!」

「うんっ!」


 そいつのおかげではあるが、俺とそのムードメーカーはこの短い会話一つで近所にある公園で遊ぶようになった。

 時には砂場でダム的なものを建造し、時にはボールでキャッチボール的な事をしたりと、今まで暗かった俺にあたかも光を照らすかのようにそのムードメーカーは俺と遊んでくれた。

 

「僕と煙君は友達だ」


 そう言ってくれた時は本当に嬉しかった。

 この時が本当にそのムードメーカーと友となった時だ。

 話は少しそれるが、その友とは下校中に空想的なロボットストーリーを描いていたのも良い思い出だ。色々アイデアを出して最強のロボットを作り、空想上で戦わせる。その時描いたロボットの設計図を最近友の部屋に遊びに行ったとき壁に貼っていたのを見た時は思わず笑みを浮かべてしまい、昔の話を掘り返して話していた。


 そんな最高な友ととある日の放課後。いつも遊んでいる近所の公園でとある話題が出た。


「ねえ、マツケンサンバ知ってる?」


 俺は勿論イエスと答えた。

 何故か知らないが、その当時テレビでマツケンサンバⅡ(その当時はマツケンサンバと呼んでいた)を見て、その特徴ある歌詞に思わず口ずさんでいたのだ。

 友は俺の返答にニヤッと笑いながら、


「よしっ! 歌おう!」


 そう言って俺の手を引っ張って滑り台の上に連れていかれた。


「ここが僕らのステージだ!」


 そう言って友はマツケンサンバⅡの名フレーズともいえる歌詞を大声で熱唱し始めた。

 公園の周りは小さいが閑静な住宅街。響き渡るマツケンサンバⅡ。今思えばその光景はとてつもなく近所迷惑で、かつ恥ずかしい事をしていたんだなと思う。

 だが熱唱する友の横顔を見て、俺もつられてその名フレーズを熱唱した。


「「~♪」」


 夕日を見上げマツケンサンバⅡを熱唱する俺と友。この光景は今でも網膜に焼き付いている。


 ひとしきり歌い終えた俺達は笑いながらその日は帰宅した。

 それから俺と友は遊ぶときにはいつものステージである公園の滑り台の上でその名フレーズだけ歌いまくった。

 正当な歌詞なんて分からない俺達でもこのマツケンサンバⅡはただ馬鹿になって歌った。


 そんなひとしきり歌いまくり、時は過ぎていき俺達も最高学年である六年生になった時だ。

 六年生とは小学校最後の学年。初めての別れが来る時だ。

 俺と友は中学校に上がったら別々になる。それを友の口から聞いた時、はっきり言って悲しかった。今まで馬鹿やってきた相手と中学では別々の学校に進学するのだから。

 

 それを直に実感したのは卒業式で校長から卒業証書を手渡されたとき。

 この瞬間、俺と友は疎遠になってしまうかもしれない。

 

 卒業式で涙は見せなかった。ただ友と別れるのが悲しかった。

 流れる音楽は俺達卒業生を見送るための卒業ソング。それに準じて作られる在校生によるアーチをくぐり終えた瞬間、初めて卒業を実感した。

 最後の全体写真を撮り終え、親と帰ろうとした時だった。


「なあ煙。今からいつものとこ行こうぜ」


 友からのお誘い。

 正直そのときは友との思い出が染みついた公園には近づきたくなかった。

 しかし、いつものように強引な友の誘いと親が「行ってこい」と促すので、俺と友は二人で共に歩いた下校ルートを通って公園に向かった。


 公園に着いた途端に友は近くのベンチに座り、俺に座れと促してきた。

 俺は友の隣に座り、公園を見渡した。


 はっきり言ってその光景は一年生の時に見た光景より寂れており、遊具に関しては劣化が著しく進んでおりボロボロだった。


「俺達も卒業だな」

「ああ、そうだね」

「俺達、別々になるんだよな」


 寂しいな、と友が一言背伸びしながら俺に言う。そしてすぐさまベンチから立ち上がり、

 

「――っよし! 歌うか!」


 そう言って俺の手を引っ張りながら俺達のステージである滑り台の上に向かった。

 滑り台はクモの巣が張っており、また一段一段の階段からミシミシと錆びついた金属が擦れあう音が聞こえる。

 滑り台の上に立つと友がすかさず、あの名フレーズを今まで以上にでかい声で宇値始めた。

 歌う気分ではなかった俺は下を向いたが、ふと隣で歌っている友の握りしめている卒業証書を見て、俺もでかい声で友とマツケンサンバⅡを歌いあげた。


「「~♪ ~♪」」


 マツケンサンバⅡは俺達にとっての卒業ソングのようだった。


 歌いあげた俺達は息を切らしながら互いの顔を見て笑いあった。

 多分この光景はもう見られないんだろう。そう思った時だ。

 友が一言、こう発した。


「約束。俺達はいつまでもマツケンサンバを歌う! 絶対な!」


 思わずその言葉に俺は目を見開いた。

 

「それって……」

「俺達の特別な証。だから一年――いや、四年に一度にしよう! この歌は俺達にとって特別だからオリンピックと同じ年数の間隔で歌うんだ!」


 そう言って友は満面の笑みで俺に笑った。

 

「そ、そうだねっ! 絶対、絶対に歌おうねっ!」


 俺も友にそう言って同じく笑った。

 

 互いに笑い、肩を組みながらマツケンサンバⅡを滑り台の上で熱唱した。











 あの日の約束から今日までこの約束を忘れたことはない。

 2013年3月、この日に約束を交わした。

 2017年3月、高校生になったこの時でも俺達はマツケンサンバⅡを約束の元熱唱した。

 次の約束は2021年3月。お酒が飲める年齢になった時にこの約束を果たす時が来る。この日は二人して絶対酒を飲みながら歌うんだと決めている。

 

 四年に一度、マツケンサンバⅡを歌う。


 こんな約束をしているのは日本中探しても俺達だけだろう。

 でもそれでいい。

 この約束はただ歌うだけではない。

 過ぎていく時の中、大人になる俺達、変わりゆく人間関係の中で改めて親友と馬鹿になって少年時代を再確認する機会なのだ。

 恐らくこの歌に俺と友の絆が編み込まれているのかもしれない。

 

 この前久々に公園に行ってみたが、滑り台はもう錆だらけになっており、その公園自体無くなる予定だった。

 思い入れのある場所はいつしか無くなる。だが、思い出は消えない。


 今、俺と友は互いに別々の道に進んでいるが、しっかりとあの時の思い出は残っている。

 友にはとても感謝している。俺をこんな面白い場所に連れてきてくれたのだから。このお礼はいつしか必ず返したい。

 友の結婚式でスピーチを頼まれたときはこの事を話すつもりだ。勿論余興の時はフルで熱唱するつもりだ。


 少年時代に歌った『マツケンサンバⅡ』


 いつまでも俺と友の約束は廃れないだろう。

 


 


 

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