第5話
渚の口から、彼の姉、由利のその後の顛末が語られた。
結局、彼女は母から絶縁され、その後、アルコール依存と精神疾患で、病院に入れられたのだという。その頃に色々立て込んでいたせいで、渚は中々幸次に連絡できたかったのだそうだ。
いつの間にか、渚は自分の炒飯を食べ終えていた。幸次はそれを見て、自分の箸が殆ど進んでいないことに気づいた。
「これ、また新しく作ってきました。もしよかったらもらってくれませんか?」
その幸次の前に、渚は小物入れサイズの籠を差し出した。どうやら、これも手作りらしい。中々器用な少年だ、と、幸次はしみじみ感心した。
「これも作ったの? ありがとう」
「いやいや、いつも色々お世話になってますし、返礼にもなってないですよ」
「そんなことない。十分ありがたいよ」
それは嘘偽りのない言葉であった。渚がくれるものを、どうして喜ばずにいられようか。
「芦田さんって、その……婚活って言うんでしたっけ。まだ続けるんですか?」
予想もしない質問であった。彼がそのようなことを聞いてくるとは、幸次は思いもしなかった。
「どうしようか悩んでるんだよね……そんなに急がなくてもいいかな、とは思うけど」
あんなことがあった後だ。この先どうするべきかは、幸次自身まだ決めているわけではない。時間は有限であり、いつまでも手をこまぬいているわけにはいかない。けれども、あまり焦りすぎると、今度こそ取り返しのつかない傷を負わされることになるかも知れないのだ。
「そうですか……もしよかったら……その……」
渚は何かを言いかけたが、それより先を言うことはなかった。
「この後どうします?」
「そうだなぁ……またカラオケでも行く?」
「いいですね。僕も歌いたいです」
二人は殷賑を極める雑踏の中を歩いていた。その間、幸次は隣の渚のことをずっと考えていた。
初めて彼に会った時は、多くの女性を労せずして惹きつけるであろう彼のことを羨んでいたが、今はどうか。寧ろ、彼に愛されるであろう女性の方に、その嫉妬羨望の念を向けるようになっている。
けれども、自分のこの感情の正体が何なのか、まだ判断はつきかねていた。
前と同じカラオケに入ると、幸次は雑念を吹っ切るように、幸次は熱い昭和特撮ソングを熱唱した。渚もそれに合わせてか、自分が生まれる前の特撮やロボアニメの主題歌を入れていた。良い感じに、二人の神経は昂っていた。
「あの、芦田さん」
歌い終わった幸次に、渚は唐突に話しかけてきた。渚は次の曲を予約に入れていなかった。
「こんなこと言っても迷惑かも知れませんけど……その……僕じゃ駄目ですか?」
「……え?」
渚の言っている意味が、幸次にはよく分からなかった。しかし、何がしかの重大な決心の元に言っている、ということだけは伝わってくる。
「芦田さん……彼女とか……いらっしゃらないんですよね? だったらその……結婚とかできないのは分かってますけど……僕が恋人になっちゃ駄目でしょうか」
まさしく、晴天の霹靂だった。心臓を矢で射抜かれたような衝撃が、幸次を襲った。人生で一度も女性に告白されたことのない自分が、今、年下の少年、それも誰もが羨む程の美少年に、告白されているのだ。
幸次は、暫しの間沈黙した。そして、先刻抱いた、自分の感情について
とうとう、幸次も、決心をつけた。
「俺も、君が好きだ」
答えはもう、既に出ていた。それを、渚が気づかせてくれただけのこと。自分は、この目の前の少年、三島渚が、どうしようもなく好きなのだ――
「嬉しいです……」
渚の流麗な
そして、どちらからともなく、二人は唇を重ね合わせた――
婚活イベントでライトオタク手芸趣味美少年と会った件 武州人也 @hagachi-hm
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