第6話 無口で元気な少女

 ゴールデンウィークが明けた。

 桐谷はずっと悩んでいた、何を間違えたのかと。

 ゴールデンウィークが明ければ何か話してくれるのかな?と思っていたにも関わらず、その期待はしくも叶わなかった。


 あの時、少し嬉しそうな表情をしていたのはなんだったんだろう。


 嫌な思い出が頭をよぎった。



 もう嫌だ、裏切られるのは。


 人を信じることが出来ない、


 だから信じられたい。



「桐谷先生……?大丈夫ですか?」


 2年2組担任の岬先生が話しかけても反応がない桐谷を、心配そうに顔を覗かせてくる。


「えっ、あ……。大丈夫です、少し考え事を。」

「そう……ですか?顔色が宜しくないようですが……、今日はもう帰って休んでは?」

「ですが、まだ仕事残ってますし。まだ帰るわけには……。」

「桐谷先生がいつも頑張っているのはみんな知ってますよ。今日くらい仕事を残して帰っても誰も文句を言いませんよ。急ぎの仕事があるなら手伝いますし、こういう時こそ助け合いですよ?」

「……では、お言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます、岬先生。」

「桐谷先生は頑張りすぎなんですよ。ここでは桐谷先生が1番新人なんですから、私達が仕事してないみたいじゃないですか。(笑)」

「そんなことは……!」

「冗談ですよ。ささっ、帰った帰った。」

「では、お先に失礼します。」

「はい、今日はゆっくり休んでくださいね。」


 その日は大人しく帰って休むことにした。

 ただ家に帰って、シャワーを浴びご飯を食べ、ベッドに寝転がった。


 目が覚めると、朝の5時になっていた。

 目覚まし時計すらかけるのを忘れて寝ていたらしい。いつ寝たのかさえ憶えていない。

 相当疲れてたのだろうか、今は寝すぎて頭が少し痛い。

 顔を洗うために洗面台へ、鏡に移る自分の顔は酷いものだった。


「俺も、まだまだだな……。」


 冷たい水が顔を、心を引き締めてくれるような気がした。


「よし、今日からまた頑張るぞ。」


 気分転換に少し走ってみるのもいいかもしれない。

 幸い、家を出るまで2時間ほど時間がある。

 2度寝をする気にもなれないし、丁度いい。

 走り終えシャワーを浴びている頃には6時を過ぎたくらいになっていた。

 朝ご飯を食べ、着替えてもまだいつもよりは早い時間になるだろう。


「少し早いが、昨日の分の仕事をしに行くか。」


 学校に着いたのは7時。

 学校の方に向かって行く人はほとんどおらず、途中からは自分1人になっていた。

 校内にもほとんど人の気配はない。

 桐谷と同じように早く来た事務員さんくらいだろう。部活動の朝練でも30分から始まる。

 職員室まで歩く。静かに響く足音。窓から差し込む眩い光。

 なんだか、悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。



「よし。今日も遅刻者なし、全員出席してるな。今日の5、6時間目は体育館で講演会がある。授業が始まるまでに各組事に並び終わっているように。」


 朝のホームルームを終わらせ、職員室へ戻る。

 今日の授業は2、3時間目。恙無つつがな

 く終え、4時間目の空き時間には早めの昼食を済ませ午後に備える。


 イレギュラーがあるとすれば、昼休みの今、目の前に神田 瑞希がいることだ。


「どうかしたのか?」

「……すこし、いいですか?」

「それは構わんが、ここでいいのか?」

「……出来れば……その」

「鍵を借りてくる、先に行っててくれ。」


 鍵を借り、遅れて相談室へ着いた。

 普段は使われていないようで、あれから部屋は変わっていない。


「それで、話ってなんだ?」

「その、メッセージのことで……」

「っ!?……その話は、結局なんだったんだ?」

「……あの!私……」


 あの時とは違う違和感。


「待て、その話をするならまず俺の話を聞いてもらおう。」


 もう次は間違えない。


「ちょっとした昔話だ。」


 もう隠す必要も無いと、そう思った。


「先に結論から言わせてもらう。だから、最後まで聞いて欲しい。」


 この生き方だけは否定されたくない。

 この生き方だけは、裏切らないと。


 初めから傷つくことが分かっているのだから、準備さえしていれば大したことは無い。

 故に、


「いいか、俺はお前を信じない。」


 自分が傷つくことなんてもういい、最後まで隠し通せばいいだけの事。

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奴らはそれを恋と呼ぶ 葵葉 @hazuki93

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