エピローグ 黄金色の光
大晦日、俺の故郷は雪に覆われていて、アサヒはしかし嬉しそうに、雪を踏み分けて歩いていた。
家に着くと、両親が出迎えてくれる。先に連絡しておいたからだ。
「まあまあ、遠いところ、ご苦労様」
母親の労いに、アサヒはニコニコと笑って応じている。
完全に猫を被っているが、わざわざ指摘しない。命が危ない。
父親は俺とアサヒの関係を質問攻めにしたが、クラスメイトで仲が良い、くらいしか言えない。事前にアサヒが、自分がスペシアルだということは内緒にしてくれ、と言っていたので、都市ランキング戦のことも言えない。
両親も都市学園の自衛隊駐屯地の事件は知っているようだけど、やはり細部は知らない。報道統制が行われているからだ。
ほどなく夕飯で蕎麦が出て、アサヒは容赦なく食べまくった。実は事前に、だいぶ食べる、と教えておいたんだけど、母親が用意した分はきっちりアサヒの胃に収まった。
彼女が先に風呂に入ることになり、リビングに俺と両親だけになった。
「トラクターとか、買えそう?」
まあまあ、などと父親がごまかし、母親は「明日は何が食べたい?」などと露骨に話題を変えた。
これはどうやら、あまり聞いちゃいけないらしい。
「どうだ、ニシキ、都市学園は楽しいか?」
父親の質問に俺はちょっと考えた。答える前に、リビングに髪の毛を拭いながらアサヒが戻ってきた。だから答えは口にできずに、そのままになってしまった。
次に俺が風呂に入り、出てくるとリビングのテレビで、両親とアサヒが歌番組を見ていた。アサヒ、びっくりするほど馴染んでいるなぁ。
父親、母親と順番で風呂に入り、歌番組も佳境になった。
アサヒがあくびを連発し、先に休んだ。両親ももう眠いなどと言い出し、結局、俺一人でリビングでテレビを眺め、歌番組の最後を見ずにチャンネルを変え、ドラマを眺め始めた。
平和だ。そして、温かい。
そのうちに、眠ってしまった。
人の気配に起きると、母親が貸した半纏を着て、そこにアサヒが立っていた。
「ん、えっと」こたつに突っ伏して寝ていたので、体が痛む。「今、何時?」
「時計を見なよ」
そうか、壁の時計を見るとそろそろ日が昇る頃合いだ。
「初日の出を見ようよ。この家から見えるんでしょ? 昨日、お父さんたちがそう言っていたよ。どこで見えるの?」
「上だよ。行くか」
俺はコタツを出て、つけっぱなしのテレビを切った。
二人で二階に上がり、俺の部屋の隣、いつの間にか物の入った段ボールに占領されている部屋の奥へ進む。
そこにある窓を開けると、ちょうど山の向こうから太陽が上がってくるのが見える。
すでに稜線は明るくなっていた。
「なかなか悪くないわね、ここも」
そう言いつつ、二人で開け放った窓から吹き込む寒い空気に、わずかに身を縮こませた。
稜線がまばゆく光りを放つ。
太陽が、見えた。
「今年もよろしく、ニシキ」
俺は、初日の出を見ている、光に照らされているアサヒの横顔を見て、
「こちらこそ、よろしく」
と、応じたけど、アサヒはじっと太陽を見続けていた。
俺も太陽に視線を戻し、その黄金色をじっと見据えた。
どこかで見た気がする、黄金色の光。
新しい時が、始まった。
(了)
僕と白い超人と傷ついた金色の人竜 〜臨海都市学園騒動記〜 和泉茉樹 @idumimaki
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