最終話? Salus exeuntibus. ~懐かしい世界へ~
※ このお話は第183話、及び第290話(2月1日朝5時公開予定)を読んでから読んでいただいた方が色々情景がわかるかと思います。先に読んだ場合は、第290話を読んだ後、もう一度読んでみて下さい。
◇◇◇
ちょっと固い布の感触。
俺は目を開ける。
白い天井、やや青白いカーテン。
ここは何処だ。
そう思って気づく。
何処だという事は無いよな。
生まれてから一番長い時間を過ごした場所。
入院病棟の病室だ。
俺のベッドは窓側。だから外が見える。
この窓から見えるのは一見公園のような病院の敷地内と外の森、そして青空。
そう言えば最後の記憶は手術前だったな。
手術が終わり、それでも意識が戻らずそのまま、もしくは集中治療室等を経てこのなじみの病室に戻ってきたという事だろう。
何か違和感を感じつつも俺は窓の外を見る。
何か外の風景に違和感を感じるような、それでいて懐かしいような。
何かあの外の世界に行ったような気がする。
勿論俺もずっと病院にいた訳では無い。
退院していた期間もあったし、一時帰宅した時だってあった。
でもそれとは違う何かがあるような、あったような気がする。
今俺が見ている森を通して何かを思い出せそうな感じもする。
でも今の俺には思い出せない。
何かを感じた事があったような気がする。
今わかるのはそれだけ。
窓の下、前の緑道風の場所を女の子が通りかかる。
見た事は無いはずだけれど何故かよく知っているような感じがする女の子だ。
彼女は俺から見た正面で立ち止まった。
「ねえ、いつもそこで何をしているの」
「外を見ているんだ」
俺はそのままの答えを彼女へ返す。
他に答えが無かったから。
「一緒に行こうよ。いつまでもここに居るよりその方が楽しいよ」
「身体が悪いんだ。あまり動くと倒れちゃうから」
事実だけれど行けないことの言い訳。
この台詞は俺の心の鍵だ。
これで彼女は去って行って、俺も彼女も元の風景に戻るんだろう。
俺はそう思ったのだけれど。
「試しに立ち上がってみてよ。もう大丈夫だから」
えっ。
俺はふと気づく。
今までついていた点滴管が無い。
試しに俺は立ち上がってみる。
身体が軽い。
思い通りに軽く動く。
「ねえ、一緒に行こうよ。外の方が楽しいよ」
彼女はそう言って俺に手を差し出す。
勿論物理的には俺には届かない。
けれど。
「わかった。ちょっと待っていて」
そして俺は……
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いうえにちょっと間違ってしまった編~ 於田縫紀 @otanuki
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