このすばss⑤ この素晴らしいクリスマス祝福を!〈エリクリ誕〉

Cero

トナカイくんとサンタさん


俺は何をしているのだろう。


雪がしんしんと降りしきる中、俺は真剣にそう思った。

何故そう思ったか。それは今の状態を見ればわかるはずだ。

俺は今トナカイの着ぐるみを着て、ロープを使い屋敷の屋根に登っていた。


「どうしたのトナカイくん?」


下から声が聞こえる。

その声の主は赤の服と赤の帽子、つけ髭を付けたスレンダーな女の子。

──そう、クリスである。


「いや、サンタさん。今更になって俺は何をしているんだろうって思ってしまいましてね。なんで俺がトナカイの格好をして自分の屋敷に侵入しなきゃいけないのかって」

「それはトナカイくんが言い出したからだよ」


すかさずクリスがツッコミを入れる。

確かにそうなのだが元々はこんな筈じゃなかった。クリスにトナカイのコスプレをさせてそれを見てからかってやろうという目論見だったのだ。

でも『私にサンタさんの服を着させてくれないと手伝わない』というような事を言われ、色々あった末に結局俺がトナカイの着ぐるみを着ることになってしまった。


はぁ、なんでこんな事になったんだろう……。

雪の舞う夜空を見上げながら、俺は事の発端を思い出していた。



◇◆◇



ある日の昼頃。俺がちょむすけを足に乗せてブラッシングをしていると、階段をドタドタと下りて来たアクアが興奮した声音で話しかけてきた。


「ねえねえカズマ!明日何の日か知ってる?」


明日。明日って何の日だっけ。……というか明日って何日だっけ。

最近夜と朝が逆転してたり、徹夜でゲームをしてたりしていたせいで日付の感覚が曖昧になってしまっている。


「わからない。何の日なんだ?」


明日が何日かわからないので適当にアクアに返した。するとアクアは驚いた様な顔をした後、残念な人を見るような目で。


「カズマ、あなたそれでも本当に日本人なの……?でもしょがないのかもしれないわね。誰しも新天地に立ったら過去の嫌な記憶は消したくなるものだものね」

「なんだよ、そんな目で見るなよ!ていうか俺は明日が何の日かわからないんじゃなくて、何日なのかがわからないんだよ!」


それを聞いたアクアは今度はホッと安心したかのように息を吐く。


「そうだったのね。よかったわ、カズマが変になってなくて」

「既に変なお前にだけは言われたくない。それで明日はなんの日なんだ?まあ、お前が気にするイベントって言ったら大体宴会関係だろうけど」


掴みかかってくるアクアをあしらいながら聞き返すと、アクアははっとして掴んでる手を離し言ってきた。


「そうだったわ!カズマ、明日は12月24日。そう明日は……」

「クリスマスイブか!」


俺がそう言うと、アクアはその通り、といったふうに手を合わせた。

クリスマスを知らないなんて確かに日本人失格だ。


一応説明しておくと、クリスマスとは、元々キリスト教の開祖であるイエス・キリストの誕生を祝う日だった。だが、日本ではもうサンタさんがプレゼントをくれる日になってしまっている。

そしてクリスマスは友達たちとクリパをしたり、カップル達がイチャコライチャコラ……。


「ねえカズマ、なんでそんなに怖い顔してるの……?」


おっと、いつの間にか怖い顔になっていたようだ。

リア充は爆裂しろ。

ふう、スッキリした。

俺は平静を取り戻しアクアに言う。


「何でもない、気にしないでくれ。それで明日がイブなんだよな?だったらちょっとしたクリスマスパーティーぐらいやろうぜ」


宴会好きのアクアなら絶対に承諾してくれるだろうと思い、そう提案した時。


「クリスマス、とは何ですか?」

「私も知らないな。それはどういうイベントなんだ?」


いつの間にそこにいたのか、俺とアクアの話を聞いていたらしいめぐみんとダクネスが聞いてきた。

そっか、こっちの世界ではクリスマスという習慣はないのか。

俺は2人にさっきと同じような説明をしようと……。


「クリスマスっていうのはね、一年をちゃんといい子にしてた子ども達にサンタさんっていう冬の妖精がプレゼントを配ってくれる日なの!一応日本のイベントだけど、日本人の子どもであるカズマがいるんだからきっと私達の家にも来てくれるわ!」


しようとして、それよりも先にアクアが馬鹿な事を言い出した。

そして、それを聞いた二人は。


「なるほど。私は子どもではないですが、もちろんいい子にしていたのでプレゼントが来るでしょうね。子どもではないですが」

「ま、まあ私はもういい大人だ。プレゼントなんてものは貰えなくてもいい。その分貧しい子ども達に……」


そう言いながらも、ワクワクした顔をしているダクネス。心は乙女。内心では期待でいっぱいなのだろう。

そしてめぐみんは……。


「めぐみん、お前は子どもだろ」

「な、なにおう…!!」


めぐみんは当然の如く掴みかかってくるが、俺はそれを容易くいなす。

……俺が異世界に来て一番成長したのは掴みかかってくる人をあしらう技かもしれない。

そんな認めたくない現実からは目を逸らしながら滾るめぐみんを宥めて、俺は二人に向かって言った。


「あのな、サンタさんっていうのはまず実在………というかおい。なんで自称女神のお前がサンタさんを信じてるんだよ」


自称女神の方を見てみると、その自称女神は顔を逸らす。


「そりゃあ信じてるわよ?クリスマスに現れるやつよね!それなら北の国にサンタが生息してるって肉屋のおじさんが言ってたもの!」


北の国に生息してるってなんだよ。生息って事はそのサンタはモンスターなのか?というか肉屋のおっさん本当に何者だよ。

こいつはアレか。自分がプレゼントを欲しいがためにこの二人にサンタの事を吹き込んだんだな?


アクアには色々と言ってやりたい事があるが、目をキラキラさせてるめぐみんとダクネスを見てしまうと夢を壊す気にはなれず、文句の代わりに深いため息を吐いた。


「はあ、三人ともサンタさん来るといいな。とりあえずアクア、クリスマスパーティーの為の食材と酒を買いに行くぞ」


それを聞いたアクアは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに頷いた。

自分でもチョロいとは思う。だが本当に。


しょうがねえーな!!



◇◆◇



パーティー用の食材やらなんやらを買った後、アクアには先に屋敷に戻ってもらい、俺はウィズの店を訪れた。


「ちーっす」

「あ、カズマさん。いらっしゃい」


今はあの仮面の悪魔はいないらしく、ウィズが出迎えてくれた。

あの悪魔がいると色々勝手に見通されるからいなくて良かった。

そんな事を考えながら何かいいものはないかと辺りをきょろきょろしていると、ふと、ウィズが手にしているものに目が止まった。それは手に乗るサイズだが、日本でよく見たガシャポンのような形をしている。


「なあウィズ、その手に持ってる物はなんだ?」


するとウィズは手に持ってるそれを少し持ち上げ首を傾げて。


「これですか?これは魔道具なのですが、使い方がわからなくて……。裏に謎の文字が入っていて、そこに使い方が書いてあるみたいなんですが……。紅魔族の方が言うにその文字は『古代文字』というらしいです」


紅魔族に古代文字。そしてこの見た目。

……その文字はほぼ確実に日本語だろう。


「ウィズ、ちょっとそれ見せて貰えないか」

「ええ、構いませんけど……」


俺はミニガシャポンのようなそれを受け取り裏を見てみると、そこには予想通り日本語が書かれていた。



《デイリー召喚:毎日3回ずつ、計9回にわたって日本の物を召喚できる。召喚する物は幸運値に依存する。》



なんという事だ……!日本の物が召喚できるだと!?そして更に召喚する物は幸運値に依存するときた。

──これは買うしかないだろう。


「ウィズ、これ買わせてくれ」

「ええ!?で、でも使い方も分からないガラクタみたいな物ですよ……?」


普段からガラクタばっかり仕入れてるけどなと思ったが、口に出したら殺されそうなので止めておく。


「いいっていいって。最近その古代文字について興味があってな。それに俺は今や沢山金を持ってるわけだし、これを買ったお金を借金の足しやら食費やらに使ってくれ」


するとウィズは目を涙目にして。


「カズマさん……!ありがとうございます!!ううっ、これで久しぶりに固いものが食べられます……!」

「お、おう。いいってことよ」


俺はウィズの言った値段の2倍のお金を払い、何度も頭を下げるウィズに背を向けて店を後にした。


……今度クリスマスパーティーで残った食べ物持ってきてあげよう……。



◇◆◇



家に帰って、俺はデイリー召喚を試すために自室に戻った。ベッドに腰かけてから小さいガシャポンみたいなやつを取り出す。

デイリー召喚は一日三回。今日と明日で計六回引けるため、余裕があるように見えるが、いくら俺の運が高いとはいえそう簡単にあの三人が喜ぶ物が出るとは思えない。

一度アクアに幸運値が上がる魔法をかけてもらおうかと思ったが、やはり三人には秘密にしておきたいのでここは我慢する。


俺は深い深呼吸をして気合いを入れ直す。そしてガシャポンの回す所に手を伸ばし取っ手を回そうと……。


「あれ?」


したのだが、すぐに引っ掛かって回らない。

ただ回すだけじゃダメなのか?

やり方が書いてなかったせいで、どうすればいいのか分からない。


俺はもう一度魔道具を見てみる。よく見ると、ガシャポンの形をしたそれにはいかにも不釣り合いな大きさのコイン投入口が付いていた。

これは硬貨を入れろということなのだろうか?

俺は財布からエリス硬貨を一枚取り出して入れてみる。


すると、そのミニガシャポンは一瞬光り輝いたかと思うと、凡人の俺にもわかるほどの量の魔力を放ち出した。


これはいける!!


俺はゆっくりとレバーに手を伸ばし勢いよく回す。

すると、ミニガシャポンはピカッっと。それはもう某電気ねずみの十万ボルト並の明るさで光りだした。


「うおっ!!」


あまりの明るさに目を閉じた俺はどうするべきかとオロオロしてると、その間に光は収まり。

恐る恐る目を開けると目の前にはダンボールが一箱出現していた。


「……なんだこれは?」


それは日本でよく目にしたダンボール。しかし外の箱は著作権への気遣いなのか何も書いていない。

俺はダンボールの取っ手に手をかけて持ち上げようと……。


「な、なにこれ、重い……!」


持ち上げられない程ではなかったが相当重い。俺は何とかそれをベッドの上に置き、そしてダガーでガムテープを切ってフタを開ける。


──すると中にはあのCMで有名なあのお酒、アサ〇スーパードライがぎっしりと詰まっていた。


「『アサ〇ィ スゥパァ ドゥラァァァァイ』ッッ!!」


じゃないじゃない……!懐かしくてつい叫んでしまった。

俺は頭に残るあのCMを頭から追い出しそれをひとつ手に取ってみる。

アルミ缶だ。日本にあったあのアルミ缶だ。

……どうやらデイリー召喚に成功したらしい。これは間違いなく日本の物だ。そして運がいい事に、これはアクアへの誕生日プレゼントにぴったりだ。やはり俺の運がいいというのは本当だったみたいだな!


俺が自分の運の良さを噛み締めていると、いきなり部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえてきた。

何事かと思うと、ドアの向こうからは少し心配したようなめぐみんの声が。


「カ、カズマ、先程この部屋から凄い光が溢れてきたのですが大丈夫ですか?」


どうやらめぐみんが先程の光を見て心配しに来てくれたらしい。


「大丈夫だ、さっき買ってきたウィズの魔道具の副作用だから。あと二回程光ると思うが気にしないでくれ」


そう言うと、扉の向こうからはめぐみんの安心したような声で。


「そうでしたか、それならよかったです。では二人にも言っておきますね」

「おう、助かる」


そうして再び足音が離れていく。

すぐに心配してくれるなんてさすがめぐみんだ。やっぱりいい物をあげたいな。

そんな事を思いながら、めぐみん足音が聞こえなくなったところで俺は再びミニガシャポンに向き直る。


今日の残る召喚はあと二回。その二回でめぐみんとダクネスが気に入りそうな物が出てくれるといいのだが。

俺はどっかの駄女神ではなく、ちゃんとした神様に祈りを捧げてからゆっくりと硬貨を入れ手回す。するとまた、ピカッと眩しい光を放ち。


──目の前には黒色のベルトと目隠し、そして猿轡に鞭があった。


「……おい、SMプレイグッズじゃねーか」


いや、確かにダクネスがもの凄く気に入りそうな物ではある。……あるのだが、流石にこれは超えてはいけない一線だと思う。これをクリスマスプレゼントとして枕元に置くのは絶対ヤバい。


俺は目の前にあるグッズひとつひとつを手に取ってみる。

うん、これはダメなやつだ。

こいつらは俺の秘蔵の物入れに入れておこう。

俺は棚の上にある箱を取り出し、他人には見せられないような物が色々入っている中にそれらを突っ込んだ。

……うん、あれはダメだ。



気を取り直して本日最後の召喚。

今のところ少し問題はあったもののちゃんとアクアとダクネスの気に入りそうなものが出ている。それに結構値がする物が出ているのもきっと俺の幸運のおかげだろう。ここでめぐみんかダクネスのプレゼントに出来そうな物が出てくれれば、明日の召喚に希望が持てて安心出来るのだが。

俺は深い深呼吸を数回し心を落ちつけた後、ガシャポンに硬貨を入れた。そしてレバーを回すと例の如く視界が真っ白に染まり……。


目を開けると、そこにはライオンのぬいぐるみがあった。


「ぬ、ぬいぐるみかあー」


ぬいぐるみなんて乙女の心を持つ少女が好きなものであって、乙女の心とは程遠い心の持ち主のめぐみんが欲しいとは思えないし、ダクネスは……。


「ん?ダクネス?」


そう言えば前、ダクネスはぬいぐるみが好きだとかなんとかアクアが言ってたような……。

ならダクネスにはこれでいいんじゃないか?……うん、SMグッズよりはいいだろう。


どうやら俺はアクアとダクネスのクリスマスプレゼントをゲットできたようだ。



◇◆◇



今日はクリスマスイブ。

昨日はあの後、皆がいい子であろうとしていつもよりも早く寝付いたこと以外は特に変わった事はなかった。

俺は他の三人が起きる前に召喚を済ませてしまおうと思い、そそくさとデイリー召喚の準備をしていた。


ラスト三回。ここでめぐみんが気に入りそうな物を出さなければ万事休すだ。

俺はもう4回目という事もあり手慣れた手つきで硬貨を入れてレバーを回す。そして光が収まると……。


「なんだこれは?」


そこにはちょうど、サンタさんが使っていそうな白い袋があった。

持ってみると結構軽い。俺は口を開けて中を見てみる。すると中にはサンタさんの衣装とトナカイの着ぐるみのような物が入っていた。


これは使える……!!


いい使い道を思い付いたため、俺はその服と着ぐるみをバックに詰めた。

まあまあいい物を召喚できた。だが、未だにめぐみんにぴったりなものは出ていない。

お願いですからいい物出てください!



俺は気を引き締めて2回目の召喚へと移る。

硬貨を入れて回す。すると光が溢れてきて思わず目を閉じてしまう。そして目を開けると目の前にはめぐみんの好きそうな物が。そう、好きそうな……。


……目の前には黒のパンツとブラがあった。


「へ?」


これはなんだろう。俺は幻影でも見てるのだろうか?

目を擦ってからもう一度今の場所に目を向ける。しかしそこには相変わらずパンツとブラが。

俺は今までにないようなしなやかさで秘蔵の物入れにそれを滑り込ませる。


「うん、何も無かった。よし、今日二回目の召喚をしようか」


ミニガシャポンに硬貨を投入する。

今日はまだ二回目だが、ここでめぐみんの気に入りそうな物を召喚しないと正直つらい。今日はまだ二回目だが。


これが最後。俺は自分の運を全部使い切るつもりでレバーを回す。あまりの眩しさに目を閉じて、再び目を開けると……。


──そこには優しい暖かい色の赤と緑のニット帽、マフラー、手袋の三点セットがあった。


なんという事だ!俺の運のステータスの高さはやはり伊達ではなかったらしい!もしかしたらエリス様も助けてくれたのかもしれない。

ありがとうございますエリス様!


俺は喜びを隠しきれずにニヤニヤしながらも、昨日買ったラッピング用品でダクネスとめぐみんへのプレゼントを丁寧に包んでいった。

もちろんアクアのプレゼントはそのままだ。



◇◆◇



無事プレゼントを用意できた俺は、次の問題を解決する為にある人との待ち合わせ場所に来ていた。

そこは、もうお決まりになった喫茶店。

しばらくの間椅子に腰掛けてコーヒーを飲みながらぼーっと待っていると、前から声をかけられた。


「やあ、待たせてごめんね」


見ると、そこには待ち合わせの相手であるクリスが立っていた。


「急に呼び出してすいませんお頭、ちょっと手伝ってもらい事があって。まあ、とりあえず座ってください」

「別に気にしなくてもいいのに。いつもはこっちがキミに手伝ってもらってるんだから」


そう言ってクリスは向かいに腰掛ける。


「ええっと、それであたしに頼みたい事ってなにかな?」


そう聞いてきたクリスに、俺はどこから話そうかと考える。


「お頭、明日が何の日か分かります?」


アクアの後輩の女神ならば、日本の文化も多少は知ってるのではないかと思い俺は聞いてみた。

するとクリスは何故かオロオロして慌て出した。


「あ、明日かー!明日はなんの日なんだろう、わからないなー!キ、キミはわかってるんだよね?教えてくれない?」


どうしたのだろう。

しかしこの様子だとクリスマスの事は知らないのか?

とりあえず、教えてくれと頼まれたので俺はクリスに答える。


「明日は12月25日。日本で言うクリスマスっていう日ですよ。お頭は日本の事もある程度は知ってそうですけど、これは知らなかったんですか?」


そう言ってクリスに聞いてみた。しかしクリスの方を見てみると、何故か固まったまま動かない。


「どうしたんですかお頭?聞いてますか?おーい」


俺が何度か呼びかけると、クリスははっとしてようやく動き始めた。


「あ、ああ、あれね。クリスマスね……。なんとなくだけど知ってるよ。確かサンタさんが子ども達にプレゼントを配るっていう行事だよね……」


そう答える声はどこか落ち込んだような、寂しいような声だった。

本当にどうしたのだろう。もしかして明日は他にも何かあるのか?

しかし、この世界の事については全然知らない俺では明日何があるのかはわからない。

俺はとりあえず、そのまま続ける事に。


「その通りです。それで、色々あってアクアとダクネスとめぐみんにクリスマスプレゼントを渡さなきゃいけなくなったんですよ。お頭にはその時に屋敷に侵入するお手伝いをしてもらいたくて」

「ええっと、なんでわざわざ自分の屋敷に侵入するのかな……?家の中で皆が寝静まった後、枕元に置けばいいんじゃないの?」


戸惑いながら聞き返してくるクリス。

分かってない。クリスは何も分かってない。


「お頭、よく聞いてください。サンタさんは、外から家に侵入してプレゼントを届けるものなんです。俺は子ども達の、ダクネスの夢を壊したくない!だから外から侵入するんですよ」


俺が熱弁すると、それを聞いたクリスは。


「ダクネスったらサンタさんを信じちゃってるのか……。はあ、それなら仕方ないね。いいよ、色々と疑問が残るけどあたしにできることなら手伝うよ!」

「ありがとうございます、お頭!」


これで最後の問題である、侵入する際の助手が確保できた。あとは……。


「それで助手くん、あたしは何をすればいいの?」

「お頭にはこれを着て侵入の補佐をして欲しいんです。ほら、俺はプレゼントの袋を持ってサンタさんの格好をしてロープを登ったりしますから色々と不自由なので」


俺はそう言って、クリスに持って来ておいたトナカイの着ぐるみを見せる。するとクリスは。


「ええっ!?い、嫌だよそれを着るのは!それは助手くんが着てよ!」

「ダメですお頭!俺はプレゼントを配るからサンタの格好をしなきゃいけないんです。だからこれはお頭が着てください!」


どうにかこの着ぐるみを着させようと説得してみるが。


「そ、それならあたしは手伝わないからね!あたしにサンタさんの服を着させてくれるって言うならなら手伝ってあげるけど」


そう言われるとどうしようもないな……。こっちは手伝ってもらってるわけだしあまり文句は言えない。


「……わかりました。ではお頭がサンタさんの服を着てプレゼントも持ってください。俺はお頭のサポートをしますから。トナカイの着ぐるみはまた今度の機会でって事で……」


俺は渋々トナカイの着ぐるみをバックに戻そうと……。


「……やっぱりキミがトナカイの着ぐるみを着ないなら手伝わない」


クリスがいきなりとんでもない事を言い出した。


「そ、それはあんまりですよお頭っ!!」

「………」


必死に抗議してみるも、クリスは何ひとつとりあってくれない。

……しょうがない、他の人に頼んで………。


………よく良く考えればこんな馬鹿な、それも日本の行事を手伝ってくれる人なんて俺の知り合いにクリス以外いるだろうか。いや、いない。

日本の事を共有できて、心を許せる友達っていうのはアクア以外にはクリスだけだ。何も気負いせずに愚痴を言い合ったり助け合ったりできるクリスという友は、もっと大切にしなくてはいけないのではないか。


しょうがない。少し屈辱だがここはクリスの言う事を聞いておくか。


俺はそっぽを向いて何も言わないクリスに向かって。


「わかりましたよ。俺がトナカイの着ぐるみを着ます。だからお願いです、手伝ってください」


それを聞いたクリスはこっちを向いてくすっと笑い。


「いいでしょう。力を貸してあげましょう佐藤和真さん」

「ありがとうございますエリス様……!」


こうして侵入の計画を立て、サンタの服を渡した俺は屋敷への帰路についた。




屋敷に帰る途中、エリス教会の横を通り過ぎようとした時、教会を見ていたと思しき2人の話し声が聞こえてきた。


「おおー!エリス教会のプリースト達気合い入ってるなー!」

「本当だ。なんせ明日はエリス様の誕生日だからな。このぐらいの事はやらないとエリス様に顔向けできないだろ」


見ると、エリス教徒のプリースト達が協会の外に、質素ながらも綺麗な飾り付けをしているところだった。

なるほど、明日はエリス様の誕生日だったのか。エリス様の………。



──え?エリス様の誕生日?



俺はその場に立ち止まる。今日はエリス様の誕生日なのか……?という事は、もちろんクリスも。

……ようやく合点がいった。さっき俺が明日が何の日か聞いた時クリスがオロオロしてたのはこのせいだったのか。そしてクリスマスだって言った時に悲しそうにしてたのもこのせい……。

あああああーっ!なんて事だ!まさか今日だったなんて!!これは悪い事したな……。


俺は自分の失態に気付き心の中で叫んでいた。

……しかし、済んでしまったことは仕方がない。ここは切り替えなければ。

そう思いながらも、俺は後悔の念は消えない。


「………あの店に寄ってから帰るか……」


結局、俺が屋敷に着く頃にはもうすっかり夜になってしまっていた。



◇◆◇



屋敷に着くと、そこには既にクリスマスパーティーの用意ができていた。

俺達はいつものように騒がしい食卓を迎え、風呂に入り。


……そして皆が寝静まった丑三つ時。

俺はトナカイの着ぐるみを着て、袋の中にアクア以外のクリスマスプレゼントとさっき買った例の物。そして今書いておいたメッセージカードを丁寧に詰めて屋敷を出た。




待ち合わせ場所に着くと、そこには既にクリスの姿があった。クリスは今日の昼に渡しておいたサンタの服を着て、頭には赤い帽子。そして口にはどこで手に入れたのか渡してもいない立派な付け髭を付けていた。


「助手くん遅いじゃないか」

「すいません、少し用意があって。……それとお頭は………ノリノリですね」


それを聞いたサンタクリースは少し顔を赤らめる。


「べ、別にいいじゃないか!そ、それで?今日はどんな風に侵入するの?」

「顔が赤いですよお頭」

「う、うるさいなあ!」


未だにほんのり顔の赤いクリスにプレゼントの入った袋を渡し、侵入経路やプレゼントの説明をしながら屋敷への道を歩く。説明が終わった頃には俺達は屋敷の前に来ていた。


「なるほどね。……あのさ、ひとつだけ疑問があるんだけど何でわざわざ煙突から入るの?」

「サンタクロースは煙突から入るものなんですよ。『狙撃』!」


俺は弓に番えたロープ付きの矢を放ちながら答える。


「そ、そういうものなのか……。な、ならいいや。あ、それともうひとつ」

「なんですか?」


ロープの具合を確かめながら聞き返すと。


「これは提案なんだけどさ、お頭と助手くんっていう呼び方は盗みに入る時のものだよね?だから今日は別の呼び方にした方がいいと思ったのさ。という事で、あたしの事をサンタさんって呼んで欲しいんだけど……」


………。


「サンタさん、やっぱりノリノリですね」

「う、うるさいぞトナカイくん!」


トナカイくん……!?


「ト、トナカイくんはやめてくださいよおか……じゃなくてサンタさん!」

「いいじゃないか、トナカイくん!……うん、いい響きだと思うよ?」


そう言ってくすくす笑ってるクリスに抗議してみるも、取り合ってくれず。


「トナカイくん、準備はいい?それじゃあ、いってみよう!」

「………」


結局トナカイくんと呼ばれながら、俺は少し不満ながらもロープをゆっくりと登っていった。



◇◆◇



──そして今に至る。


俺はロープを最後まで登り、クリスが登りきるのを待っていた。

今日の俺はどうしたのだろう。普段ならロープをこんなにスルスル登るなんてそれこそ盗賊をやってる時か支援魔法を受けてる時ぐらいのものなのだが……。

……この着ぐるみに魔法でも掛かってるのだろうか。

そんな事を考えているうちに、クリスも屋根の上に上がってきた。


「今日は絶好調だねトナカイくん」


俺は登って来たロープを回収しながら。


「サンタさんこそ袋をぶら下げながらよくそんなに早く登れますね」

「まあ、伊達に盗賊職をやってないからね」


……サンタさんが盗賊職をやってるとだけ聞くと、なんか複雑な気持ちになる。

が、クリスは俺のそんな気持ちは知る由もなく、控えめな胸を精一杯張っていた。


「それじゃあサンタさん、俺が先に煙突を降りるので着いてきてください」

「了解した!」


本当にノリノリだなあ……。

さっき回収したロープを煙突に引っかけてから垂らし、それを伝ってゆっくりと降りる。

中は昨日のうちに軽く掃除しておいたのでまあまあ綺麗にはなっているが、やはり狭い。


「サンタさん、中は狭いんで気をつけてください。でも良かったですね、ダクネスとかだったらつっかえて降りられなかったですよ」

「トナカイくん。それ、あたしへの悪口に聞こえるのは気のせいかな?」

「気のせいですよ」


これ以上話しをすると墓穴を掘りそうなので、俺は黙々とロープを伝って降りていく。

そしてようやく足が地についた所でティンダーの魔法でクリスに合図をする。

しばらくするとクリスが降りてきて、俺たちは無事に屋敷へと侵入する事ができた。


「ふう、何とか侵入できましたね」


俺は溜息を吐いて、暖炉の前のソファーに寝転がる。


「キミって人はどうしてそうなのかな……」


クリスがそんな俺にジトッとした目を向けてくる。

別に俺の家なんだからいいじゃないか。

しかし早くプレゼントを届けないと皆が起きてしまうので、休憩もそこそこに、俺は立ち上がり。


「よし、せっかくここまで来たんだし最後まできちんとのやりましょうか、サンタさん!」

「キミだけには言われたくないんだけどなあ……。まあ、そうだね。それじゃあプレゼントをと届けにいってみよう!」


そう言うクリスは実に楽しそうに見えた。




まず最初に、俺とクリスは俺の部屋の前に来た。


「ねえねえトナカイくん、なんでキミの部屋に来たの?」


クリスが不思議そうに首を傾げてくる。

なんでって、それは。


「それはアクアのクリスマスプレゼントを取りにくるためですよ」


そう言うと、またしてもクリスが固まった。俺は気にせず部屋に入り、あの重いビールの入ったダンボールを部屋の外に持ち出す。


「サンタさん、いつまで固まってるんですか。俺一人じゃあこれは少し重すぎるんで手伝ってくれませんか?」


その言葉を聞いて、クリスはやっと活動を再開させる。


「………ねえトナカイくん。私達がわざわざ屋敷に侵入する意味ってあったのかな……」

「そりゃあもちろん。雰囲気が出ます」

「キミって人は……」


そう言って深い溜息を吐きながらも、ちゃんと手伝ってくれるあたりさすが女神様だ。どこかの駄女神とは違う。



そのどこかの駄女神こと、アクアの部屋の前に着いた俺は、ドアに耳を当てて中の様子を伺う。すると、中からは大きないびきが……。

……あれは本当に女神なのだろうか。


「どう?」


後ろからクリスが聞いてくる。


「寝てますよ。それはもう大層ないびきをかいて」

「アクアさん……」


クリスはこめかみを抑え、小さな声で呟く。

できの悪い先輩を持つと大変だなあ。

しかし今はそんな事を言ってる場合じゃない。他にも二人に届かなくてはいけないので、早くしないと夜が空けてしまう。


「サンタさん、急がないと夜が開けてしまいます。こんなやつのプレゼントはとっとと済ませて次に行きましょう!」

「キミ、普段からもうちょっとアクアさんに優しくしてあげてね?」


そんなの知るか。



アクアにダンボールに入ったままのビールを届けた後、俺たちはめぐみんの部屋に来ていた。

ドアを開けて中に入ると、ベッドにはぐっすり眠っているめぐみんのが。

俺はプレゼントを傍に置きめぐみんの顔を覗き込む。


「ね、ねえトナカイくん、めぐみんの寝顔を眺めるのは今度にして早く次に行こう?」

「あと10秒待ってください」


何か言いたそうな顔をしながらも黙って待ってくれていたクリスを裏切る事はできないので、俺は仕方なくめぐみんの部屋を後にする。



そして最後にダクネスの部屋。窓の外を見てみるともう殆ど夜が空けていた。俺はダクネスを起こさないように慎重に扉を開けて中に入る。俺に続いてクリスも。

俺はダクネスの傍にプレゼントをそっと置き、直ぐに部屋を出るため扉の方を……。

向こうとして、その動きを途中で止める。


クリスが今までに見た事もないような優しい優しい顔をダクネスに向けていた。それは例えるなら母親が可愛い愛娘に向けるような優しい顔。


「クリス……」


俺がそっと呟くと、クリスは一度ギュッと目を閉じてからゆっくりと開いた。そして俺の方を向いて微笑んで。


「大丈夫だよトナカイくん。それに今の私はクリスさんじゃないからね?ちゃんとサンタさんって呼んでよ?」


そしてくるりと後ろを向き、部屋を出ていった。

それを見た俺は眠っているダクネスのに。


「ダクネス、お前は幸せ者だな。なんたってあの女神エリス様にこんなに心配してもらえてるんだから」


そう言い残し、俺もクリスを追って部屋を後にした。




「さて、ちゃんとプレゼントも届け終わった事だし、あとは煙突から退散するだけだね!」


暖炉の前に戻ってきたクリスは気合を入れて俺にそう言ってくる。が……。


「何言ってるんですかサンタさん。もう出口はそこにあるんですからそこから出ればいいじゃないですか」

「えっ?」


屋敷のドアを指さしそう言うと、クリスは素っ頓狂な声を上げた。


「え、いやだって、帰るまでが遠足だって言うし……」

「もう直ぐにアクア以外の二人が起き出してきますよ。そんな事してる余裕はないですって」


クリスはまたも何か言いたそうな顔をしながらも渋々とドアの方へと歩いていく。

俺はドアを開けてクリスを外へ促し。


「今日は本当に助かりました、ありがとうございます。この借りはこっちの方で」


俺はスティールの構えをとりながら言った。


「ま、まあいいってことさ、結構楽しかったしね。また何かあったら呼んでくれていいからね?」


そう言って笑顔を見せた。

お頭、そんな顔されたら呼ばないわけにはいかないじゃないですか。

俺が次は何を口実に呼び出そうかと考えていると。


「そう言えばこの服と袋ってどうすればいいかな?」


手に持ってる袋を見せながら聞いてくる。

服や袋を返しにきてもらうように言えばまた直ぐに会えるわけだが……。


「その服はお頭にあげますよ。ついでにその袋ももらっていってください」

「そうか、それじゃあこれはもらっていくね」


そう言ってクリスは袋を肩に担いで振り返り。


「じゃあ助手くん、またね!」

「はい、お頭も気をつけて!」


そのままクリスは、朝日の逆行に向かって颯爽と走っていった。

あまりの眩しさに目を閉じた俺が次に目を開いた時には、もうその姿は見えなくなっていた。



◇◆◇



服を着替えて布団に入りさあ寝るぞ、と思った時。

俺の部屋のドアがドンドンと叩かれた。

仕方なく布団からはい出てドアを開けると、そこにはアサ〇スーパードライを持ったアクアがたっていた。


………。


俺は何も見なかったと自分に言い聞かせてと扉を閉めようと……。

したところをアクアに止められた。


「ねえねえ、なんで閉めようとするの!?」

「何となく。それで、こんな朝早くから何の用だ?俺は徹夜してたから眠いんだよ」

「何ってこれを見ればわかるでしょ!日本のビールよ、ビール!!サンタさんがくれたの!まさかこっちの世界で日本のビールが飲めるなんて……!!」


………あれ、こいつまさか本当にサンタさんが来たと思ってるのか?あんな適当に置いておいたのに?


「それにカズマ、徹夜したって一体……。ははーん、なるほどね。カズマ、あなたがなんで徹夜してたか当ててあげましょうか?」


なんだ、やっぱり気付いてるじゃないか。腐っても女神。さすがにアクアでもあんなに無造作においてあったら気付くだろう。というか第一にプレゼントの事をあの二人に吹き込んだのは俺にプレゼントを買わせて、アクア自信がプレゼントを欲しいからであって……。


「サンタさんを見ようと思ったんでしょ!!でも残念だったわね。サンタさんを見ようとして起きてる人のところにはサンタさんは来ないのでした!その様子だとプレゼントを貰えなかったようね。可哀想だから私のビールを一本分けてあげてもいいわよ?」


……やはりコイツはただのバカだったようだ。

俺はアクアのことを無視してそのまま横を通り過ぎる。


「カ、カズマ、どうしてそんな可哀想な人を見るような目で私を見るの?なんで私の名推理を無視するの……?ねえ、ねえってば!」


バカのせいで目が覚めてしまった俺は、バカの言うことを無視しながら1階へと向かった。




お茶を入れて、新聞に載ってる四コマ漫画を見ながらそれを啜っていると、上の階からめぐみんが下りてきた。


「あ、カズマ、おはようございます。今日は早いですね」


そう言って俺の向かいの席に座る。


「ちょっとあのバカのせいで目が覚めてな。そう言えばめぐみんにはクリスマスプレゼント届いたのか?」

「ええ、マフラーと手袋、あとニット帽が届きましたよ」


良かった、どうやらバレてないみたいだ。めぐみんには“最深の注意を払って”プレゼントを置いたつもりだったので、バレてないのはちょっと嬉しい。

そう思って俺が安堵の溜息を吐いて残りのお茶を飲み干した時。


「カズマもお疲れ様です。そしてありがとうございます」


そう言って、めぐみんはくすくす笑ってから台所の方へ行ってしまった。


………え、もしかしてプレゼントを置いたのが俺って気付いてるのか?それとも違う意味なのか?く、くそう、めぐみんめ!曖昧な言い方しやがって!どっちなんだよ!


俺はめぐみんを問いただそうと台所から出てくるのをまだかまだか待っていたのだが、それよりも先に二階からうちのパーティー最後の一人、ダクネスが下りてきた。


「おや、カズマじゃないか。どうして今日は皆朝早いのだ?」


隣を見るとそこにはアクアがいた。どうやらダクネスも俺と同じ被害にあったらしい。


「おはようダクネス。そういえば、お前のところには何かプレゼント来てたか?」


挨拶がてら、自然に聞いてみると。


「ああ、プレゼントはあったぞ。全く、私にくれるぐらいならもっと貧しい子どもたちのところに行ってやれというのに……」


口ではそう言ってるが、顔は正直なようでその表情は笑みを堪えるので必死そうだ。

すると何を思ったのか、アクアがダクネスの肩に手を置き。


「ねえ、聞いて聞いて!ダクネスったら私が部屋に突入した時、ライオンのぬいぐるみを抱いて」

「わあああああーっ!!」


………。


抱いて何をしていたのかは気になるが、少なくとも喜んではくれているようなのでよかったという事にしよう。


しかしそうなると、夢を壊してしまったかは別にして、三人にはそれなりに喜んで貰えたらしい。

やっぱり苦労してやった甲斐があったなあ。

そんな満足感を感じながら俺がもう一度お茶を入れようと立ち上がった。

そんな俺の前に、アクアがタッタッと駆けてきて。


「そう言えば結局、カズマは何かプレゼント貰ったの?」


なんとも答えにくい質問をしてきた。

……サンタさんからのプレゼントかあ。確かに物質的には何も貰ってないな。

でも……。


「ああ、俺も貰ったぞ。取っておきのやつをな」

「ええーっ!なになに?」

「教えない」

「お願い!教えてカズマさーん!」

「だめだ」



このなんでもない日常と。そして一日限定のサンタさんだった少女と過ごしたあの楽しい時間こそが、俺へのクリスマスプレゼントだったのかもしれない──



◇◆◇



〈エピローグ〉


ふう、今日は楽しかったあ。

私は朝日が視界を照らす中、アクセルの街を駆けていく。

あの人と一緒にいると本当に騒がしい事ばかりだ。今日も変な事ばっかり。ダクネスも毎日あの人と一緒にいて、さぞかし大変なのだろう。でも……。


「毎日が楽しいんだろうなあ」


思わずそんな言葉が零れる。

しかし、私はこれで十分。これだけ楽しめたのだから、その分仕事を頑張らなくては。尚更頑張らなくては。

──何故なら私はこの素晴らしい世界を守るのが仕事なのだから。この面白くもおかしい日常を守るのが私の仕事だから。

その為に、私は仕事を頑張るんだ!



………でも、ひとつだけ。ひとつだけ心残りが。


「結局助手くん、最後まで私の誕生日に気づいてくれなかったなあ」


初めに呼び出されて、明日はなんの日かと聞かれた時はびっくりして期待してしまった分、少し寂しさが残ってしまう。


「まあ、この服と袋は誕生日プレゼントとは言えなくもないかな」


そんな多少無理やりな事を考え、私は感触を確かめるようにプレゼントの入っていた袋を揺らす。


カサッ。


……ん?何が入ってる。ま、まさか、プレゼントの置き忘れ……!?


私はいったん走るのをやめて慌てて袋の中の底の方を覗いてみる。すると……。


「こ、これは……?」


そこには、私の目と同じ色の、そして私の大好きな花。

──クリスの花束が入っていた。


何故こんなものがと思い取り出してみると、裏に何やらカードのようなものが挟まっていた。

二つ折りになっていたそれを開いて見ると、中には


《Happybirthday Chris!!&Merry X'mas!!》


の文字が。

……どうやら助手くんが入れておいたらしい。

なんともいやらしい祝い方だ。こんなやり方をするなんて。


「ふふっ、助手くんらしいじゃないか」


私は屋敷の方を振り返り、ありがとうと小さな声で呟く。

そしてもう一度、私はアクセルの街へと駆け出した。


「さあ、今日も頑張っていってみよう!!




〜完〜

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