夜、照らされた君の頬には傷があった

垢変更のため放置

第一話 自己紹介

高校生になるというのはどういうことだろうか。

高校一年生になって半年、俺はクラスに馴染めないでいた。

いや、馴染めないというのは違う気がする。

俺は自分のクラスが嫌いだ。

高校になるとお調子者が増える。特に体育会系。

だから俺はクラスに馴染めないというより、俺がクラスを拒絶している。

中学とは違う。子供から中途半端に大人になった俺は人との距離感がわからなくなっていた。

「あぁ、コンビニ行こ」

夜に歩くのは好きだ。何も考えずに歩くだけでいい。

誰もいない夜道はひんやりとした風が電柱に照らされた公園の木々を揺らしていた。

こういう時、物語を書きたくなる。

1人で歩くと自分を否定するように頭の中で妄想が広がっていく。

俺はその感覚が嫌いじゃない。むしろ好きである。

だからよくコンビニに行く。




電灯の光。コンビニの光。そこには人がいた。

そいつは1人パーカーのフードを深くかぶっている。

まるで何かを隠すかのように、弱いところを見られないように。

そいつは声を殺したような、声にならない声でひっそりと泣いていた。

俺はなるべく避けようと、速足でコンビニに入ろうとした。

…目が合った。

「唯坂?唯坂じゃん」

驚いたように顔を上げてこっちを見た。

「相野…?久しいな」

そこにいたのは中学の2年間同じクラスだった相野彩だった。

「どしたのお前、大丈夫か?」

「うちのこと?なんで大丈夫じゃないと思ったの。」

「だってお前…」

泣いてたじゃん。その言葉が出せなかった。

今まで俺はこいつとほとんど関わってこなかった。

そんな俺が涙の理由を聞いていいのだろうか。

「とりあえずなんか買うか。どうせだしなんかおごるよ」

「…ありがと」

なんか変だな。相野は中学の頃は明るいキャピ系の女子のイメージだったのだが。

今目の前にいる相野は暗くて目を合わせてくれない。

俺は嫌われているのだろうか。

相野は無言で俺の後ろをついてきている。

「買いたいもの選びな。金額は気にしなくていいから。」

「ほんとに…?」

相野は小走りでお菓子が並んでいるとこに行くと、棒状のチョコがついたお菓子を持ってきてかごに入れた。

「お前これでいいの?」

「…これがすきなの。」

嬉しそうに小さい声で言った。

俺は何を買おうかな。とりあえず後で飲むようにカフェインたっぷりのエナジードリンクと…あとはこれも買っておくか。

「相野そろそろ行くか。」

相野は俺の顔をちらちら見ながらぴったりついてきている。

コンビニから出ても帰る気配はなくうつむいている。

「帰るか。相野の家まで送ってくよ。こんな夜に一人で歩かせるわけのもいかないしなあ。」

反応なし。いいや、嫌がっているわけではないっぽいし。

「とりあず横来な。後ろだとわからないだろ。」

俺が歩きだすと相野は小走りで横に来た。

「唯坂ってさ、学校楽しい?」

「どうだろうね。中学の友達はみんな違う高校行ったしな。」

「友達出来た?」

「いるっちゃいる。でも自分のクラスに友達はいないな。」

「そっか。実は私もクラスに友達いないんだよね。」

仲間が見つかってすこし嬉しそうに見えた。

「中学はさ、みんな子供でみんなバカやっててすごい楽しかったんだよ。」

「高校は違うのか?」

「高校は違うよ、冷める人は冷めるんだよ。それ以外の人はお調子者。」

「相野はどうなんだよ。」

「私は…冷めた。冷めされられた。」

俺は鈍くはない。だから相野が言っていることは分かる。

「今は中学の頃のやつらと遊んではバカやってるよ。」

「唯坂は変わんないね。中学のころから何も。」

「まあ人は簡単に変わらんしな。」

「女の子に優しいのも変わってないのね。」

「そうだぞ、俺は優しいんだぞ。」

「ふふっ、ありがと。ちょっと元気出た。うちここだから、じゃあね」

「おう、”また明日”な。」

相野は笑顔で手を振っていた。




相野はどうして泣いていたのだろうか。

あいつは簡単に泣くような奴じゃない。まあ偏見だけど。

それでも前まで元気に過ごしていたやつが夜に一人でコンビニに行くとも思えない。

まあ俺にできることはさっきみたいに話しながら歩くことぐらい。

根本的な解決はできないし、相野の問題に首を突っ込む気もない。

個人で解決してくれることを願う。

俺も前の元気な相野の方が好きだし。

人は簡単には変わらない。変わったというのはそう思っているだけで実は変わっていない。

変わるのは周りの人間だけで、自分が変わったような勘違いを生む。

”人の心は偽りでできている。心は変化し続け、間違い続ける。だがその間違いが少しでも傷を作ったなら、本物と呼んでもいいかもしれない”

そう語った作家がいた。

成長する人間は悲しみを背負う。悲しみが成長を促進させる。

すべてのことが他人事な俺は成長なんてしない。

相野は今悲しみを背負いきれてない。悲しみ以上に苦しみがのしかかっている。

楽しかった日々が壊れたという事実は時間を経て悲しみと共にやってくる。

彼女はまだ成長過程にいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜、照らされた君の頬には傷があった 垢変更のため放置 @kasagumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る