極限状態で明らかになる人間の本質

隕石衝突による地球滅亡まで一年、宇宙脱出のために足掻く人類のお話。
二部構成(幕間除く)のパニック劇です。前半と後半でかなりはっきりとお話が分かれる、その構成が実に特徴的。前半であんなにがっつり主人公していたキャラクターが、いきなりすぱっと退場してしまう。この瞬間の衝撃というか思い切りの良さというか、いきなり突き放されるような感覚がとても好きです。
後半の展開、特に結び付近の流れはもう圧巻でした。
すでに航行中の宇宙船内部、次々語られる権力者たちの醜聞。視点保持者の主観においては「最低に利己的」としか言いようのないそれらに対して、でもその当人もまた同罪である、という現実。呉越同舟、同じ穴の狢であることを知りながら、胸の内で他者を断罪することで自らを〝正しい側〟に置こうとするそのエゴイズム。なにより、そんな人間が個人の価値観で、命の選別を行おうとしている――その権利が自分にあると自然に思いこみつつあることの、まるで背筋が凍りつくようなこの恐怖!
エグいです。宇宙船という限定空間における人の正気の脆さ。いち科学者(医療従事者)が己の持つ知識や技術を、なんらかの権威と錯覚してしまう瞬間。個人の中の倫理観が腐っていく様を描いた、非常に痛烈なSFサイコスリラーでした。