第3話 青頭巾ちゃんと微分
第一村人発見!
いや、発見されたのは僕か。
「あのぉ……。あなたは誰ですか?」
仮に青頭巾ちゃんと名付けたその少女は心配そうにこちらを覗き込む。
しかしその瞬間僕の頭は驚愕に染まっていた。
(日本語だ。)
そう、彼女の喋る言語は日本人の慣れ親しんだ日本語だったのである。
「まぁ……こんにちは。」
持ち前のコミュ症が見事発揮してくれたが、なんとか返事をする事はできた。
これであとはこちらの言う事が伝われば……
「えっ、あぁはい、こんにちは?」
疑問形で返されたものの、きちんと伝わっているのは確かだろう。
ここでも日本語は使える!
これは僕の夢説、そしてテレポート説(日本国内)を再浮上させた。
それは大きな希望だった。
「あぁ、そうだ。私の名前はクレア。あなたの名前は?」
はい、僕の夢説とテレポート説、乙。
ここ日本じゃないわ。
よく見たら青頭巾ちゃん、もといクレアさんは金髪慧眼(美人)だし、足元に転がるこのウサギもうざったい虫達も日本ではまず見ない種だしなぁ。
異世界説なんてとんでもないもの信じたくないしな。
そもそもトラックにだって轢かれてないし、召喚されたって雰囲気でもないのに。
「僕の名前は弥太郎です。……はい。」
分かってる。僕がコミュ症だなんて僕が一番分かってるから、それ以上は言わないでくれ!
「ヤタローさんですね。へえ、で、今日は何をしてるんですか?」
何をしている、か。どう答えるべきなんだろう。
薄々感じているが、ここは異世界なんだろうし、もうどうにもならない事だろう。
ではどう返答するべきか。
1.この森の原住民のふりをする
2.異世界からきた事を説明する
3.記憶喪失のふりをする
4.ただ違う街からベッド引きずってウサギ殺していたと言う
5.クレアさんを鈍器のような物で……
うん、5はまず除外でいいだろう。
まだ人間をやめる気はない。
1と4も難しいかな。クレアさんがこの森に住んでたら1は詰みだし、4は現実にそんな奴がいたら僕でも関わりたくない。
となれば2か3だけど……。
うーん。まぁ折衷案でいこう。
「いや、僕も驚く事にね。今朝起きたらいつの間にかここにベッドごと移動していたんだ。違う所で寝ていたはずなのに不思議だなぁ、と思っていた時にウサギが襲いかかってきて、色んな物振り回してやっと今倒せたって感じかな。」
自分でも論理の破綻した説明だってわかるが、それ以上の説明のしようもない。
納得してくれ。
クレアさん、恐らく僕と同じ歳くらいの少女は何か思案しているようだった。
「空間移動魔法の暴発? いや、それにしたらこの状況は……。」
今とんでもない呟きが聞こえた気がした。
魔法、だと。
「あの、クレアさん。魔法って。」
クレアさんにそう問いかけると、僕に初めて気付いたように顔を赤くして答えてくれた。
「あ、あぁ、すいません。1人で考え事しちゃってて。ただそんな魔法が暴発したのかなぁ、と思いまして。」
魔法。
やっぱりあるんだ。
もう本気で腹を括らなければいけないな。
並大抵の一般人、特にそんな小説の主人公などは魔法という響きに歓喜し、小学生のようにはしゃぐものかもしれない。
しかし最早色々なものを超越した男、茨坂 弥太郎の心中はこれまでになく静かだった。
むしろ、
(魔法あんのかよ。あー萎えた萎えた。)
なんて思ってるくらいだった。
というのも勉強人、茨坂 弥太郎。文系であろうともやはり化学で証明できないものを信じる事なんてできないし、何より異世界ものの小説でよくあるように、魔法に頼りっきりという世界観もあまり好きではなかったのだ。
それも万能参考書を買って、自らの才能ではなく、努力で成績を上げてきたという体験があった事も影響している。
しかし、ここである可能性にいきつく。
この異世界で生き残る為の可能性。
いや、可能性というよりテンプレか。
「ねぇ君。3x2乗+2x+2を微分すると何になる?」
クレアさんはことんっ、と首を傾げたまま動かなくなってしまった。
ニヤリ。
これだ。やっぱりここは異世界だ。
微分という物の存在はあるかもしれないが、クレアさんがわかっていないという事は多分皆が皆知っている訳ではないのだろう。
微分という言葉がこの世界で違う言葉として伝わっている可能性はあったが、彼女は僕達と同じ現代日本語を使っていたので大抵のものは元の世界と同じ名前だと思う。
だから僕がする事、できる事。
よしっ、学校を作ろう。
マエストロ・ザ・ストーリア 〜学校知識は異世界で役に立ちます〜 momotetu @martius-nine
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