第2話 鈍器のような物
ポキッ。
今度はシャー芯ではなく自分の心が折れる音がした。
まず自分の置かれている現状を整理しよう。
持ち物は意外とない事はない。
要するになんでもかんでも床に置いてある物達をベッドの上に置いてそのまんまにしていた人だったからである。
最早ベッドが安眠の道具である事を忘れていた彼にとってその環境で寝るのは造作もなかったのだ。
という事で持ち物は
・ベッド(持ち運び不可)
・万能参考書(かろうじて持ち運び可)
・リュックサック
・普段着(上下有)
・パジャマ(今着用中)
・目覚まし時計
・携帯の充電器(携帯無し……)
・ポケットティッシュ数個
・知恵の輪
・レジ袋
・財布
……………………うん。詰んでるね。これ。
まず食糧がない。
これで籠城という可能性を潰されてたし、餓死の危険は大いにある。
それに武器もない。
まぁ現代日本程治安が良ければいいが、異世界物のテンプレのように魔物が蔓延る世界とかだったりしたら、もう森の中にいる時点で手遅れな気がするが武器は必須だろう。
ハサミなど割と色々入ってる筆箱がないのは痛い。
財布もなぁ。絶対日本円が使える訳ないよなぁ。まぁ念の為に持っとくけど。
充電器は完全に紐だな。せめて充電器じゃなくてスマホが欲しかったけど。
取り敢えずどんな行動をとるのかだ。
そう、ここは森の中なのだ。
ここは森の中でも開けた所なのだろうが、まるで人の気配がしない。
さっきから布団の上で見た事のない虫がかけっこをしていて気持ち悪い事この上ないのだが、もうすっかり慣れてしまった。
ここを拠点にしてしまおうとしたが、取り敢えず食糧の関係上籠城は難しいので、すぐにでもここから離れる事は必須だった。
「はぁ……。」
焦ってはいけない。まだこれがドッキリの可能性もあるし僕の夢の可能性だってあるのだ。
だがこうして普通にすっぽんぽんで普段着に着替えようとしている僕は多分落ち着いているというより、アホと言えるだろう。
まだ危険かもしれないし、仮にテレビのドッキリでも駄目だろう。
でも僕は驚く程落ち着いていた。
それは僕の側に万能参考書があったからである。
これは参考書といいながら、鈍器のような物にもなれ、はたまた椅子にもなる。
これ程万能で頼り甲斐のある本は多分存在しないだろう。
だからこうして角の生えた一回り大きな野性味あふれるウサギがこちらに牙を向けてきても僕は動じる事がなかった。
「おい、ウサギ! 来るなら来い! 返り討ちにしてやるよ。」
こんなにかっこいい茨坂 弥太郎見た事ない!
では何故こんなにかっこよくあれたのか。その理由は単純だ。
腹が空いていたのだ。単純に。
しかしそれだけでもない。僕には勝算があった。
そう、つまりそれは………
「食らえ! ウサ公! これが最強の武器! 万能参考書だ!」
鈍器(参考書)で殴る!だった。
一見すると馬鹿馬鹿しい攻撃だと思うかもしれないが、この攻撃には運動エネルギーとか遠心力とか、まぁ、色々な理系知識が緻密に練られているはずだ!
しかしその攻撃を受けたウサギはピクピクと動いた後もう動かなくなってしまった。
これで鈍器のような物で殴られたらしき遺体の完成である。
一つ分かった、この戦闘スタイル、めっちゃ疲れるし、結構グロイ。
しばらくして僕の考えはまとまった。
よし、街を探そう。それが最優先だ。
そうと決まれば善は急げだ。
僕はここに来て初めてこの地に降りたったのだった。
「はぁ、しばらくは裸足か。……あとこれどうしようか。」
ウサギがすぐ横で倒れている。どこかで売れるかなぁ。
そんな事を考えていた時だった。
「誰ですか?」
青い頭巾を被った1人の少女と出会ったのは。
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