雪と花火と魔法と
「ねえ、サーシャ。雪と花火だったら、どっちが見たい?」
突然レヴィがそんなことを訊いてきたので、サーシャは首を傾げた。
「雪と……花火、ですか?」
「そう。気楽に答えてくれればいいから」
「そう言われましても……。どうしてそんなことを訊かれるのですか?」
まだ短いレヴィとの付き合いの中でも、こういう何気ない問答が結構大事になることが多々あったので、少々警戒しながら訊ねるサーシャ。
そんなサーシャの様子に小首を傾げながら、レヴィが答える。
「シンデレラのやる気に関わるからだけど」
「……申し訳ありません。それだけだとよくわからないので、もう少し詳しく事情を伺っても?」
わりといつものことだが、レヴィは言葉足らずな面がある。あまり人と関わらない魔法使いだったためなのは教えられているので、サーシャは慎重に、話を深めることにした。
「そうか。話していなかったね。シンデレラに新しい魔法を教えようと思うんだけど、普通に教えるだけじゃつまらないかと思って。君に披露するっていう目標があれば、シンデレラもやる気が出るかなって。……まあ、最終目標のことがあるから、シンデレラのやる気が潰える事はないと思うんだけど」
「……な、なるほど。質問の意図はわかりました」
レヴィの言うシンデレラの『最終目標』というのは、性転換してサーシャに求婚することである。どうにか頭の中から追いやって考えないようにしていたその事実を思い出させられて、ちょっと遠い目になるサーシャ。
「ええと……雪と、花火でしたか。どちらも美しいものなので、見てみたい気持ちはありますが。近々何かの催しがあるというわけでもないので、花火はちょっとどうかと……。雪も、季節外れだと思うのですが……」
花火というのは何かの催し、お祝い事などがあるときにあげられるものだ。特に何もないのにあげられてしまうと、騒ぎになりそうな予感がする。
同様に、雪を降らせるのも問題だ。現在は夏の暑さは遠のいているけれど、雪が降るにはあまりに早い。大騒ぎになるのが目に見えている。
「うーん。単純に、どっちが見たいかどうかでよかったんだけど、サーシャはいろいろ考えてしまうんだね。……心配してるのは、騒ぎになること?」
「ええ……その、やはり、影響を考えてしまって」
見透かされたことに少々気恥ずかしさを感じて目を伏せるサーシャに、レヴィが僅かに目元を和ませた。希少なレヴィの表情の変化だったものの、残念ながらサーシャがそれを見る前に、通常の表情へと戻る。
「魔女や魔法使いのやることに、この国の人間は寛容そうだけど。君が気になるなら、そこは考慮しよう。それもまた、新しい魔法を教えるいい機会になりそうだし」
「……?」
「騒ぎにならなければ、雪も花火も見たいということでいい?」
「……そうですね。見られたら、嬉しいですね。魔法で作られたどちらも、きっと綺麗でしょうから」
「うん、わかった。そういう方向にする」
「そういう方向……?」
「楽しみにしてて」
それだけ言って、レヴィは去ってしまった。こうして突然去ることはよくあるので、サーシャも驚きはしない。
ただ、残された言葉の意味が掴み切れなかったので、少しばかり何が起こるか心配になる。
(まあ、レヴィ様のことだから、悪いようにはなさらないでしょうけど……)
そして数日後。
「どう? サーシャお姉さま!」
「すごいわ、シンデレラ。雪も花火も、とっても綺麗。……これは、この屋敷の敷地内でしか見えないのよね?」
「そうよ。雪は範囲指定してあるし、花火は術者とサーシャお姉さまにしか見えないように設定してあるの。雪が屋敷の敷地外から見えないような結界も張っているし……」
「たくさんの魔法を覚えたのね」
「サーシャお姉さまを楽しませるためだもの! ……あの男が『今見せた3つの魔法、同時展開できるようになってね。期限は……そうだな、3日後くらいが妥当かな?』とか突然言い出した時は殺意が湧いたけれど、サーシャお姉さまのためと聞いたから頑張れたわ!」
(レ、レヴィ様……)
「……本当に頑張ってくれたのね。嬉しいわ」
「思う存分堪能してね、お姉さま」
屋敷の庭でそんな会話をしながら、雪と花火の競演を楽しんだサーシャだった。
シンデレラの愛を一身に受ける義姉は、舞踏会で魔術師に求婚される 空月 @soratuki
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