最終話後のある日
「サーシャお姉さまの、おねえさまの、ば……ば……。い、言えない……サーシャお姉さまを罵倒するなんてできない!」
うるうると今にも泣きだしそうな瞳でサーシャを睨んでいたシンデレラが、わっと泣き伏した。
「でもわたくしの気持ちをちっとも考えてくださらないサーシャお姉さまなんて、サーシャお姉さまなんて、一生わたくしに愛されてればいいんですわ!」
「それは今までと変わらないんじゃないかしら?」
ごく冷静なメイディのツッコミが入ったものの、シンデレラの勢いは止まらない。
「わたくしに愛されて、ほかの誰が入る隙もないくらい愛されて、そしてあの腹黒魔術師の魔の手から救い出されればいいんです!」
「それはただの君の願望だと思う。そして僕は腹黒ではないよ」
突然響いた声に、ばっとシンデレラが振り向いた。その目には敵意が満ち満ちている。
「出ましたわね、諸悪の根源!」
「それで言うと、君の方が諸悪の根源だと思うよ」
「あなたさえいなければわたくしとサーシャお姉さまの幸せな生活は守られたんですから、あなたが諸悪の根源ですわ」
「君の執着がなければ僕もサーシャに興味を持たなかったんだから、君がすべての原因じゃないかな?」
ばちばちとした火花が見えるような気がして、サーシャはそっと目を背けつつ、疑問を呈した。
「れ、レヴィさま……どうやって……はともかく、どうしてこちらに……?」
聞くまでもなく、空間に突然現れるなんて魔術でしか成しえない。だからこそそこを置いておいたのだが、レヴィは律儀に答えてくれた。
「最初来た時にここに『しるし』をつけておいたんだ。長い付き合いになりそうだったから。それを辿ればいちいち座標や風景を思い描かなくてもここに出られる。今日はその試運転も兼ねて顔を見に来たんだ」
「試運転……」
「そこじゃなくて、『顔を見に来た』の方が重要なんだけどな……。サーシャは僕の婚約者になったっていう自覚が足りない」
さらりと言われて、サーシャは頬に熱が集まるのを感じた。こうなるから、できるだけその事実を頭から追い出しているというのに、レヴィはそんなこと知ったことではないとばかりに口にしてくる。
そして頬を赤らめたサーシャを見て、シンデレラがむくれるのも『いつものこと』になりつつあった。
「サーシャお姉さまはわたくしが『好き』と言ってもそんな顔をしてくれないのに、この魔術師のことだと軽率に頬を染めすぎです! そんなにかわいい顔を見せて、この魔術師が本気になったらどうするんですか!」
「一応もう本気なんだけどな」
「ますます悪いですわ!」
もはやこの二人の仲はこれが通常となりつつあった。噛みつくシンデレラに煽る(意識的にか無意識的にかはわからないが)レヴィ。
心ならずもその原因となっている身としてはどうにかしたいと思うサーシャだったが、今のところ解決の目途はたっていなかった。
「し、シンデレラ、レヴィさまはとりあえずの手段として私を、その、『婚約者』にされたのだから、そんなに目くじらを立てないで……」
「甘い、甘いですわサーシャお姉さま! さっきの言葉を聞いたでしょう! この男、『もう本気』なんですのよ! 手段にかこつけてお姉さまを手に入れる気満々ですわ!」
「僕が言うのもなんだけど、シンデレラは僕がうまくいってほしいのかそうじゃないのかわからない言動をするよね。今のだって、僕の言葉を後押ししてくれてるし」
あえて聞き流した『もう本気』発言を直視させられてますます赤面したサーシャは、レヴィのツッコミを否定できなかったが、シンデレラは心外だったらしい。
「これはサーシャお姉さまの危機感が足りないからです! あなたみたいに長く生きてる魔術師相手ではいつぺろりといただかれてしまうかわからないじゃないですか!」
「落とす努力は怠らないけど、ぺろりといただくのは、少なくとも君が魔術師として一人前になってからだから、安心していいよ」
「どこも安心できる要素がないじゃありませんか!」
そんなやりとりを耳にしながら、この辱めはいつ終わるのだろうと遠い目になるサーシャだった。
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