生きて、還りし物語

『2001年宇宙の旅』っていうクッソ有名な映画があるんですけど、これの原題を『2001:A Space Odyssey(直訳:宇宙のオデュッセイア)』といいます。
 スタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークは、宇宙の彼方まで〝行って、帰ってくる〟物語のタイトルを、ホメロスの『オデュッセイア』に倣って名づけたんですね。
 ちょっと前にSFファンにめちゃくちゃ怒られた、マット・デイモンの『オデッセイ(原題:The Martian)』もそうです。〝行って、帰ってくる〟。

 それで本作『odd essey(直訳:奇妙なエッセイ)』なんですけど、僕は『odd essey』を、人生のわりと早い段階で躓いてしまった主人公(カケルくん)が、人生に帰還してくる話の前半部分だと思っています。
 人間、月に三日居たくらいでガラッと変わるような軟弱な生き物ではないので、たぶんカケルくんは地球に戻ってもやっぱりそれなりに苦しむんでしょうが、カケルくんは月の三日間で、(どういう形であれ)「義姉」という存在を、自分しか存在しなかった心のうちに招き入れています。
 カケルくんはこの後、確かに変化した心を持ち帰って地球で生きていくことになりますが、その結末に関してぼくはあんまり悲観していません。だって『オデュッセイア』って〝行きて帰りし物語〟だし。
 そういう意味で、本作は結末を描かないことで結末を約束しているんですね。作者さん、とてもやさしい人なんじゃないかなと思います。
 がんばれカケル、人生に帰れ。

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