これはまさに、”ライフ”に焦点のあてられた、主人公の成長の物語。

【物語の始まりは】
戦闘の一場面から始まっていく。主人公たちは〝職業傭兵〟であり、今回の仕事は林業用の森林地帯の見回り。本来なら敵がでるはずはない。その為、誰でもできる仕事のはずであった。しかし予見はあったのだろう。傭兵の五つの階級の中の上から三番目にあたる人物に、直接指名が入っていたのだから。これは罠なのか? それとも策略か? 依頼内容に虚偽があった為、寄せ集めの彼らでは対処しきれない状況となってしまった。果たしてどう切り抜けるのか?

【舞台や世界観、方向性】
国独自の職業〝職業傭兵〟という職業(?)があり、軍人、市民義勇兵に続く三番目の存在。依頼の報酬として金銭を受け取り、仕事をする。階級などもある。上から三番目の階級は準1級。
民族固有の精霊科学アイテム〝精術武具〟というものが存在する。
主人公の成長の物語である。

【主人公と登場人物について】
この物語は主人公の成長が描かれた作品。
冒頭で戦闘が開始された直後、彼女たちは自分の置かれた状況を冷静に分析し、隊について辛らつな評価をしている。しかし隊長を喪い、暫定の隊長と認められた彼女にとって頼れるのは自分と一時的な仲間だけ。その場面でも冷静に分析をし、最小限の被害に抑えようとしていた主人公だったが、冒頭の印象とは異なる。
この物語では、主人公の微細な変化も表現しているように感じた。感情の起伏をあまり感じさせない冒頭に比べ、村に帰ったのちの心境など。

【物語について】
撤退を余儀なくされた彼らであったが、事態はそう甘くはなかった。等級準一級である隊長の指示により、主人公は9人で編成された彼らを先導することになる。しかし撤退の途中で隊長は被弾。彼をその場に残さなければならない状況に。皮肉にも、ここまでは纏まりのなかった彼らだったが気持ちが一つとなり、主人公は暫定の隊長として認められるということになる。

彼女たちはこの後、絶体絶命状態から正規軍に助けられることになるが、当初の”虚偽依頼問題”についても触れられている。単に傭兵として戦って……というだけの物語ではなく、問題に解決や状況の把握などにも触れている。戦闘が含まれる物語で、刑事もののように事件の解決とその後にまでスポットがあてられて描かれている物語は、珍しい印象。事件の背景について詳しく分かるため、厚みと奥行きを感じる物語でもあると感じた。

【良い点(箇条書き)】
・物語として焦点のあてられている部分が斬新だと感じる。
通常、ファンタジー×戦闘ありという作品において、悪事が裁かれるのは多々見かける。それは商業やTVにおいても同じではあるが、依頼とそれらの関係について触れるというのは”ミステリーや刑事もの、探偵もの”などジャンルが多く、このタイプのものは珍しいと感じた。つまりこの物語で表現しているのは”生活”の部分でもあると、言えるのではないだろうか?
・さらっと描かれても不思議ではない部分に、テコ入れしている。
主人公達が何故傭兵をしているのか? これに対してのエピソードが、とても丁寧であると感じた。彼女たちは収入を得るために仕事をしている。もし報酬に不安があれば、その後の仕事自体が巧くいかなくなることもあるだろう。
その後どうなったのか? このことについて疑問を抱くのはジャンルに寄るだろうが、丁寧に描かれていることによって、彼女たちが”生きている”、”生活をしている”ということが、より強く感じられる。
・主人公だけでなく、主人公によって周りも成長していく物語である。それだけこの世界で生きることが、過酷であるということだと感じた。
・冒頭からのイメージとは違い、かなり主人公の生活に密着した物語。
バリバリの戦闘もの(息をつく暇もないほど、戦闘に次ぐ戦闘のような物語)が好きな人には物足りなさがあるかもしれないが、海外の友情ものドラマのようなライトさもあるので、逆にバリバリの戦闘ものでないものが読みたい人には好まれると感じた。(生活も感じられる作品が好きな人、という意味合い)

【備考(補足)】16ページ目まで拝読
【見どころ】
この物語での”ライフ”は少し読む前とは、イメージの違うものだと感じた。主人公はワンルームの部屋に住んでおり、17歳の少女である。過去に重いものを背負っており、そこから逃れ、自分らしく生きようとしている印象。しかし母は病にかかっており、その治療費も負担しなければならない。

魔法などが存在するファンタジーを舞台にする作品において、生活に密着し”生きる”ことに対してリアリティを追求した物語だと感じた。スポットをあてている部分がかなり斬新であり、これは筆者(自分)の偏見ではあるが”男性よりも女性”が好みそうな作品だと思った。
戦闘描写においても丁寧ではあるが、それよりも主人公の生活部分が際立ち、その方向性も既存の物語とは少し傾向が異なる印象を受けたからである。
野宿して戦って、砂や泥まみれの戦場、血なまぐさい描写が延々と続くというイメージの傭兵生活ではない。どちらかというと、貧乏なキャリアウーマンというイメージに近い。
その為、都会で貧乏暮らしをし”お金はないし、仕事を探さなければならない。どうしよう!”というような、誰もが一度は感じたことのありそうな感情も共有したり、共感できる部分もある。不思議なバランスの物語である。
読みやすく取っつきやすいという印象を持った。
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? 主人公がこの先、どのような人生を歩んで行くのか、その目で是非確かめてみてくださいね。おススメです。

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