エイラちゃんの片角の魔王講座

その体は粒子であり、液体を好み、電磁に干渉する。幻を見せ、毒となり、熱を奪う。風水土火光電磁時氷闇…全ての精霊を従える異邦の玄獣。それと契約を交わした故の『基盤の国イェソド』だ。


「更に言えば群体だったんですよね。もう一つになっちゃいましたけど」

「だから『王』だったんだね~」

幻術学研究室で、幻術学講師と司書相手にエイラはアィーアツブスの講義をしていた。

「君、その角に関してはどうなんだい」

「あー、これは」

エイラはパン!と手を叩く。すると、エイラの角は左右対称に生えていた。続いて眼帯を外せば、硬化も損傷もない綺麗な顔が現れる。

「後天的にアィーアツブスを取り入れると、寄生部位である脳の一部が一度破損して再生されます。アィーアツブスが再生した痕ってこの角みたいな質感になってしまうので…。でも胎内に居る頃から寄生されていると、破損は起こらずに角二つで生まれてくるんです」

再び眼帯を着け手を叩くと、右側の角は消えていた。

「ふふ、これは前に貴方が見せてくれた幻術を真似てみました」

悪戯に笑って見せるエイラに幻術学講師は素直に感心する。

「凄いね!もっと色々、ちゃんと教えたくなっちゃうなぁ」

「止めはしないが、相手は玄獣憑きだぞ。簡単に超されてしまいそうだ」

「そしたら逆に教えて貰うよ」

それはエイラの方から辞退する。幻術学講師は残念がったが、あっさりと引き下がった。

「そう言えば、精霊が見えるんだっけ?」

「あ、はい。精霊が、と言うより…『力』が視覚で認識出来るようで」

「なんだと?」

司書が厳しい目を向ける。好奇心が昂っているだけで敵意はない。

「煌力に関しては、とにかく眩しいですね。正に名の通り、でしょうか。お陰で、静天にならないと煌力以外の力はだいぶ見難いです」

「ああなるほど。それで『静天時には』と付くのか」

憑かれていただけの時なら見難い処か見えなかっただろう。

「ずっと眩しいのはごめんだけど、精霊が見えるのは少し羨ましく思っていたんだよ」

「魔術は精霊を操る術だからな」

「そうなんですか。この塔には…それはたくさん、居ますね」

今は左目に限らず見えてしまっているのでもう見慣れてはいるが、塔とアッシャー山脈にはちゃんと見てしまうと歩けなくなるほど大量に精霊が居る。

「処で…こんなに長居して、コクマの守護獣は怒りませんか?そろそろおいとました方が良いかと…」

「大丈夫だと思うけどねえ」

「君は会ったことがあるんだったか。私は性格も知らんから何も言えんが、確かに長く引き留めた」

ケセドの守護獣シェレスキアホドの守護獣オルデモイデにはいつも大目に見て貰っているのだが、コクマの守護獣には会ったことがない。ちょくちょくお邪魔しているが、他の国の守護獣のように向こうから会いに来てはくれないようで、まだ挨拶もしたことがないのだ。

「ダァトを介した方が会いやすいのでは?」

司書の提案に曖昧に返す。アィーアツブスは起源が違うので、ダァトにはあまり馴染まない。世界樹セフィロートの奴が異常なのだ。

「まあまた話を聞かせてくれ」

「うんうん、旅の話とかもね!」

「はい!それではまた!」

一礼して、エイラは霧散した。


「終わったー?」

「お待たせしました!」

エイラの形で赤竜の背に乗る。

「次は何処行こっか」

「そうですね、あ!久し振りに辛いものが食べたいです!」


紫煙と赤竜は終わらない旅をする。

終わらない世界を見て回る。

世界の果てまで。

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片角 炯斗 @mothkate

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