日本人転生者エルフの永峰 茜さんとゴブリンさん



 父さん母さん。


 世の中には凄い人が居るんだなと思わされました。


 それと言うのも僕の元同級生の永峰さんと再会したからです。


 彼女にしたくない綺麗な女性って本当に居るんですね。キャラが強烈過ぎて異性と言う気がしません。同じクラスで過ごして居た時に気付いていれば、もっと上手く対応出来たのでしょうか?



  当時の風間拓斗の心の声を一部抜粋。




 シャイニングブルーさんとの衝撃的な出会いから2週間が過ぎたんだ。

 昨日の夕方にノースタウンの特級ダンジョンのアップデートが終わって、カレルさんとシャイニングブルー武本さんはノースタウンに帰って行った。


「武本さんって、結局1万回スクワット出来るようになりましたね。」


 毎日500〜700回くらいずつ増えていくスクワットの回数に驚いた。

 それと、毎日同じようにお風呂で悪戯に引っかかるのも驚いた。


「努力家だもんね彼は。風間君と同じ様にね。」


 僕が吐いたのは初日だけだったけど、暇な師匠やアマリエッタさん、若松先生やボンゴさんに代わる代わる指導されながら、だいぶ体の動かし方が上手くなってきた。


 そんな中でちょっとした変化なんだけど、昨日から話し掛けてくれる綺麗な女性が居るんだ。


「風間君♡お疲れ様。はいタオル。」


「あっ、ありがとう永峰さん。」


 中学1年生の時のクラスメイトで永峰茜さん。僕をこっちで初めて見掛けた時は声を掛けにくかったらしく、修練所で運動する姿を見て、今なら大丈夫かな?って声を掛けてくれたんだ。


「小便臭いクソエルフが、生意気に色気づいて……。」


 若松先生、心の声がダダ漏れですよ。


 そんな若松先生の呟きは間違ってるよ、永峰さんが僕に興味があるのは……


「早くゴブリンさんと仲良くなって、沢山ゴブリンさんを紹介してね♡」


 小さな声で僕に囁きかけた永峰さんの言葉を聞いて、やっぱりとしか思わなかった。


 そんな永峰さんと僕を置いて、師匠達は飲みに行っちゃった。後は若い者同士でなんてニヤニヤしながら。


 余計なお世話です。


「風間君って日本に帰るつもりなの?」


 唐突に永峰さんに聞かれたんだけど、帰るつもりだから。


「つもりじゃないです。帰ります。」


 そう答えたんだけど。


「それなら帰ったら私の親に伝えてよ。死ねクソ野郎って。」


 永峰さんが異世界こっちに来た理由を聞いたから、無理だとは言えなかった。


「そんなに恨んでるんですか?」


「そりゃめちゃくちゃ恨んでるわよ。だって夢も希望もあったのよ。なのに親に殺されるとかさ、信じらんないでしょ?」


 まあ信じられないのは分かるけど……


「でも事故だったんですよね?」


「そりゃ事故よ。でもあんなの不注意以外の何物でもないわよ。」


「バックして来た車に挟まれたんでしたっけ?」


 確か父親がバックで車を車庫に入れようとして、車庫の中でしゃがんでた永峰さんを踏み潰したんだよな……変に挟まって首の骨が折れて一撃死って言ってた。


「そうよ。私の秘蔵の官能小説を入れてる箱に、新作を納めようとしてたらね。」


 永峰さんが読んでた官能小説って、永峰さんが作者だったなんて、異世界こっちに来てから知ったんだ。


「でも何で車庫に置いてたんですか?」


「弟に見られたら恥ずかしいじゃない。」


 羞恥心を持ってたんだ。


「何を驚いてるの?もしかして私の裸でも想像した?」


「違います、ちっぱいなんて興味無いですから。」


 失言だったと後悔した。


「死ねや風間!」


 叫びながら、追い掛けてくる永峰さん。

エルフなのに何でなんだよ、と思いながら逃げ回る事になった。


 でも永峰さんって、僕より2年早くこっちに来てて、身体能力なんて僕より遥かに上で、あっという間に壁際に追い込まれた。


 そして、永峰さんが片手を突き出して、壁ドンしてくる。


「手足の1本くらい切り落としても、治癒魔法とか中級ポーションでくっつくから。」


 そんな事を言いながら斧を振りかぶったけど……。


「いじめはしないって決めてるの。謝ってよ。」


「ごめんなさい。」


「ん、よろし。胸もお尻も小さいのは仕方ないのよ。だってエルフだし、まだ肉体年齢って10歳位なのよ。長命種のダメな所よね。」


 精神年齢なんかは、探索者になってる永峰さんは成長するらしい。でも肉体年齢はエルフの物を参照するらしく、本来なら2歳くらいの肉体じゃないといけなかったのを、転生特典で10歳くらいの肉体に変えて貰ったらしいんだ。


「何で長生きしたいんですか?」


「そりゃ沢山エッチな作品を世に送り出したいからよ。」


 読むのも書くのも好きらしいんだけど、特に書く方が、書いて読んで貰う事が生き甲斐らしい。


「あとね、日本に帰らないって決めた理由は、異世界こっちだとR18なんて制限が無いから。これが1番大事。」


「そんな理由なんですか?」


 永峰さんの眉間にに2本も深いシワが寄った。


「わざわざ母親にお願いして出版社に持ち込んで貰ってたのよ。書いてる本人には小遣いしか入ってこないの。親が殆ど没収してさ。ふざけんなって感じでしょ?」


 まあ仕方ないんじゃないかな?だって永峰さんが官能小説を書き始めたのって……


「小学4年生が官能小説なんか書いてても、誰も読んでくれなかったんじゃ?」


「まあそうなんだけどさ。でも執筆活動するのに新しいPCとか欲しいわけじゃん。取材にも行きたかったのに、連れて行ってくれないし。」


 取材って……


「AVの撮影現場とか風俗じゃないわよ。私が書いてたのは異世界物よ!だから豚舎とか牛舎とかさ。そんなオークやミノタウロスを連想出来るような場所に連れて行って欲しかったの。」


 変わってる……


「連れて行って貰えなかったんですか?」


「連れて行って貰えたわよ。でもね、豚のキン○マとか牛のペ○スを撮影しまくってたら、2回目は無かったわ。」


 そりゃそうだろうよ。


「それと比べたらココは天国よ。だって本物のオークやゴブリン、ミノタウロスやケンタウロスまで居るんですもの。」


「ちょっとひきます。」


 永峰さんの顔がニヤッて歪んだ。


「風間君って、まだ未熟な童貞だから仕方ないわよね。ふっ。」


 鼻で笑われた。


「永峰さんは、経験あるんですか?」


「そんなものあったら取材なんてしないわよ。」


 ふって鼻で笑ったらグーで殴られた。


「そうだ、風間君。私の好みのゴブリンさんを教えとくから、ちょっと動画見に行こ。」


 知りたく無いけどな……


「どこに行くんですか?」「PVルーム。」


 永峰さんからずっと首筋に斧を突き付けられて、断れなかった。



 PVルームってのは研修生と引率しか使えない特殊な部屋なんだけど、普通の動画なら編集でカットされる部分まで見る事が出来るんだ。


 何で研修生と引率だけなのかって聞かれたら、かなり細かい補足が載ってるから。

戦闘に関する最適解が、分かりやすく纏めてあるんだ。


「風間君ってビデオカメラの構造に詳しくない?欲しいのよ自前のカメラが。って……」


 永峰さんの声が何処か遠くに聞こえてた。


「凄い。ゴブリンさん達が凄い……。」


 10級ダンジョンの動画の詳細解説を見てるんだけど、チート能力を駆使して戦う冒険者が凄いのは当たり前なんだけど……


「あらら、やっぱり男の子なんだね。」


 冒険者達は光って跳ぶ斬撃や派手な魔法をバンバン撃ち込んでるんだけど、ゴブリンさん達は……


「何で木の盾と棍棒だけで向かっていけるんだろ……」


 胴体を真っ二つにされても、残った力で冒険者の足にしがみつくゴブリンさんや、首だけになっても噛み付いて離れようとしないゴブリンさん。


 派手な魔法で吹き飛ぶのに、自分を盾で守ろうとせずに、周りに居るゴブリンさんの前に盾をかざして、自分が魔法を体で受けたり。庇われたゴブリンさんは、棍棒片手に飛び出して、硬そうな金属鎧の冒険者達に必死に棍棒を振り回して当てて、返り討ちになってる。


 実力差とかそんな話なんかじゃない、一方的な虐殺にしか見えないチート冒険者達を、誰1人逃げようともせずに必死に戦うゴブリンさん達を見て、何故か涙が出てきた。


「はい、ハンカチ。凄くカッコイイでしょ?ゴブリンだってさ。」


「ありがとう。カッコイイね。」


 永峰さんが優しい。こんな人だったんだな。


「今の動画に出てたゴブリン全員好みのなの。全員と仲良くなって紹介してよ。」


 と思ったら違った……



 時計を見たら19時を回ってたから、永峰さんと2人で社食に来たんだけど、永峰さんの食べてる物がおかしい……


「何でチョコバナナにコンデンスミルク掛けて舐めてるんですか?」


 僕が食べてるのは豆腐ハンバーグ定食なんだけど、永峰さんの食べてるのはご飯じゃなくておやつな気がする。


「これも官能小説の為よ。私の生き甲斐なんだから。」


 やっぱりエロ目線だった。


「中一の時に1度だけ話し掛けてくれたじゃないですか、あれはなんで?」


 エロ目線から話を逸らすのに、疑問だった事を聞いてみた。


「ずっと悔しそうな顔をしてるのに我慢してたでしょ?何を考えてるのか知らなかったけど、男の子ってエロ本とか貰ったら喜ぶでしょ?」


 うん、喜ぶよ。


「だから、私の書いた官能小説でも読んで、元気を出せよって言おうと思ってたんだけど、言葉に出す前に連れて行かれちゃったもんね。」


 そうだったけ? 連れて行かれて殴られるなんて普通にあったから覚えてないや。


「なんでずっと我慢してたの?」


 そんな事……


「怖かったから。息が出来なくなるのが、体が動かなくなるのが、怖かったから。」


 俯いて答えた僕には永峰さんの表情は見えなかったけど。


異世界ここでは、冒険者や探索者の資格を持ってたら死ぬ事なんか無いから、ぶっ飛ばしてやらないとだよ。」


 心の中で、やってやるって思った。



 永峰さんと社食を出て別れてから、自分の部屋に帰ってきた。師匠もアマリエッタさんも帰って無くて、久々のひとりぼっちだ。


「少しくらい永峰さんに協力してもいいかな?本気でゴブリンさん達の事が好きそうだし。」


 呟きながらテレビを付けて、本日のオススメ動画を再生してみる。


 サムネイルが真っ赤な画面に漢字で暴力と書いてあるだけの動画だったんだけど……


 永峰さんがバトルアックスを振り上げて、オークやボブゴブリンの混成軍団に突っ込んでいくシーンから動画が始まったんだ。


「凄い。華奢なエルフなのに斧の動きが残像しか見えない……」


 何百人居るんだろうか?ってくらいのゴブリンやオークが密集する中で、永峰さんの周りだけポッカリと穴が空いたみたく空間になってる。


 でも……


 ある程度空間が空いたら、オークやホブゴブリンの股間を握って、1人1人引き摺り倒して……


「柔らかいわね!おったてなさいよ!エルフを見たらいきり立つのがオークやゴブリンでしょ?参考にならないのよ!」


 なんて大声で叫んでる。


 その後は暴力が吹き荒れるだけの動画だった。

PVルームで見たゴブリンさん達は、自分を犠牲にしてでも勝とうとしてたのに、永峰さんと戦ってるオークやゴブリンさん達は我先に逃げ出そうとしてる。


「1人たりとも逃がす気は無いわよ。植物よ囲みなさい。」


 草原フィールドで戦ってたんだけど、永峰さんが操作したのか、草が伸びてオークやホブゴブリンの退路を完全に塞いだんだ。


「1人1人サイズを覚えて帰るから、大人しくしなさい。」


 そう言って、確実にR18な子供には見せられない動画が続いた。


 永峰さんが股間を握り潰して殺したオークさんやホブゴブリンさんは光の粒子に変わりながら涙を流していた。




「たっくん、ご飯はちゃんと食べた?」


 玄関を開ける音がして、アマリエッタさんが声を掛けてくれたんだけど、僕の見てる動画を見て師匠が適切な発言をしてくれた。


永峰アレは、日本で成長しとったら性犯罪者の道へ一直線で進みそうだの。」


 そんな師匠の言葉を聞いて。


「弟の股間を何度も露出させて、写生したり写真に収めたりしてたって言ってたから、日本に居た頃から確実に犯罪者よね。」


 アマリエッタさんが暴露してくれた。


 その日の夜は、涙に濡れるオークさんやホブゴブリンさんの顔が浮かんで来て、なかなか寝付けなかった。

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