結論は初動で出ていた。今更、遅いけれども

 私は破滅した。

 人から選ばれなかった。


 理由は単純だ。


 わたしは痴呆になった。


「おい!ちゃんと座ってテレビを観ろ!立ち上がるな!」

「はい・・・はい・・・」

「スープを、こぼすな!」

「はい・・・すんません・・・」


 妻は死に、わたしは特別養護老人ホームに入った。

 サイドビジネスと私の権力にひれ伏した者どもの献上してくれた物品で積み上げた貯蓄の全てを施設への入所費用と運営費用に注ぎ込んだ。


 多分、わたしは後更に20年は生きるだろう。


「おい!面会だ!」


 誰だろう?保険会社の人ぐらいしか・・・


「お父さん」

「おお・・・おお・・・」

「お父さん。どうして連絡してくれなかったのですか」

「お前の、お前の連絡先を忘れてしもうたのだ。ボケてしまって、本当に思い出せなかったのだ・・・」

「お父さん。真剣な話をします」

「なんだい」

「背中を、さすりましょうか」


 ああ。

 そうだな。


 背中をさするなど、お金もいらぬ、タダだからの。

 この子に気兼ねすることも何もないからの。


「頼む」

「はい」


 息子が私の肩から背中にかけて、規則的に何度も何度も右手のその肉厚の手の平を撫でおろしてきた。


 柔らかくはない。

 ただ、熱い。

 なんという熱だ。

 感冒にでも罹患しておるのか?


「?何をつぶやいておる」

「老婆と同じ言葉ですよ」


『そうか、そうか、よしよし・・・』


 ・・・・・・・・・・・・・


「あっ、おい!テーブルで寝るな!寝るなら部屋のベッドに戻れ!」

「ちょっと待て・・・」


 スタッフが私の手首を持っておるようだ。


「おい。医師を呼んで来い。死亡診断書一枚だ」

「ああ。南無阿弥陀仏阿弥陀仏」


 息子のお陰でなだらかに眠ることができる。

 よしよし・・・


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滅せ、それなら朽ち果て naka-motoo @naka-motoo

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