探し物の先に

 お嬢様は目覚める時、いつもキスを要求する。寝ぼけているのか、わざとなのか、どちらにせよこちらにとっては気が気でない。なぜならあの柔らかい唇に、あの女神と見間違うほどの美しい顔、の近くにいて俺を見つめてくるのだ。動揺しない奴は男でないと断言できる。やめろ、と言っても「えー」と言ってやめようとはしない。まあ、あの様子だとわざとそうしてる気がするのでやめようとしないのは納得できるけども。


それでも、上目でこっち見るのはやめようよ。


温かい紅茶をいれて、寝ぼけた彼女に手渡す。


「んー、いい香りだ。柑橘系の爽やかな香り……でも少しお湯の温度が低い。火にかける時間が短かったのか、……朝は忙しいのか?」

「……そうですね、後輩たちも起きますし少し慌ただしいかもしれません」

こういうとき、隠したりしてもすぐに明らかになる。だから正直に話してしまう方がよいのだ。

「そうか、ならば彼らの起きる時間をずらすことを許可しよう」

「ありがとうございます。さあ、お召し変えをしましょう。本日は資料集めの初日ですから」


彼女はベッドからゆっくりと起き上がった。立ち上がった彼女はその黄金の髪をくしゃくしゃにしてあくびをした。


「じゃあ、よろしく」


そう言って手を広げこちらに差し出した。


「はい」


彼女の寝間着は白いワンピースみたいなもので端々がレースで彩られ、その美しい肌を謙虚に飾り立てる。それを脱がせて、ドレスを着せて、化粧を施す。彼女の美しい顔を際立たせる(厚化粧が嫌いな彼女)のために化粧は薄い。薄紅の口紅とチークを少しつけるだけである。


彼女の仕事時の化粧は自分でしたほうがいいらしいのでそのときはお任せしている。


幼少の主人ならば教養をつけるために午前中は勉強をする。ダンスや楽器、学問などの知識をつけるのだ。しかし、このお人は踊りも音楽もそして学びも超一流のプロだ。それらは彼女にとって男をだます道具でしかない。


持っているものを重ねても重くなるだけだ。そこで彼女は午前中、領民の困りごとを解決することに充てる。


 だが今回は仕事が入ったので情報集めに挑む。


 マイクはいつも真顔だ。仕事中は特にその仏頂面を隠してくれない。集中するために顔の筋肉を落としている……らしいが、主人に会うのに真顔はどうかと思うのだ。まあ、いい。


執務室に紅茶の豊かな香りが満ちて、映える。

「今回はどのように致しましょう?」

「まずはゼヘラの情報が欲しい。マイク、ゼヘラが関係していると思われる新聞を……」

「こちらに」

そう言ってマイクは私が肘を置いている机に新聞の切り抜きがまとめられた冊子を置いた。

「さすがだな。相変わらず察しがいい」

「……ふむ、あいつらはかなり手強い相手のようだな」

「と、言いますと?」

「情報が少ない。……公に打ち明ける情報が少ないなら変に目立つようなヘマをしていないと言える。そこまでアホじゃない。そしてその情報は内容がバラバラだ。うまく隠れているのだな。……こうなると自ら調査をした方がいいだろう」

調査、……私のような大天使が本気になればそんなこと必要ない。だが私の力はなるべく使わないようにと、常日頃思っている。なぜならそれほどの力を人間界で酷使すれば人の世はあっという間に混乱に陥るだろうから。

「どのように致しましょう?」

「んー、知っていそうな人を読んで話を聞くのがいいだろう。……誰かいないか。」


「それでしたら昨夜の襲撃犯はどうですか?」

「……あー、あの男か。今下に繋いでるんだったな。尋問はまだしていなかったか?」

「はい」

「確かにあいつなら知ってるだろうな。……ふふ、楽しくなりそうだ」

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日常の生活 赤月なつき(あかつきなつき) @akatsuki_4869

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