第23話 特別編 すなっぷ

(スナップ…スナップ・ショットともいう。日常の中で、目の前の光景や出来事、人物などを一瞬のうちに素早くする撮影技法、またはそうして撮られた写真のこと。ありのままの日常の切り取り。)




3年前



僕とテテ、それぞれ東京の大学に合格し、

2人で住む部屋を探していた。

お互いの大学までの通学時間を考慮したり、

そこの街並みや日当たりや広さや築年数や…

友達2人で入居OKかどうかとか、

条件はキリがなかったけど…

結局二人で住めるのなら何処でも良くて、

初めて行く街や部屋を見て回る事が楽しかった。


今日は2件まで絞った物件のうち

どちらかに決めて契約したら田舎に帰る予定で

今、最終的にほぼ決まった部屋を確認中だ。


この部屋探しの為の上京は

テテのお父さんのマンション、

テテが高校生の途中まで過ごしていた部屋で

2.3日お世話になっていた。

それはそれで楽しかったし、テテのお父さんも

テテに少し優しくなった気がする。



「…お風呂の湯船、

僕のサイズだとこんな感じ。

狭いと思ったけど十分じゃない?」


部屋の中を確認して、

洗面所やお風呂も確認しながら空の湯船に入り

下からテテを見上げながら話した。

案内してくれている不動産屋さんは

最後に二人で相談して下さい、と、

部屋の外で少し待ってくれている。


「うん。狭ければお湯も少なくて済むしね」


いつものように、少し無愛想気味に話すテテ。

出会った当時はホント何考えてるんだ?って

思っていたけど、今はそんな話し方でも

僕に沢山話してくれるようになったし、

ぶっきらぼうでも彼の優しさを知っているから

彼の話し方が愛おしいくらい。


「おっ、倹約家っぽい」


「'ぽい'じゃないよ。

チィ婆ちゃんにその辺は鍛えられてるから」


「おぉー…」


「…ていうか、

二人でギリ入れるサイズ…十分だね」


「……いやー……?いやん。ダイタン」


「…そういう時もあるでしょ絶対」


「そ、そうかな?」


少しだけ恥ずかしくなってしまった僕の所へ

テテは重なるように強引に浴槽へ入ってきた。

…服着て何やってんだって感じだけど

これを素っ裸で…?いやいや恥ずかしいだろ。


「そうだよ。こうやって入るんだよ。裸で」


「…わかったよ。そういう時が、あったらね」


「……」


「な、ほら、どいて?出るから」


「……恥ずかしいの?ちょっと照れちゃった?」


分かってるような事を敢えて聞いて来るテテ。

楽しそうにからかってきて、

いつもの凛々しくカッコいい目をキラキラさせ

目尻を少し下げ、蕩けるような笑顔。


「ほら!不動産屋さんが戻ってくるから…」


「照れちゃった?」


「…ああ、いいだろ、ッ…」


「………」


無言で顔を近づけてくる。


「なっ何!」


「…楽しみだね。二人暮らし」


「ああ」


「…ここにしようか」


「…うん」


テテの両手が僕の頬を包んで、

今にもキスをされそうな距離。


部屋を決めるのって、

もっと事務的なものだと思っていた。


こんな日常も、いつもの日常も、

テテと過ごす時間はただただ心地良くて

…ドキドキして。

更にこれからはここで、誰にも邪魔されない、

2人だけの時間が過ごせるってだけで

ドキドキが増してしまう。


こんなふうに、日常が、彼によって

いくつもの刺激的瞬間で決定的瞬間に変わる。


「ミミ、楽しみだね。これから」


「うん」


「…フッ…素直でいい返事」


テテが笑う息が顔にかかるし

テテの手が優しく撫でるように動いて

頬から耳、後頭部の方まで指が伸びてくる。


「だっ、だってテテが同じこと聞くし…

……凄く、楽しみだし…」


「……」


'ミミ、キスしたい'とか

'ミミ、キスして'とか

いつも言われてきてたけど…

後頭部に伸びた長い指…テテの大きな手が

僕の頭を優しく包んで動けなくなったところで

少し強引に唇を重ねられた。

……甘い。

テテから、無理矢理という程でもないけど

有無を言わさずされるキスで…

唇がしっとりと、でも、もどかしく動く。

もっと深くキスしたいけど…

これ以上続けたら、止めるのが辛くなる。

気持ちが蕩けて身体が反応してしまう…


「……ッ…もう出ないと、不動産屋さんが…」


少しだけ離れるようにテテの胸を押し、

顔を背けるように視線を下に移した。


「……あ、」


「ぁーーー………ね?

……反応して、困る日がくるとは…」


EDだから、と、自分で、

反応しないのが当たり前と思っていたテテの

ズボンの前が明らかに張り詰めていた。

困っているのか、少しだけ呆れたように

眉を下げて僕に微笑んでくるテテ。

…今すぐ、誰にも邪魔されない所へ

行きたくなってしまうじゃないか……


「………テテ…もぅ……早く帰ろ………

今日は…どこかホテル…泊まっちゃう?」


「だね。ホテル行こ」



これから住むマンションの部屋を出て、

不動産屋さんで契約して、

ほんとなら田舎の家に帰るのに…

どうしても我慢出来ずにホテルに一泊した。










PM10:00 (現在)



「ただいまー」


「おっ、早かったねぇ?…んー良い匂い」


「ん。…自転車いい感じだった」


「フフッ…自転車、便利だろ?」


都会で育ったテテは、

5年前まで自転車に乗れなかったのに

今では乗り回せるようになったようだ。

やはり歩いて済ませられる距離でも、

15分歩くより5分に短縮してくれる自転車を

新調して良かった。


田舎から東京へ引越し、大学に入学して3年。

同棲して3年。

今日は近くの店で夕ご飯をテイクアウトをし、

ポテトの香りと共にテテが帰って来た。


手を洗うテテを待ちつつ、

小さい二人用のダイニングテーブルに

ハンバーガーやポテトを並べる。


「俺もミミと同じハンバーガーにしたー

結局いつもミミの食べちゃうしー」


「あ、本当だ。

あれ?けどハンバーガー4つある」


「んー。食べれそうだと思って。

ていうか、食べちゃえー…と思って」


まだ少し濡れている手をヒラヒラ乾かし

僕の目の前でも乾かしながら

後ろから体をくっ付け腕でハグされた。

日常の当たり前な密着…

慣れたって言えば慣れたけど、

…ドキドキは、少し、する。


「…どうしたの。テテはどんな気分?」


「……仕事、休もうかと思って」


「……なんで?」


「大学も忙しくなったし、

…やっぱり、もっとカメラの勉強したいんだ。

…静止画だけじゃなくて、動画も…」


「……僕も、仕事休もうかと思ってた。けど、

モデルの仕事はテテといつも一緒にいれるから

…どうしようかなって…」


「……ミミも違う事…っていうか

モデルの仕事も忙しいし大学忙しいから

最近出来てないみたいだけど…

映画とか脚本とかの勉強、

もっとしたいんでしょ?時間が足りないよね」


「……うん」


テテと僕は、生活費を稼ぐ為と

少し将来の夢に近づける仕事として、

主にメンズ雑誌のモデルを順調にこなしていた。

こんなに上手くいくとは思わなかったけど、

私生活が探られて騒がれるほど

注目されるようなモデルになってしまった。

ゲイや同性カップルなどと騒がれても

意地になって続けてきたし、

テテの過去の彼女が中絶しただの噂が出た時も

テテが優しく彼女を守った事実が判明され、

イメージダウンから手の平返しで

好感度爆上がりという流れまでもずっと、

ダンマリを続けて仕事も続けてきた。


「モデル、辞めようかな…

バイト暫くしなくて済むくらい貯金出来たし」


「俺との時間は…モデルの仕事しなくても

一緒に住んでいるんだし…

ミミが邪魔って言っても俺はミミといるし」


「…うん」


「ミミ?」


テテが後ろから

僕の肩に顔を乗せて覗き込んでくる。


「……お腹すいてるんだろ?」


「へ?」


お腹が空くと、少し不機嫌になったり

元気が無くなるテテ。

けど、ポテトの美味しそうな匂いの中でも

僕はテテと……

こんな衝動、何度目か分からないけど…


「抱いて。今…」


「今…?フッ…

そんな顔してそんな事言われたら

俺だって我慢出来るわけないでしょ…ミミ…」


僕の名前を囁きながら耳を舐めてくるし、

後ろから密着している下半身は

明らかに反応していて、

僕をどうしようもなく煽ってくる。


「…ッ…」


思い切り首を捻って振り返り、

テテの唇に唇を重ねる。

自然と、でも勢いよく体も振り返るようになり

テテの体とぶつかった。

貪るように深く唇を重ねながら、

テテは腰を押しつけてきて…

テテの手が僕の腰やお尻を引き寄せるけど

その力よりもテテの体に押されて

ダイニングテーブルにお尻がぶつかった。

僕は僕でテテにしがみつく。

両腕をテテの首へと巻き付けてしがみつくと、

少しだけ体が浮いて、ダイニングテーブルへ

座るような体制になった。

テテが自分のシャツのボタンを外しだしたから

僕もTシャツを脱いだその時…

剥き出しになってしまった脇腹、弱い所に

テテがそっと手を這わせてきた。


「……ッ…」


重ねる唇から、漏れそうになる僕の声…

跳ねてしまう体を誤魔化すように

またテテにしがみつく。

…テテの手は止まらずにズボンの隙間へと進み

撫でるように肌を這うと同時にパンツを下ろす。

…目で見なくたって、

反応している事は明らかなのに

わざわざ唇を離してテテが視線を下ろした。

'抱いて'と言っときながら

恥ずかしさが込み上げてくる。

テテは…お構いなしに恥ずかしい所を見つめ、

その頭の液体を舐めるように

キスを落としてきた。




今じゃなくても…

ここじゃなくても…


すぐ近くにあるベットにも移動せずに

最後までした。



けど、キスや、体を繋ぐ行為は、

いつでもどこでもとても衝動的で…


刺激的瞬間で決定的瞬間は

テテが撮った写真のように当たり前に増えていく。



これからも僕達の'瞬間'は、輝き溢れていく。




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